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奇跡と罪

続きです!読んでください!

桜ちゃんと別れた俺は教室に戻って来た。作戦はまだ固まっていないが、とにかく勇気を出せばなんとかなるはずだ。


「ただいま……ってまだやってるし」

俺が帰って来ても木南と水瀬の周りにはまだ男が集まっていた。さっきと男たちの配置が逆になってるだけだ。


「帰って来た」

柴田は俺の席に座っていた。ずっとこの様子を見ていたようだ。


「まだ決まんないの?」

「まだっていうか一生決まんないだろ。男と回る気ないだろうし」

「そっか……」

じゃあ無理じゃん。


「それよりなんで逃げたんだよ。俺と組んでくれないのか?」

「いや。組もう。やっぱり柴田しかいないわ」

莉子ちゃんとは組めない可能性が高いし、組めたとしてもやっぱり柴田は必要になる。組んでおくべきだ。


「どういう心境の変化だよ……」

「莉子〜!」

そのタイミングで木南が男子たちから逃げて来た。


「有栖やっぱりモテモテだね」

「そんなお気楽なもんじゃないよ〜!」


「めんどくさい。君たちと回るつもりはないから」

水瀬もそう告げてから二人の元にやってきた。男子たちは固まっていて、でもなんか嬉しそうだ。


「私も鈴香みたいに言えたらな〜」

「言えばいいじゃん。簡単だよ」

「無理だよ〜!性格が違うもん!」  

ここで三人が揃った。やっぱりしっくり来るなこの構図は。こんな近くで三人の絡みを見ていいのだろうか。


「咲斗は……」

柴田が俺の席から古川を探す。


「いた。藤本に慰められてる」

古川は両手両膝を地面につけて叫んでいた。藤本が背中をさする。


「行こうぜ。やっぱりあいつは俺たちと組む運命なんだ」

そう言って柴田は立ち上がる。


「そうだな……」

悲しくなりながら俺は柴田の背中を見つめる。


悲しいのは俺の行動力の無さか……。

俺も歩き出そうとした瞬間、水瀬の声が聞こえて来た。


「でもどうする?あとのメンバー」

「確かに……他の女の子はもう組んじゃってるね」

莉子ちゃんも困っている様子だった。


「うーん……でもあの男の子たちと組むのはなぁ……」

「……あ」

水瀬はハッとした。


「おい。早く行くぞ?」

立ち止まっている俺の元に柴田が促しに来る。


「あぁ……ごめん」

そう言って歩き出した瞬間――


「待って」

水瀬に腕を掴まれた。隣の柴田も掴まれている。

細い指の感覚が長袖の上からでもちゃんと伝わってきた。


「……え?」

俺と柴田はゆっくり振り返った。


「ねぇ。莉子、有栖。浅倉と柴田はどう?」

「え?」

水瀬以外の全員が同じ顔をしていた。急な展開に俺の頭も追いつかない。


「ちょっ……え?なんの話?」

柴田が困惑した表情のまま尋ねる。


「遠足。私たちの班にどうかなって」

「え……ちょ……え?」

柴田は何かを言おうとしたが、言葉になっていなかった。


「…………」

俺はそれすら出なかった。こんな奇跡があるのかと若干震えていた。


「浅倉くんと柴田くん?」

木南が水瀬に聞き返す。


「うん。よくない?この二人は古川たちと違って私たちに興味ないみたいだし」

「興味ないわけじゃ……」

柴田が言い淀む。


「あはは……」

俺は隣で笑ったふりをする。確かに二人にはないけど、もう一人には大アリな分どんな反応をすればいいのか分からない。


「確かに……」

木南は納得した様子で頷いていた。


「ちょっと……状況が読めないんだけど?」

柴田が介入する。俺は隣で頷いた。


「状況も何もないよ。私たち三人と柴田と浅倉でグループにならない?って聞いてるの」

「……まだ分かんないわ」

分かんないよな……!水瀬が言ってることが全てなんだけど、言ってるのが水瀬だから現実味がなさすぎる……


「私はいいと思う!」

木南が本格的に同意した。


「…………」

まじで?俺このグループ入れるのか……?心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。


「莉子はどう思う?」

水瀬が尋ねると、空気が止まった。心臓の音がピークに達する。


莉子ちゃん頼む……。


「私もいいと思う。もちろん……二人がよければだけど」

莉子ちゃんはそう言って俺たち二人を見た。


俺はよろけそうになった。莉子ちゃんも俺を受け入れてくれるのか……


「……どうする?」

柴田が俺に聞く。


「ま、まぁ……三人がこ、困ってるならいいんじゃない……?」

俺はめちゃくちゃ震えた声で返した。


「浅倉がいいならいいけど……」

「じゃあ決まりね。よろしく」

水瀬が静かに微笑んだ。隣で莉子ちゃんもペコリと頭を下げる。


「こ、こちらこそ……!」

こうして俺は奇跡によって莉子ちゃんと同じグループを勝ち取ったのだった。隣で柴田が不安そうな表情をしているが、俺はすっかり上の空だった。


