表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/52

イルカより

ぜひ読んでみてください!よろしくお願いします!

フードコートを出て少し歩くと潮の香りを含んだ風がふわっと吹いてきた。

外のステージに近づくにつれてざわめきと笑い声が大きくなる。


「うわっ。ここは人多いね」

木南が目を丸くして言う。


「館内のみんな集まってきてるんでしょ。ここのすごいらしいし」

「前の方はもう埋まってるっぽいな」

ステージの前には青いポンチョを着た観客がぎっしり。さっき話していた“水がかかるゾーン”はすでに満席だった。


「よかった。これでかからないね」

水瀬がホッとすると木南は隣で肩を落としていた。


「じゃあここら辺にしよっか」

莉子ちゃんは横に一列空いた席を指差した。真ん中よりちょっと前くらいの位置で水もかからない上によく見えるという最高の位置だ。


「おっけー!」

木南が親指を立てて最初に座る。

その隣に水瀬、莉子ちゃん、俺、柴田の順で並んだ。莉子ちゃんの隣に座らせてくれるこいつら……大切にしたい。


「お、結構近いな。ステージの端までちゃんと見える」

柴田は座りながら呟く。


「イルカってどの辺から出てくるんだろ」

「十分もしたら出てくるよ」

時刻は十二時五十分。イルカショーが始まる一時まで後十分だった。


「待ってる間に写真撮ろ〜!五人で映ってるのまだないし!」

木南はそう言うと、ポケットからスマホを取り出した。それと同時にみんな写真を撮る体制に入る。


また莉子ちゃんの隣で写真……!?こんなことあっていいのか?


「五人だからもっと詰めて〜」

カメラを構えた木南が呟く。


「もっと?」

木南の言葉に柴田はニヤッとしてから俺を押してくる。


「ちょ……」

押されてどんどん莉子ちゃんに近づいていく俺。


「悪い。詰めないといけないから」

「もっと詰めていいよ?」

莉子ちゃんも俺の方を見てそう言う。


「……そ、そう?じゃあ……」

「うん、ほら」

俺は少しだけ体を莉子ちゃんに寄せる。その距離は五センチもない。


「はいは〜い!みんな笑って〜!」

木南の声が響く。


「いくよー!せーのっ!」

カシャッ。スマホのシャッター音が鳴った。


「おっけー!いい感じ!」

木南が画面を見て満足げに頷く。


「あとでグループに送っとくね」

「うん。ありがと」

莉子ちゃんの隣で俺も小さく頷いた。一日で二回も……これはやばい。


その後もドキドキしながらイルカショーの始まる時間を待っていた。莉子ちゃんがたまに俺を見て話しかけてくれるのがたまらなく嬉しくてイルカショーなんて正直どうでもよくなっていた。


一時ちょうどになると、スピーカーから軽快な音楽が流れ始めた。


「きたー!」

木南が立ち上がりそうになるのを水瀬が引っ張って止める。


「立たないの。後ろの人が見えないでしょ」

「うっ……はい……」

水面の向こうから白と灰色の体が勢いよく跳ね上がる。イルカショースタートだ。


イルカが高く跳び上がった瞬間、観客席全体から歓声が上がった。

太陽の光を反射した水しぶきがキラキラと舞ってまるで空に虹がかかっているみたいだ。


「すごい……」

莉子ちゃんが目を輝かせながら声を上げる。

俺はイルカじゃなくて、その横顔をただ呆然と見つめていた。


ステージではイルカが次々とジャンプを決め、観客の拍手と歓声が波のように押し寄せてくる。

水が高く飛んで、前列のポンチョ組が一斉に悲鳴を上げた。


「うわっ、危なっ!」

木南が身をのけぞらせる。


「ここまでは飛んでこないでしょ」

水瀬が笑いながら言うと莉子ちゃんも小さく笑った。


「次は一番の大ジャンプです!」

アナウンスの声が響く。


トレーナーがステージ中央で合図を出すとイルカが一直線に飛び上がり、タイミングを合わせて水面にダイブした。


観客席から「おおーっ!」という歓声が沸く。


「すごいね……!」

莉子ちゃんが嬉しそうに俺の方を見て言った。


「うん……すごい」

返しながらもちゃんと笑えてる自信がなかった。

ただその距離の近さに、心臓の音が聞こえてしまいそうな気がして正直、それどころじゃなかった。


そのあともショーはどんどん盛り上がっていく。

ボールを使ったトリック、同時ジャンプ、ラストの連続スピン。

ステージの上では水しぶきと歓声が交差していた。


最後のジャンプが決まると同時に観客席から大きな拍手が起こる。

その音の中で莉子ちゃんが小さく呟いた。


「……なんかずっと見てられるね」

「うん……見てられる」

思わずそう返したけど俺が見てたのはイルカじゃなくて――。


イルカたちはステージ中央に並びトレーナーに合わせてお辞儀をするように頭を下げる。


「かわいい〜!」

木南が思わず立ち上がって手を振る。

それを見て水瀬も「子供じゃん……」と笑いながらつられて手を振った。

その横で莉子ちゃんも笑っていてその笑顔が眩しくて、俺は少しだけ目をそらした。


音楽が止まり、アナウンスが流れる。


「本日のイルカパフォーマンスは終了です。出口は――」

「楽しかったね!」

莉子ちゃんが席を立ちながら言う。


「うん。思ったより迫力あった」

柴田が伸びをしながら言って俺も頷く。


「イルカめっちゃかわいかった〜!写真もっと撮ればよかった〜」

木南がスマホを見ながら名残惜しそうに言うと


「もう十分撮ってたでしょ」

水瀬が笑ってそう言った。


人の波が出口に向かって動き始める。

その中で莉子ちゃんが俺の方を振り返って微笑んだ。


「ねえ浅倉くん」

「ん?」

「……さっきのジャンプのときちょっと水かかったよね?」

「え?俺?」

「うん。ほら」 

莉子ちゃんは小さく笑って自分の指先で俺の髪の横をちょんと触れた。


「ここ。ちょっとだけ濡れてる」

「……っ」

触れたのはほんの一瞬だった。でも俺を破壊するには十分すぎた。


「ごめんねっ。気になって」

そう言って莉子ちゃんは人混みの方へ歩いていく。


「好き……」 


「おーい!こっちー!」

木南たちの声がして俺も慌てて後を追った。


潮風がまた吹いて髪が少し揺れる。ほんの少しだけ残った水滴と指先の感触。

多分、今日のイルカより俺の心臓のほうが跳ねてた。


ありがとうございました!

感想、評価、ブックマークをぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