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7 魔女の家

 ダンカンは仕上がった剣と防具を受取り残金を支払った。それから人気がない場所を探し元の姿に戻り、イースラン領の森の小屋へ転移した。

 小屋は少し埃りっぽかったが、しっかり立っていた。

 あれから一度はトムが来たようだ。そこにレオへ宛てた手紙が置いてあった。

 トムは昔の仲間二人とパーティーを組むことになった。と書いてある。暫く北の村へ皆で帰る旨がしたためられていた。

 同じ村の出身同士のパーティーだったようだ。

「良かったな、トム」

 またここへトムが来たら、レオが・・・・・ダンカンが帰って来ないと哀しむだろうか。一応手紙を書いておく。

 魔女の家まで転移しても良かったが、折角森に来たのだ。時空間収納の中身が空になったのもある。魔獣を倒しながら魔女の家を目指す事にした。

 森の奥へ進むに従い、魔獣は大きく強くなっていった。雷魔法や影渡りを使い、新調した剣の試し撃ちもかねてどんどん魔獣を狩っていく。あっという間に魔力が溜まり魔力器が硬化し始めた。

「随分早く一杯になったな。ここの魔獣は相当強かったのか」

 雷で動けなくしたり、影渡りでコッソリ近づく戦い方は、魔獣が強くても関係く有効なようだった。

 今回は闇の収斂をする。魔宝石が欲しかったからだ。

 ――キンボウのお土産にしても良いかな。

 出来た魔石を見ると以前より一回り大きくなっている。

「闇はカンストしたのでは無かったのか? 闇の上限は一体何処なのだろう」

 闇のレベルにはまだ上があったようだ。

 森の奥を目指して四日後、湖に浮かぶ小島に行き着いた。ダンカンが森の外れでぼんやりと小島を眺めていると、キンちゃんとキンボウが寄ってきた。

「やあ、元気だったか? サラ達はいるかな。誰か居るようだが」

「キュウルルキュウ」

「ヘェ、管理人がいるのか。僕が行って驚かれないか?」

「キュウ」

 キンちゃんは大丈夫だと言ったので、橋を渡って魔女の家を目指した。

 ダンカンが屋敷の玄関へ着くと中から女の人が出てきた。

「もしかしてダンカン様でしょうか?」

 半獣の姿のままのダンカンを見ても全く動じずに彼女は聞いてきた。ダンカンはチョット戸惑ったが、レオンから話が付いているのだろうと思い直し、招かれるまま、屋敷の中へ入っていった。

 ダンカンに部屋を案内してくれて、後ほど応接間までお越し下さいと言い残し管理人と思われる女の人は階段を降りていった。

 部屋のドアの外から、若い男が声を掛けてくる。人間の姿に戻ろうかどうしようかと迷っている内に、少年が入ってきた。ダンカンと同じ年くらいの少年だ。何となく見覚えのある顔立ちだが思い出せない。

「ダンカン様お待ちしておりました。明日の朝、父がルーベンスまで知らせに走りませので、レオパルド様が来るまで少しお待ちください。下にお茶の準備をしております。管理人が待っておりますので」

「はい」

 彼もダンカンの姿に驚かない。ここに居る人達はそういう風な教育がされているのだろう。

 応接間に通され、椅子に腰掛け、管理人からお茶を出されて、しばし気まずい沈黙が流れた。そして、意を決したように彼女が話し始めた。

「管理しているマリーナと言います。元はルーベンス領の代官の娘でした。母親はマーガレットです」

「!・・・・・マーガレットの?」

「ええ、この事はゴードン王も知っております。大罪を犯した二人の子どもですが、処刑は免れ、生かされました。表だっては知らされておりませんが。それに、私も呪い持ちです。お見苦しいでしょうが本当の姿を見てください」

 彼女の呪いは、ダンカンよりも辛い物では無かろうか。女性でありながら顔がトカゲの姿なのだ。彼女は部屋の隅へ行ってでんぐり返しをし、元の姿に戻った。

――ああーっ!この方法はまだ続いていたのか。ダンカンは申し訳なくなった。

「本当は呪いを解く方法が出来上がったとレオン様から教えて貰ったのですが、魔法のレベルが低い私では難しいと思います。レベルを上げるより人間の姿で過ごして居たくて・・・・・」

 そうだろうな、ダンカンでもこれから錬金術を習わなければダメな方法だ。彼女は女性だ。人間の姿でいたいのは当たり前だ。魔法が不得意なのは、人間の姿では魔法は使えないのだから。ダンカンはマリーナの気持ちがよく分かる。お互い呪いに苦しむ者同士、その悲哀は痛いほど分かる。それなのに、マリーナは落ち着いていてその微笑みには悲壮感が無い。彼女と話をしているとダンカンの心が癒やされる感じがあった。

