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ふたりきり

続きです!ぜひ読んでください!

イルカショーが終わって、人の波から少し離れた場所に出ると水瀬が手を叩いた。

「はーい。じゃあ言ってた通りここから四時まで自由行動にしよ」


「……」

来た……!自由行動!

水瀬が俺と莉子ちゃんを二人にしてくれるんだよな……?


期待と緊張で胸が高鳴ったその瞬間。


「莉子一緒に回ろ〜!」

木南が勢いよく莉子ちゃんに詰め寄った。


「え……」

「いいよ〜」

即答!?まじか……やばいじゃん!


一瞬、水瀬を疑った時、背中をポンッと叩かれた。それと同時に水瀬が木南と莉子ちゃんの間に入っていく。


「鈴香も行こー!」

「私も三人で行きたいんだけど……有栖どこいくつもり?」

水瀬は少しトーンを落として呟いた。


「え〜?やっぱふれあいかな〜。イルカが触れるんだって!」

「え……」

莉子ちゃんの顔が一瞬こわばった。


「それ誰と行くつもりなの?」

水瀬が尋ねると――


「ん〜?だから莉子と……あっ!」

木南は目を見開いた。


「……あはは。ごめん」

すると莉子ちゃんは笑いながら小さく謝った。


「えっ……」

どういうことだ?


「なになに?天城さんはふれあいできないの?」

俺と全く同じことを気になっていた柴田が首を傾げる。


「ふれあいは……ちょっと厳しいかなぁ」

莉子ちゃんはちょっと恥ずかしそうに俯いた。


「莉子は猫以外の動物触れないの」

「そうなんだよね……怖くて」

「ぐっ……」

かわいすぎて変な声出た……俺が守ります……


「私はいいよ。有栖と鈴香で行ってきなよ」

莉子ちゃんは優しい表情で二人を見つめる。


「俺もふれあいしよっかな。浅倉は……あっ。浅倉も動物触れなかったんだっけ」

「え?別にそんなこと――」

そこで気づいた。今のは柴田の最高のパスなのだと。


「――あるか。俺も動物触れないんだよね……」

ギリギリで反応できた俺に莉子ちゃんは微笑みかける。


「そうなの?一緒だね」

「あはは……一緒一緒……」

「じゃあ……二人は来ない?」

木南が申し訳なさそうに尋ねる。


「うん。ごめんね」

「俺も……遠慮しとこうかな」

「じゃあ決まりだね」

水瀬が満足そうに頷く。


「有栖と私と柴田はふれあいコーナー。浅倉と莉子は別行動ってことで大丈夫かな?」

「うん。楽しんできてね」

莉子ちゃんの横で俺も頷く。水瀬への感謝を込めて。


「莉子の分までイルカ触ってくるから!」

木南が元気よく腕を振り上げると、柴田も「はいはい」と肩をすくめる。


「じゃ。またあとで集合ね」

水瀬はそう言って俺の方をちらっと見た。そして軽く笑いながら小さな声で囁く。


「……頑張って」

その一言に心臓が跳ねた。まるでリレーのバトンを渡されたような感覚だった。


三人が人混みの中に消えていく。残ったのは俺と莉子ちゃんだけ。


「……」

「……」

まじで二人きりだ。一瞬で静かになる周囲の空気。

さっきまでの喧騒が嘘みたいに遠ざかって、かすかな水音だけが耳に残る。


「えっと……」

莉子ちゃんが少しだけ首を傾げた。


「浅倉くんは一人で回りたい……?」

「えっ?」

意外な問いかけに少しびっくりする。でもそうか。自由行動だからこっから俺と莉子ちゃんが分かれる可能性もあるのか……!


「いやえっと……」

誘え。誘わなきゃダメだ……!


