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8 空蝉の魔法

 ダンカンは、ゴードンが一人王宮で寂しく過ごしていることを聞き申し訳なくなった。

――考えてみれば、王とは孤独だ。ゴードンの見た目に騙されて、彼は無敵だと誰もが思っているが、実は彼も傷付き、悩む一人の人間なのだ。

 その事に思い至って、ダンカンはゴードンの辛さが身にしみて感じられた。自分はそこにゴードンを置き去りにしてきたのだ。

「レオン、僕、王宮へ帰るよ。でもその前に呪いを解きたい。これから錬金術を頑張って覚えるから」

 だが、レオンは「土属性が有れば錬金術は必要ない」と衝撃的なことをいった。

「そんなに難しくは無い魔法だ。だが、これから話す事は本当の事だ。疑って掛かれば、魔法は完成しないぞ」

――レオンは何を言っているのだ? 真剣な顔で。簡単で難しい魔法だって?

「この魔法は今までに無かった、僕が発明した物だ。それを理解するにはサラの秘密を知る必要がある」

 サラはこことは違う世界から魂だけが転移してきたという。この世界のサラディアーヌの身体に異世界の魂が引き寄せられたのだ。そのまま戻れなくなったのだという。

「これは召喚術に似ているが少し違う。これも研究してみたい・・・・・」

 レオンが考え込み始めた。こうなると長くなるので、ダンカンは慌てて先を促した。

 サラの元の世界には魔法は無く、科学という物が発達しているそうだ。そこには何十億という人間がいるそうだ。

 ダンカンには、何十億と言う人間を想像することが難しかった。

――そんな沢山の人は食べていけるのか? 住む処はどうしている? 折り重なって生きているのだろうか。

 レオンが言うには蝉という虫がその世界にはいて、七年も地中で過ごし、たった数日の命を持って地上に出てくるそうだ。その際、蛹から飛び立ち、空蝉を残す。

「その空蝉を土魔法若しくは錬金術で作り出し、小さな魔宝石を入れ、そこに魔力を沢山詰める。すると魔力硬化を起こすようになる。硬化した魔力は疑似魔力器になるのだ」

 空蝉(うつせみ)に魔力を入れると、現身(うつせみ)になる。

「この魔法はゴーレムを作る基本にもなる。数百年前に散逸した魔法だが、多分この方法で間違いないと思う。昔は魔宝石が哲学者の石と呼ばれて、錬金術で生成していたようだ。闇の収斂自体が錬金術の一種なのだと思う」

 魔力器を作る部分はレオンのオリジナルらしい。魔宝石が有れば、ゴーレムは直ぐに動けるが指示をしなければ動かない。これから、自力で動く方法を刻み込む必要があるそうだ。今その研究をしている最中なのだとか。

 大体分かった。空蝉を造るのは、どの魔法でも良いそうだ。一番簡単なのは土属性で作る方法だ。ダンカンは全属性だから使えるが、他の属性しか持っていなくても、錬金術を学べば出来ると言う。

