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誰よりも君を

続きです!熱くて大事な話になってます!

心臓が痛いくらい鳴っていた。

逃げちゃダメだ。今度こそ。


「……あのさ」

口を開いた瞬間、喉がカラカラになった。


莉子ちゃんはただ静かに俺を見ていた。

夕陽の色がその瞳の奥で揺れていて、息をするたびに胸が締めつけられる。


「俺……ずっと……」

言葉が出ない。喉の奥で何かがつっかえて、それ以上出そうとするたびに心臓が暴れる。


「……ずっと天城さんとちゃんと話したいなって思ってた」

ようやく出た声は自分でも信じられないほど震えていた。SNSのことを聞くはずだったのに、何で俺はこんなことを言っているのだろうか。


莉子ちゃんは少し驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑った。


「ふふっ。私も浅倉くんと話したいって思ってたよ」

その言葉を聞いて心臓が弾けてしまうほど鳴ったのがわかった。


「えっ……ほんとに?」

友達としてだ……思い上がるな。そう言って浮ついた自分を落ち着かせる。


「ほんとだよ。本ずっと読んでたから、話してみたいなって思ってた」

その笑顔を見ているともう何も言葉が出なかった。ただ夕陽の中でゆっくりと影が伸びていく。


「本……」

その選択をした自分を死ぬほど褒めてあげたい。


「……浅倉くんは何で私と話してみたかったの?」

莉子ちゃんがふと、真剣な表情で俺を見つめた。


「それは――」

何でってそんなの決まってる。好きだからだ。気づいたら目で追ってた。声を聞くだけで嬉しかった。でもそれじゃ満足できなくなってたんだ。

考えばかりが先行するが、そんなこと言えるわけがない。


「……どんな人か気になったから」

ようやく絞り出した答えは自分でも情けないほど曖昧だった。

誤魔化した言葉だけど嘘じゃない。けれど、本当の理由を何も言えていない。


莉子ちゃんは小さく瞬きをして、それからゆっくりと口を開いた。

「……そっか。気になるか」

影の中でどんな表情をしているのか、うまく読めなかった。


「私、そんなに気になるような人じゃないと思うけど」

冗談めかして笑った声がどこか寂しそうに響いた。


「いや。そんなことないよ」

咄嗟に強めの声が出ていた。


莉子ちゃんが少し驚いたように俺を見た。


「……天城さんってなんか周りと雰囲気が違うっていうか……えっと……他の人とは違うっていうか」

言葉を探しながら胸の奥を手探りで引っ掻いていく。今までビビってた分、走り出したら止まれなかった。


「本読んでるところとか、誰かが話しかけても笑ってるとことか、なんか……見てるとホッとするというか」

言い終えた瞬間、自分の顔が熱くなるのがわかった。自分の言ったことが急に恥ずかしくなった。


でも莉子ちゃんは笑わなかった。むしろその目は少しだけ柔らかくなっていた。


「……そんなふうに言われたの、初めて」

「え?」

「見てるとホッとする……か」

莉子ちゃんは少し頬を染めて、視線を落とした。


沈黙が落ちた。だけど、もうさっきまでの息苦しい沈黙じゃない。

胸の奥に火が灯ったようなあたたかい静けさだった。


「……なんか嬉しいなぁ。ちゃんと私のこと見てくれてる人いたんだ」

「えっ……?」

「……みんな、有栖と鈴香を見てるから。二人のことは大好きだし、これからも友達でいたいけど……やっぱりあの二人といると、私のこと見てくれる人なんていないからさ」

「そんなこと――」

言いかけて言葉が喉で止まった。

否定したい。でも軽く言ったら彼女のその小さな寂しさを踏みにじってしまいそうで。


莉子ちゃんは落ち着いた声で続けた。

「嫌なわけじゃないんだよ。あの二人がいると楽しいし、二人がものすごくかわいいのは絶対にそうだし。でも……」