⭐︎


「もうお前らとは絶好だ!!」

古川が購買のパンを握りしめながら俺と柴田向かって叫んだ。力が入りすぎて握りしめたあんパンが原型をなくす。


「いやいや……なんでそうなるんだよ」

柴田は呆れ顔でストローを咥えたままジュースを啜る。


「なんでじゃねぇよ!!なんでお前らは有栖ちゃん、鈴香ちゃんペアとグループ組んでんだよ!!」

「いやだからそれはたまたまだって……」

「たまたまでも組んでんだろ!!」

「まあ古川は俺と組めば……」

「藤本が代わりになるかよ!」

慰めようとする藤本の声さえ今の古川には届かない。まあ気持ちは分からんでもないけど。


「別に俺らは有栖ちゃんと鈴香ちゃん狙ってるわけじゃねーよ。浅倉は莉子ちゃん狙ってるけど」

「莉子ちゃんと一緒かぁ……」

「ニヤけてんじゃねえよ浅倉ぁ!!」

古川に胸ぐらを掴まれる。冗談の強さじゃないんだけど……?


「一番ムカつくのは浅倉なんだよ!」

「なんでだよ!莉子ちゃんには興味ないんだろ?」

「好きな子と一緒に遠足なんて羨ましすぎるからだよ!ふざけんな!」

古川の声が中庭の空気を震わせる。周囲の生徒がちらっとこちらを見ていた。


「確かにそれはよかったな。この機会に仲良くなれよ〜」

「おい藤本!応援するな!」

「俺も浅倉のサポートに徹さなきゃな……」

柴田が考えながら呟く。


「別にそんなの……」

「ていうか浅倉あんまり嬉しそうじゃなくね?もっとはっちゃけてるかと思ったんだけど」

「めちゃくちゃ嬉しいんだけど……なんかこんなことあるのかなってまだ思ってる」

そう言いながら俺は自分の言葉に少し笑ってしまった。人間って嬉しすぎると逆に喜べないらしい。


「おい!まだ話は終わってねぇぞ!!」

古川が立ち上がって叫んだ。手にしていたパンの中身が飛び出し、地面に落ちる。


「……古川。パンが泣いてるぞ」

藤本が淡々と言う。


「泣いてるのは俺の方だわ!!」

涙目で叫ぶ古川に、柴田はジュースを啜りながら肩をすくめた。


「だから浅倉は莉子ちゃんが――」

「それが問題なんだよ!!」

「なんでだよ」

俺が思わず口を挟むと、古川は俺をビシッと指差した。


「お前はなんの行動も起こしてないからだ!全部受け身のやつがなんで上手くいくんだよ……!」

「…………」

俺は古川の言葉にハッとした。

その通りだと思ったんだ。莉子ちゃんと組みたいとか話したいとか言いながら俺から動いたことはあったか?


優馬が言った通り、俺はチキンのままだ。今は奇跡的にうまく行ってるだけでこの先はそれじゃ無理だ。


「まぁ……確かに古川の言ってることは一理あるな」

藤本が静かに頷く。


「このまま遠足迎えても何も話せずに終わる可能性あるだろ。せっかくチャンスが来たんだし、少しは勇気出して仕掛けた方がいい」

柴田も続けてそう言った。


「それは……分かってるよ」

「いいや。分かってない。まだお前は“奇跡”に甘えようとしている!」

ぐいと古川が身を乗り出す。その目は本気だった。


「そんなこと言ったってどうすればいいか分かんねぇし……」

「なら俺が鍛えてやるよ」

古川はパンくずを手で払って、真剣な顔で言い切った。


「え?」

「何その急展開」

柴田がぼそっと呟く。


「浅倉がこのまま“奇跡”に縋って何もしなかったらせっかくのチャンスが無駄になる。だったら俺が叩き直してやる!」

古川は俺を指さして言い放った。


「別に俺悪いことしたわけじゃ――」

「チキンは罪だ!」

「罪なの!?」

「古川なりの応援だな。面白そうじゃん」

藤本がくすっと笑ってジュースのパックを潰す。


「笑いごとじゃねぇぞ。俺は本気だ。今日から特訓を始める!」

「特訓って……何の?」

「浅倉はまず“勇気”がゼロなんだよ。遠足までに少しでも鍛えねぇと、当日一言も喋れず終わるぞ!」

「それは……」

言い返そうとしたけど、心の奥を突かれて何も出なかった。

本当にその通りだ。俺はいつもタイミングを待つだけの人間だ。


「俺も参加で」

藤本が手を挙げる。


「俺も手伝うよ」

柴田も続いた。


遠足の日、ただ隣で黙って歩くだけなんて嫌だ。

ちゃんと笑って話したい。少しでも距離を縮めたい。


「……分かった。やろう。お願いします……!」

俺は三人に向かって頭を下げた。


「よっしゃ!というわけで“浅倉改造計画”スタートだ!」

古川が拳を突き上げた。当事者の俺は置いてけぼりで、古川と藤本が二人で盛り上がっている。


「本当に鍛えられるのか……?」

それを見て俺は不安になる。


「大丈夫だよ。咲斗、度胸だけはある男だから」

柴田が小声でぼそっと呟くが、俺はちょっと不安だった。

でもそれと同じくらい頼もしさも感じていた。


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