 ダンカンは土魔法で自分の姿を象った。土色の自分の石像が出来上がった。そして自分で作った魔宝石を取り出した。

「あら! ダンカンも闇の収斂が出来る様になったのね。これから私の仕事が楽になるわ」

「サラの魔宝石みたいに大きくはないけどね」

「それは、ここにある魔道具のお陰よ。ダンカンにも出来ると思うわ」

 魔宝石を石像にくっつけ、そこにめがけて魔力を入れていく。魔宝石が光り出し魔力が周りにあふれ出した。あふれた魔力を薄らと膜が取り囲み固まりだした。

「これを見ると魔力器の成長の過程を、目で見ることが出来るだろう。さあダンカン変身して人間の姿になってくれ」

 固まりきったところにレオンが石像に「魔力器吸収」を掛けた。

 するとダンカンの体表から何かか引っ張られ、抜けていく感覚があった。ダンカンは耐えきれずに膝を突いてしまった。

 施術が終わって鏡を見せて貰った。尻尾も耳も毛皮も無くなった。だが、魔力はしっかりダンカンの中に残っている。術が成功したのだ。

「レオンとそっくりね。双子のようだわ」

「ところでダンカン、君は変身するとき、でんぐり返しをしなくても出来るのか?」

「今まで黙っていてごめんなさい。実は・・・・・」

 その話を聞いてレオンとサラは笑い転げてしまった。これまで一生懸命でんぐり返しをしていた自分達が可笑しかったようだ。

 側でマリーナも見ている。本当は彼女も呪いを解きたいのではないだろうか。彼女はひっそりとここで生きていくことを選択しているようだが。ダンカンはレオンに、

「空蝉は他の術者のもので代用できないかな?」

「それはどうかな・・・・・やってみる価値はある。試してみるか?」

 レオンの研究魂に火が付いたようだ。マリーナには悪いがモルモットになって貰う。

「マリーナ。君の空蝉を造らせてくれないか?」

「え! 私の?」

 マリーナに本来の姿に戻ってもらい、土魔法で石像を造る。そこに一番小さな魔宝石をくっつけた。

「さあ、これに魔力を込めてみて。石が小さいから魔力はそんなにいらないと思う」

 結果は成功だった。ただ、マリーナの顔が今までとは変わって仕舞った。マーガレットに少し似ている。

「背丈は違うけど、顔立ちがマーガレットに似ている」

「そうですか? 私、会ったことが無くって」

 サラに聞かされた話では、マリーナは代官の屋敷でコッソリ育てられたという。マーガレットが彼女を生んで直ぐに始末しようとしていたのを、影渡りを使って代官が攫ってきた。代官がマーガレットに彼女を会わせるはずは無かった。知っていたら、マーガレットは彼女を殺していただろう。

「ダンカンは王宮へ帰るんだな? だったら先に行って、ゴードンに話してくる」

 レオンは王宮へ転移していった。

「ダンカンも転移が出来るんでしょう。一人で行く?」

「まだ遠くへは行けないんだ。何度か転移を繰り返して行くことになると思う」

「私が連れて行っても良いけど。レオンが戻るまで待っていた方がいいかしら」

「そうした方が良さそうだ。ゴードンは僕に幻滅しているだろうな。責任を放棄したんだから」

「そんな・・・・・少なくとも怒ってはいない。でも寂しくは思っているはず。貴方のことは自分の子どもだと考えているのよ」

 サラは闇の収斂を手助けするという魔道具を見せて実演してくれた。

「これは一週間続けなければダメなの。私がいなくなったら、誰かに代わって貰わなければ、魔の森は元に戻ってしまうわ。レオンが言うには魔の森には呪いが掛かっているのではないそうよ。以前の森が本当の姿で、そこに魔女の一族が住み着いて、魔宝石を作る仕事をしていたのでは無いかと言っていたわ。魔女にとっても必要な物だったらしいから、本当のところは分からないけど。何百年も前のことだし」

 サラが闇の収斂をして居る間、金竜が魔獣を持ってきてサラの手助けをしていた。

「こんなに魔力を必要とするんだ。大変な仕事だね」

「そうでも無いんだけど。副産物もあるし、只、子どもがお腹にいたときは困って仕舞った。思うように魔力が吸収出来なかったの」

「僕が来年変わるから、女の子をレオンに産んであげたら?」

「そんなこと言って、また男の子が生れるかも知れないのよ。まあ、男の子も可愛いけどね」

 じゃぁ、来年はお願いしようかしら、とサラは言った。

 レオンはなかなか戻ってこない。ゴードンの説得に手間取っているのだろうか。ゴードンはダンカンを探していたはずでは無かったのか。

――僕は見切りを付けられたのだろうか?

「サラ、僕少し森へ行ってきても良いかな」

「ええ、いってらっしゃい。でも居なくならないでね」

「分かっている。友達に知らせたいことが出来たんだ」


 ――トムにもう一度手紙を書こう。

 友達に本当の事を打ち明けようとダンカンは思った。嘘をつき続けて、トムを騙すのは友達とは言えない。本当の事を言えば、離れていくだろう。それでも仕方ない。ダンカンの中ではトムは友達だ。それで良い。

 ダンカンが森の小屋へ着き、手紙を書いているところに丁度トムが来た。

「お前は・・・ダンダか?! ここはよそんちだぞ」

「トム、僕だよ。レオだ」

「え? レオは狼だぞ。お前は違うだろう?」

 ダンカンは、変身して見せた。変身は得意だ。

「あーーあーーあレオ! どうなっているんだ、これは」

「トム、僕の本当の名はダンカンと言うんだ」

「・・・・・ダンカン・・・・・!」

 ダンカンは今までのことをトムに聞かせ、嘘をついていたことを謝った。

「別に良いけどさ・・・・・デス。ダンカン王子・・様」

「普通にしゃべってよ。王子だからって変に畏まらないで」

 トムはダンカンに村へ帰って農家に戻る事を知らせに来たのだった。

「おいらの村に遊びに来いよ。そうしたら、うめぇパンを食わせてやるからさ」

「うん、きっと行くよ」



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