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水瀬鈴香

続きです!よろしくお願いします!

心臓がバクバク鳴っている。頭の中は莉子ちゃんの「おはよ」で全部上書きされた。なんであんなにかわいいんだ……

トイレに行くなんて完全に嘘だ。とにかく距離を取らないと死ぬ。


駅構内を全力で駆け抜けて、適当な柱の影に身を隠す。


「あぶねぇ……」

息を整えようと壁にもたれて深呼吸を繰り返す。

駅の中は通勤客と他校の生徒でごった返していて、遠足前の俺は少し浮いていた。


「落ち着け……落ち着け俺……」

自分に言い聞かせながら顔を覆っていると――


「浅倉!おはよ!」

柴田が笑顔でこちらに駆け寄ってきていた。


「柴田ぁぁ!!」

俺は柴田を見つけた瞬間、走り出して、足元にしがみついた。


「えっ、何々!?」

急にしがみつかれた柴田は困惑する。


「助けてくれ柴田ぁ……!」

「いや助けるって何を!?怖い怖い!」

柴田が半歩下がる。俺は必死に息を整えながら顔を上げた。


「莉子ちゃんがかわいすぎるんだよ……」

「……は?」

柴田の表情が一瞬で固まる。


「私服にメイクはずるいだろ……いつもの姿にやっと慣れてきたっていうのに……」

「そういうことかよ……」

柴田はやれやれって感じで頭を抑えた。


「やばいって……もたないって」

「そんで逃げてきたの?」

「逃げたっていうか身を守ったんだ」

「物は言いようだな……でも行かなきゃ始まんないから。ほら行くぞ」

柴田は俺の腕を掴んで引っ張った。


「ちょ……!まだ心の準備が……」

「かわいい莉子ちゃん、見なきゃ損だぜ?」

「そうだけどさぁぁあ……」

俺は引っ張られるがまま、三人の元へ連れていかれるのであった。


俺は柴田に連れられてロータリーに戻ってきた。深呼吸をして呼吸を落ち着かせる。


「どこ?」

「向こうのベンチ」

ノールックで指を刺す。


「あっ。いたいた」

柴田は三人に気づくと、小走りを始めた。引っ張られる俺ももちろん小走りになる。


莉子ちゃんたちの姿が近づくにつれて、心拍数はまた跳ね上がっていく。

木南と水瀬が笑いながら話していてその間にいる莉子ちゃんがふとこちらを向いた。


目が合った。


「……っ」

肺の空気が一瞬でなくなる。


「浅倉?」

柴田が横で俺の肩を叩く。


「やばい。固まってる固まってる」

「ちょっと無理かもしれん……」

声が情けなく震えた。


「何が無理だよ……!こんなチャンスねぇぞ……」

柴田が小声で怒鳴る。


「分かってるけど無理ぃぃ……」

でも足は莉子ちゃんの方に動く。私服が見たい俺と見たら死ぬと分かっている俺がせめぎ合っている。


三人の前に再びやってくると、木南の元気な声が聞こえてきた。

「あっ柴田くん来た!浅倉くんも戻ってきたね〜」


「おはよ〜。俺ビリか、待たせちゃった?」

「ううん!今来たとこ!」

「そっか。ならよかった」

何でこいつこんな普通に話せんの……!?あれか?妹がこのレベルでかわいいから感覚がバグってんのか!?


柴田にムカついていると水瀬が声をかけてきた。


「浅倉は何をしてるの?」

柴田の後ろに隠れていた俺に声をかける。


「え……?」

今話しかけます……?


