最強の味方
20話です!よろしくお願いします!
「浅倉って莉子のこと好きでしょ」
水瀬にそう言われた瞬間、周りの音が何も聞こえなくなった。
心臓の音がやけに大きく響いて、頭の中が真っ白になる。
前を歩く莉子ちゃんはまだ三人で笑っていて、水瀬の言葉は聞こえていないようだ。
今、水瀬は確かに「好きでしょ」って言った。からかう感じでも、笑うでもなく。まっすぐ淡々と。
「……な、何言ってんの、水瀬」
無理やり笑おうとしたけど、顔が引き攣ってしまう。逆に焦ることもできなかった。
「何言ってるんだろうね」
水瀬は視線を前に戻した。けどその横顔はどこか探るようでもあり、優しくもあった。
「…………」
バレた。水瀬にバレてしまった。分かりやすかった?じゃあ莉子ちゃんにもバレてるのか……?ていうか水瀬にバレた時点で莉子ちゃんにも――
焦りが追いついてきた時、水瀬が呟いた。
「……別にバラしたりしないよ」
前を歩く三人の背中を見つめたまま呟いた。
「え……」
水瀬は俺を見ず、淡々と歩きながら言葉を続けた。
「莉子も多分気づいてないし、私も莉子に言わないから」
「い、いや……でも、その……」
何を言えばいいのか分からなかった。水瀬の言葉は信じられるけど、認めようとすると言葉では言い表せない感情に襲われた。
古川たちとは訳が違う。水瀬は莉子ちゃんの親友だぞ?
「……まぁ。そりゃ分かるよ」
水瀬が小さく笑う。
「今日の莉子はかわいい。浅倉じゃなくても動揺すると思う」
「……だよね」
つい本音が出てしまう。水瀬がちらっと横目で俺を見て口の端を少しだけ上げた。
「ほら。やっぱり」
「あっ……」
やってしまった……莉子ちゃんのかわいさには抗えない。
「いいじゃん。好きなんでしょ?認めなよ」
水瀬は距離を詰めて、俺の顔を覗き込んできた。自分のかわいさを知ってるやつの動きだ。
「そ、そんな簡単に言うけど……」
水瀬は少し肩をすくめて、わざとらしくため息をついた。
「……あーあ。せっかく協力してあげようかなって思ってたのに」
「協力って……?」
思わず聞き返すと、水瀬は前を向いたまま、口元だけでにやりと笑った。
「さぁ?言わないよ。まだ好きって言ってないし」
水瀬はいたずらに笑って、わざと俺を目を見つめる。
「認めたら協力したいなって思ってただけー」
その目が冗談みたいで冗談じゃなかった。笑ってるのにどこか試してるような。そんな瞳。
「……っ」
喉が乾く。頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。
ここで水瀬に隠してメリットあるか?誤魔化しても意味ない。だってもうとっくにバレてる。
本当に協力してくれるならこれ以上ない味方だ。ここは正直に言った方がいいんじゃないか?
俺の中で考えがまとまった。俺は水瀬を味方につけることにした。
「……めちゃくちゃ好きだよ」
俺はボソッと呟く。前にいる莉子ちゃんを見てさらに顔が赤くなった。
「……」
水瀬の目が一瞬だけ見開かれる。
「莉子ちゃんのこと好きだ」
言い切った瞬間、胸の奥に溜まってた何かが一気に流れ出して息が震えた。怖いのに少しだけすっきりもしてた。
水瀬は何も言わずしばらく前を向いたままだった。それから小さく笑って呟いた。
「……莉子ちゃん?」
「あ……」
「いつもはそう呼んでるんだ?」
水瀬のニヤニヤは止まらない。
「うるさいな……」
「あははっ。でもいいよ。愛が伝わるから」
「揶揄ってんだろ……」
「揶揄ってないって。好きって認めてくれてちょっと嬉しいだけ」
水瀬はそう言いながら前を歩く莉子ちゃんの背中をちらっと見た。
「やっぱ好きかぁ。まあめっちゃ見てるもんね」
「そんなに見てる……?」
「ちょー見てる」
即答されて言葉が詰まった。
「……莉子ちゃんは気づいてないの?」
「多分ね。莉子はああ見えて鈍感だから。さっきだって本気で心配してだと思うよ?気づいてたらもっとぎこちなくなってると思うし」
「そっか。よかった……」
安堵した俺を見て、水瀬はまた小さく笑った。
「でも気づくのも時間の問題かもね」
「……え」
「今日の浅倉は流石に分かりやすすぎ。ずっと真っ赤だし」