莉子ちゃんは夕陽のほうへ視線を向ける。校舎の壁がオレンジに染まっていて風が少し冷たくなってきた。


「たまに透明になったみたいに感じるんだ」

その言葉がやけに静かに響いた。教室の窓から差し込む光が彼女の横顔を縁取る。

そんなふうに感じてたのか。いつも穏やかに笑ってる莉子ちゃんが。


「俺は見てたよ」

気づけばそんな言葉が出ていた。莉子ちゃんがゆっくりこっちを向く。


「天城さんのこと。多分、誰よりも」

口にしてから自分でも顔が真っ赤になるのがわかった。けどもう止まらなかった。


「本読んでるときも、授業受けてるときも、木南と水瀬といるときも……俺はちゃんと見てたよ」

「……そんなに?」

「そんなに」

「へぇ……」

莉子ちゃんは少しだけ目を丸くして、それからふわりと笑った。


「それってけっこう怖いね」

「違っ、変な意味じゃなくて!」

慌てて否定すると莉子ちゃんはクスクスと笑い声を漏らした。その笑顔がさっきまでの寂しさを少しだけ溶かしていく。


「でも……嬉しい。ありがとね」

莉子ちゃんの声は小さく、でもはっきりと届いた。

その一言が俺の心臓を撃ち抜いた。声も出せずにいる俺を見て莉子ちゃんが少しだけ笑った。


「浅倉くん顔、真っ赤」

「そ、そんなことないよ……!」

反射的に顔を背ける。けれど、笑みが溢れて止まらない。


この時間が終わらなければいいのに。


言いたいことはまだまだたくさんあった。本当のことだってまだ言えてない。

けれど、今はこの空気を壊すのが怖かった。


「……これからも話しかけていいかな?」

俺がそう言うと、莉子ちゃんは優しく笑った。


「ふふっ。もちろんっ」

胸がもう一度痛いくらいに鳴った。でも今度はその痛みさえ、心地よかった。

勇気を出すってこんなに気持ちいいことなんだ。好きな人と話すってこんなに幸せなことなんだ。俺は今日という日を一生忘れないと思う。



一方その頃。


校舎の角の陰で古川、柴田、藤本の三人が遠目から北斗と莉子の様子を見ていた。


「おいおいおい……なんかガチでいい雰囲気なんだけど……!」

古川が双眼鏡を握りしめたまま、小声で叫んでいた。


「ちょ、お前……どこから出したんだよそれ……」

柴田が呆れ顔で突っ込む。


「会話は聞こえんけど……いいぞ!なんかすごくいい!」

「確かに上手くいってるっぽいね。やっぱり肝心なのは勇気でそこからは案外何とかなるんだな〜」

藤本は穏やかに笑いながら言った。


「……クソが」

「「え?」」

「やっぱり上手くいって欲しくない!浅倉に彼女ができるなんて俺は嫌だ!」

古川は駄々を捏ね始めた。


「背中押したのお前だろ……あと彼女て。それはまだ先になりそうだけどな」

暴れる古川を横目に柴田が呟く。


「先……!?いずれは……」

「まぁあり得ない話じゃないよね」

「クソッ!」

「だから何で……?自分のしたこと忘れたのか?」

古川は髪をかきむしりながら地面を転げ回った。

「うわああああああ!!あいつだけ青春イベント発生とかズルすぎる!!!」


柴田がため息をつき、藤本が小さく笑った。

「まぁいいじゃん。浅倉がやっと勇気出したんだし。最初くらいは報われても」


古川はしばらく黙ってようやく顔を上げた。夕焼けの空を見上げながらぽつりと呟く。

「……まぁ。莉子ちゃんと楽しそうにしてるあいつより、ウジウジしてるあいつの方がムカつくからな」

その声にはほんの少し悔しさと、でも確かな優しさが混ざっていた。


「何だよその天秤は……」

三人は立ち上がり、その場をそっと離れていく。背後ではまだ屋上で話す二人の姿が夕陽に照らされていた。



ありがとうございました!来週遠足編入ります!

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