「……ふ、二人で回りますか……?もちろん……!全然天城さんの都合で大丈夫なんだけど……!」

言葉もめちゃくちゃ。多分、顔も赤いしほんとにダサい。でも……誘えたってことがちょっと嬉しかった。


莉子ちゃんは一瞬きょとんとした後、ふわっと柔らかく笑った。

その笑顔がとても優しくて見てるだけで胸が熱くなる。


「じゃあ一緒に行こっか。一人だと寂しいもんね」

「う、うん!」

声がちょっと裏返った。情けないけど嬉しさが上回ってそんなのどうでもいい。


「どこ……行こっか?」

俺は声を震わせながらも尋ねる。


「見てないとこまだ結構あるよね」

「じゃあ順番に回ろっか……?」

「うん。あ、でも——」

莉子ちゃんは足を止めて、少し考えるように視線を泳がせた。


「ペンギン、もう一回見たいな」

「ペンギン?」

「うん。なんかあのよちよち歩きがかわいくて。有栖撮ってたから私のスマホで写真撮れてないなって」

その言葉と同時に彼女の笑顔がふわっと灯る。

それを見た瞬間、俺の中で行き先とかが全部どうでもよくなった。

どこだっていい。ただこの笑顔を見ていられるのなら。


「じゃあ……ペンギン見に行こうか」

「うん!」

莉子ちゃんが軽く跳ねるように返事をした。


二人並んで歩き出す。すぐ隣から聞こえる小さな足音。

これって周りから見たらカップルとかに――そんな想像がよぎるが頭を振って現実に帰る。

ないない……!勘違いすんな。調子乗んな……!少しずつ距離を縮めてけ……


ペンギンコーナーへ向かう通路はさっきまでのショーの喧騒が嘘みたいに静かだった。

遠くで聞こえる水の流れる音と小さな子どもの笑い声がぼんやりと混じっている。


「そういえば浅倉くん。イルカショーの時すごい真剣な顔してたね」

「そうかな……?」

「ふふ、うん。ちょっと笑いそうになった」

莉子ちゃんは口元を押さえて笑った。


「なんかすごいなって思ってさ。あんなに息ぴったりで」

本当はあなたが隣にいて緊張してたんです……


「確かに。人間よりチームワークいいかも」

「それは否定できないね……」

二人で笑い合う。たったそれだけなのに空気が少しずつ柔らかくなっていくのが分かる。


「ついたっ」

莉子ちゃんが立ち止まった先、ガラスの向こうではペンギンたちが泳いでいた。青い水の中をすいすいと滑るように進み、ときどき陸に上がっては羽をバタバタさせる。


「やっぱりかわいい」

莉子ちゃんの声が小さく漏れる。


「……確かにかわいいね」

莉子ちゃんはスマホを取り出してカメラを開くと、俺の方を見た。


「浅倉くん、撮ってくれる?」

「俺が?」

「うん。なんか自撮りだと上手く入らなくて」


「う、うん。任せて」

緊張で手が少し震える。莉子ちゃんのスマホだ……物までかわいく見えてきた。


「じゃあお願い」

莉子ちゃんはガラスの前に立って、控えめに微笑んだ。青い光が髪に反射して、いつもより透明感が増してる。


「と、撮るよー……」

「はーい」

「はい。チーズ」

パシャッ。

撮った写真を確認する。ふわっと笑う莉子ちゃんの後ろにはペンギンが二匹。

ペンギンが霞むくらいの存在感。……死ぬ。かわいすぎて。


「も、もう一枚撮ってもいい?」

「うん。どうぞ」

今度は少し角度を変えて撮る。シャッターを切った瞬間、莉子ちゃんの後ろでペンギンがタイミングよく跳ねた。


「おお……」

「え、どうしたの?」

「いや……今ちょうどペンギンが……すごい良い感じだった」

「ほんと?見せて〜」

莉子ちゃんがすっと俺の隣に寄る。髪が肩にかかってかすかに触れた気がした。

その瞬間、思考が全部ショートする。


「ほんとだ……跳ねてる。かわいいね」

「そうだね……」

あなたがね……


「ありがとう。浅倉くん写真撮るの上手だね」

「そんなことないよ……」

声が裏返りそうで、慌てて咳払いする。


莉子ちゃんはそんな俺を見て小さく笑った。

「浅倉くんって、思ってたより照れ屋さんだね」

「え!?そ、そうかな……」

「うん。なんかかわいい」

「……え」

殺す気か?莉子ちゃんの一言で完全に思考が停止した。嬉しいのにまともに返事もできない。


静かに水が流れる音。ペンギンがガラスの向こうでくるりと回る。隣には笑う莉子ちゃん。


こんな時間がずっと続けばいいのに。

ありがとうございました!

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