「でも、私はこのままで良いと考えております。この家に居て本が読めればそれで満足です。ダンカン様はどうです?」

「僕は出来れば呪いを解きたいと思っています。でも、今日明日には無理でしょう。錬金術の勉強をしないと」

「それならば、レオン様がこちらへいらっしゃるまで時間がございます。私で良かったら教えて差し上げられます。知識だけはあるのです。どうでしょう?」

「是非、お願いできますか。それとマリーナさん。貴方の変身の仕方、直してみませんか?」

「え? どこか可笑しかったですか?」

「こうなったのは、すべて僕が悪かったんです・・・・・」

 マリーナに、でんぐり返しはしなくても変身できることを何度か説明し、やって貰ったが、最早この方法が身に付いてしまい、どうしても出来なかった。ガックリしてしまう。

「気になさらないでダンカン様。私はこれで満足なのですから。それより錬金の勉強をいたしましょう」

 マリーナは凄い読書家だった。管理人の収入は総て本につぎ込んでいるようだった。それに加えて、この屋敷に置いてある本も凄かった。闇の魔法本が多いようだ。ダンカンが知らなかった魔法が沢山載っている。

 ――これはサラが言っていた危険な闇魔法では無いのか?

 人の精神を操る魔法や、呪い、隷属、魔器吸収、召喚術という物まであった。闇は奥が深い属性だった。

 マリーナに薦められた本を読み、分からないところを教えて貰いながら一ヶ月が過ぎた頃、レオンがゴンと一緒に到着した。

 ――ああ、あの若者はゴンの息子か! 道理で見覚えのある顔だ。ゴンにそっくりだ。

「ダンカン? 凄い変わり様だ。サラが見たら哀しむかな」

「え? 僕、そんなに酷くなったかな・・・・・」

「いや、可愛かったダンカンが大人になって仕舞って、尻尾を触れなくなって哀しがるという意味だ。サラは少し変わっているから」

「・・・・・本当に変だよね。サラママもそうだったよ」

「は、は、血は繋がっていなくても似たもの親子だな」

 二人でひとしきり笑って、サラは後から子ども達を連れてくると教えてくれた。サラも転移が使える様になったと言うことだ。

「まだ、レオンの子どもは王宮へは行ってないの?」

「ん? 何のことだ。王宮へ行く理由が無ければ行かないぞ」

「ゴードンの跡継ぎになったのでしょう?」

「いや、そんな話はしていないぞ。ゴードンは君を待つと言っている。ダンカン、王になりたくないのならゴードンに直接言うべきだ。彼はダンカンが嫌なら無理強いはしないと考え始めたようだ。貴族に継がせるという手もあるしな」

「レオンの子どもではダメなの? 呪いが無い王様になるんだ。適任じゃ無いか」

「どうだろうな。まだ幼いからよく分からないだろうし。今のところ冒険者と錬金術師が希望らしいぞ。長男は新しくできる魔法大学校に行きたいと言っている」

 そうこうしているうちにサラ達が転移してきた。子ども達がダンカンを見て、歓声を上げて飛びついてきた。

「狼だ! 格好いい。ダンカン叔父さん初めましてルーベンス公爵第一子バスティアンです。こっちは第二子のヘンドリック。一番のチビが第三子のダルタニアンです」

「チビない! バスの馬鹿」

 サラの子どもは総て男の子だ。凄く騒がしい。レオンは女の子が生れるまで頑張ると言っている。

「もう良いでしょうレオン。私これで打ち止めにして欲しいわ」

 サラは相変わらず気さくで飾らない人だった。そしてダンカンの尻尾を見ている。

――何も変わらない。サラはそのままでいてくれた。

 ソファーに腰掛けると、サラはダンカンの隣に座った。何気なく見ているとそっとダンカンの尻尾の近くに手を置いている。

 ダンカンは面白くなって、尻尾をサラから遠ざけたり近づけたりを繰り返した。その度にサラの手がピクリとするのだ。もう耐えきれなくなって笑ってしまった。

「何が可笑しいのよダンカン?」

「サラ、尻尾を触りたかったらどうぞ」

「え、良いの?」

 いそいそと尻尾を抱えて抱き付くサラを見て、レオンは呆れている。

 彼等は以前と同じだ。何時もダンカンを身体全体で受入れてくれる。この安心感は何だろう。王宮での不安や、普通の人間の振りをしながら、ビクビクと市井で生きてきたここ数年の自分がちっぽけな存在に思われてきた。

――僕は今まで何が不満だったのだろう。僕には心を許せる家族が居る。そしてトムという友達も出来たのだ。

 聴覚が発達しすぎているダンカンは、人の陰口を過剰に捕らえていたのでは無いのか?

 ダンカンだって心の中では不満や不平を言っている。嘘を平気で付くようになっている。人が裏表があるのは当たり前のことでは無いのか?

 自分だけが潔白で苦しい思いをして、自分だけが不当な扱いを受けていると言う考えは独りよがりでは無かったか?

 これでは、我が儘で甘えん坊の子どもでは無いか。

 ダンカンは幼すぎた過去の自分が恥ずかしくなった。


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