「うっ……」
反論できない。確かにここまで動揺してたら誰でも気づく。
水瀬はそんな俺の様子を見て、肩をすくめる。
「ま、いいや。とりあえず――」
口元にはいたずらな笑みを浮かべ、俺の方を見る。
「今日一日、バレないように私がフォローしてあげる」
「えっ……いいの?」
「いーよ。協力するって言ったじゃん」
そう言う水瀬の表情はとても頼もしかった。
「ありがたい……けど俺に協力してくれるのは何で……?」
水瀬には俺と莉子ちゃんを繋げるメリットなんてないはず。
「別に理由なんてないよ」
そう言いながら水瀬は少しだけ前を歩く。背中越しに軽く肩をすくめた。
「強いて言うなら友達が楽しそうに笑ってるとこをもっと見たいだけ」
「……莉子ちゃんの?」
「うん。ここ最近、莉子は浅倉と話してるとき、なんか楽しそうだから』
「え?ちょ。ちょっと待って……それどういう意味……」
「さぁ?」
水瀬は振り返り、にやりと笑ってから前方の三人に合流した。
「有栖、何の話?」
「あっ!鈴香聞いてよ!柴田くんが――」
三人の話に混じっていく水瀬。俺はその姿を見つめながら呆然としていた。
さっきまで俺の胸の内をえぐっていた張本人が何事もなかったみたいに笑ってる。そして水瀬は俺の秘密を知っている。
それが少しだけ、くすぐったく感じた。
『莉子は浅倉と話してるとき、なんか楽しそうだから』
さっきの言葉が頭から離れない。
そんなことない。そんなことあるわけないのに期待してしまう自分もいた。
「でも水瀬が味方か……」
俺はもしかしたら最強の味方をつけてしまったのかもしれない。
嬉しいのか焦ってるのか分からない感情のまま、俺は四人を追いかけた。
長々歩いてきてやっと改札を抜けると、莉子ちゃんが振り向いて、目が合った。
その瞬間、胸の奥で何かが弾ける。
「ホームまで長かったね〜。もうちょっとだよ」
水瀬と入れ替わる感じで今度は莉子ちゃんが俺の隣に並んできた。
「……そ、そうだね」
平静を装って返したけど声は震えていた。俺たちは並んで階段を降りる。
「鈴香と何話してたの〜?」
「えっ?あ……いや。その……」
"あなたのことを好きって自白してました"なんて言えるわけがない俺はあたふたしてしまう。
「ふふっ、そんなに焦らなくてもいいのに」
莉子ちゃんは笑いながらホームに立ち止まった。俺はさっきの水瀬より距離を開けて俯く。
「そんなに焦るってことは……なんか変な話してた?」
開けた距離を詰めてきて見つめてくる莉子ちゃん。
「ち、違う違う!水瀬がちょっと……からかってきただけだよ」
「そっかそっか。鈴香だもんね」
莉子ちゃんはくすっと笑った。その笑顔をチラッと見ただけで、また顔が真っ赤になる。
「浅倉くん、さっきから顔赤いけど大丈夫?」
「そ、そうかな……」
「うん。熱でもあるんじゃ――」
そう言って莉子ちゃんが俺の顔を覗き込んだ。今度はバッチリ目が合った。
心配そうに俺を見つめる莉子ちゃんと数秒間見つめ合っていた。
その数秒間で俺はもう好きとかの次元を超えてしまった。
「……あっ。ごめん」
莉子ちゃんがふっと視線を逸らす。ちょうど電車が来て、その光で莉子ちゃんの表情はよく見えない。
「俺は大丈夫だよ……!体調も過去一くらいでいいし……!」
これ以上莉子ちゃんに心配をかけまいと俺はわざと大きな声で言い張った。
「それならよかった……じゃあ今日は楽しもうね」
電車が到着して、表情が見えると莉子ちゃんは俺に微笑みかけていた。
俺はその笑顔を焼きつけるように見つめながら小さく頷いた。
「うん……楽しもう」
電車のドアが開く音が響く。ホームに流れ込む風が莉子ちゃんの髪をふわりと揺らした。ドアが開くと莉子ちゃんは前を向いて歩き始めた。
「ほら浅倉くん。早く」
振り向いて手招きするその笑顔はとても優しかった。
「うん……」
頷きながら俺の胸の奥でさっきよりも"好き”が脈を打っていた。
今日、何かが変わる。そんな予感だけが確かに鳴っていた。
ありがとうございました!
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