「ねぇ。何してるのって」

黙って隠れていると水瀬が追求してくる。


「鈴香。ちょっと言い方ちょっと怖いよ〜」

莉子ちゃんが俺を庇ってくれた。


「そうだった?ごめん浅倉。でも気になるじゃん」

「……ごめんごめん。何でもないよ」

俺は目を伏せたまま柴田の横に出た。


すると、莉子ちゃんが少し心配そうに覗き込んできた。

「浅倉くん大丈夫?走ってきたからかな?顔赤いけど……」


近い近い近い近い。

香水でも柔軟剤でもない、ふわっとした甘い匂いがして、頭がショートしそうになる。


「……っ、あ、あっ」

舌がもつれて言葉にならない。


「本当だ〜顔あっか」

木南も俺の目を見つめてきた。


「大丈夫だって!」

柴田が俺の前に立って誤魔化してくれる。


「ほんとに大丈夫?」

莉子ちゃんはまだ心配そうに俺を見ていた。

その視線に耐えきれず、俺は完全に目を逸らす。


「あっ……うん。全然、大丈夫」

声が裏返った。完全にアウト。


「……?」

莉子ちゃんは小首を傾げて少しだけ不思議そうな顔をした。

その表情がまたかわいいとかそんなレベルじゃなくて、心臓がまた跳ねる。


「なんか変だね。浅倉」

水瀬がじっと俺を見て言った。その言い方がどこか確信めいていて思わず背筋が凍る。


「え?な、なにが……?」

「ううん。なんでもない」

水瀬はすぐに目を逸らしたけど何か知ってるような目だった。


「鈴香ちゃん。朝から取り調べはやめてよ〜」

柴田が苦笑しながら俺の肩を軽く叩いた。


「浅倉は緊張してんの。遠足ってだけでテンション上がるタイプなんだよな」

「……あ、うん、そうそう!」

必死に柴田に乗っかる。


「ふふっ。浅倉くん、真面目だもんね」

莉子ちゃんが笑ってくれる。その笑顔を直視できなくて俺はまた視線を落とした。


「え、浅倉くんが真面目?嘘でしょ。よく授業中ぼーっとしてるよ」

木南が純粋な目をして呟く。


「それはあの時だけだから……!」

「そうだっけ?」

「そうだよ……」

「まぁいいや!浅倉くんのことは置いといて、みんな揃ったし、出発しよー!」

木南が両手を叩いて声を上げた。


「そ、そうだな!電車出る前に乗らなきゃだし!」

柴田が元気に返す。俺もブンブン頷く。早くここから離れたい……!


その横で莉子ちゃんはもう一度俺の顔を見た。

「……ほんとに無理しないでね?」

小さな声でそう言われてまた心臓が跳ねた。


「う、うん……」

かろうじて頷く。


莉子ちゃん……優しくてかわいいって……同じ人間とは思えないよ……


「よーし!行こう!私についてきて!」

木南がテンション高く腕を振り上げた。その瞬間、空気が一気に動き出す。


「お、おう!」

柴田が元気に応じてみんなが木南の後ろについて歩き出す。俺も慌ててその流れに乗った。


助かった……。

この場をまとめてくれるのは木南しかいない。

彼女の明るさが変な空気を一瞬で吹き飛ばしてくれた。


歩きながらもう一度莉子ちゃんを見てみる。

隣で笑ってるだけなのに世界がスローモーションみたいに見えた。

髪が揺れて頬に光が当たって少しだけ目を細めて笑う。

それだけ。それだけなのに胸の高鳴りが止まらない。


「……っ!」

ダメだ……!やっぱり今日は目見れないかも!

もう顔見るだけで限界。息ができない。

俺、今日どこまで持つんだろう。まだ集合しただけなのに……!


隣の柴田はのんきに飴を口に入れてるし、木南は相変わらずテンション高くしゃべってる。莉子ちゃんはその二人の話に相槌を打っていて、三人の輪が完成されていた。


俺と水瀬は一歩後ろでただ歩いていた。水瀬は眠いのかあくびをしている。

前を歩く三人はにぎやかでこっちはまるで別の世界みたいに静かだ。


「ふわぁ……眠。集合もうちょっと遅くてもよかったよね」

不意に水瀬が話しかけてきた。


「えっ……まぁ確かに」

「有栖が張り切っちゃってるからなぁ。楽しみなのは分かるけど」

「水瀬は楽しみじゃないの?」

水瀬との会話でペースを取り戻そう。水瀬もやばいビジュだけどそれ以上の莉子ちゃんでワクチンを打ってるから大丈夫だ。


「楽しみだよ。ていうか有栖と莉子と一緒だったらどこでも楽しいし」

「熱いな……そういうこと言うの意外かも」

「バカにしてる?」

「そう言うことじゃなくて……」

「ふふっ……」

三人の二歩くらい後ろの位置でローテンションな会話が繰り広げられる。


水瀬は前を歩く三人を見ながら、ぽつりと呟いた。

「今日の莉子、いつもよりかわいいよね」

「……っ!」

足が止まりそうになった。心臓がまたバクンと跳ねて呼吸が一瞬詰まる。


「そ、そうだね……まぁ……その、たしかに」

声が裏返りそうになるのを必死に押さえる。平常心……平常心……


「ふーん」

水瀬がちらりと横目で俺を見る。その視線が妙に鋭い。


「なんか反応薄くない?」

「そんなことないよ……」

「そっか」

小さく笑って水瀬はまた前を向いた。俺だけが取り残されたみたいに心臓を鳴らしている。


前では莉子ちゃんが木南と笑い合っていて、それを見た瞬間、また息が浅くなった。


かわいすぎる。でもそんなこと言えない。


「ねぇ。浅倉」

水瀬の声が少しだけ低くなる。でも初めて聞くくらい静かで真っ直ぐだった。

そして水瀬は続けて言った。



「浅倉って莉子のこと好きでしょ」



その言葉が空気を割った。駅のざわめきが遠のいて鼓動の音だけが耳の奥で響いた。


ありがとうございました!

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