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6 マルス領

 ダンカンは無事、無人となった国境検問所に転移出来た。魔力が残り僅かになっている。急いで闇の影に隠れる。そうすれば魔力が急激に補充されることに気が付いたのだ。

 暫く経つと魔力が十分な量に達した。人間の姿に変身し、マルス領都にある冒険者ギルドを目指し歩き出した。

 身長百八十センチ、金髪金目の十五歳のダンカンを知るものはここにはいない。自由に街の中を見て回った。

 ここの領はゆったりとしている。人は結構居るのだが、危険な魔獣も他国の侵攻にも縁が無いためか、住む人々は気性が優しくおっとりしている。

 冒険者ギルドに入り、魔獣の素材を魔法鞄から出すと、とても喜ばれた。

「流石、イースランの三級冒険者ですね。凄い素材ばかりです!」

買取額はイースラン領の二倍以上だった。懐も温かい。魔宝石を売る必要も無いほどだ。綺麗な宿を取り久し振りにゆっくり出来た。

 だましだまし使ってきた剣も、新しくする頃だ。ここには良い鍛治氏がいると聞いたが、果たして本当だろうか?魔獣が少ない地域の鍛治氏が腕が良いとは言えないのでは?

 だが身長に合わせた特注品が今すぐ欲しい。防具は一度変えたが、またキツくなってきた。この頃筋肉がつき始め、このままでは入らなくなるだろう。成長期はお金が掛かる。

 ――まだまだ身長が伸びそうだ。ゴードンと同じくらいになるかも知れないな。

 ゴードン王は二メートル近い身長だった。

 彼と同じくらいの人は滅多に居ないだろう。角もそうだが背が高いヤーガイ国王は、人々に畏怖の念を抱かせている。

 ――これくらいで成長が止って欲しい。背が高すぎれば、また目立ってしまいそうだ。

 宿を出て鍛冶屋を探し街を歩き回った。武器を扱っている商店を見付け、中に入って尋ねることにした。

「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」

「防具と武器を誂えたいのだが、特注品は扱っているか?」

「ああ、はいはい、承っております。ご予算はいかほどで?」

 大体の予算を伝えると、困った顔をされた。ここでは特注品は高いのだそうだ。提示した金額の五倍は掛かると言われた。魔宝石を売れば買えるが、どうした物か。腕の良い鍛治氏なら良いが、質が悪い物に金は出したくない。鍛治氏が造った物を見せて貰いたい。

 そう伝えると、鍛治氏の家を教えて貰えた。そこへ行って見る。

 表からもカンカンと聞こえている。ここがそうだろう。

「すまんか、ここの剣を見せて貰いたいのだが」

 音に負けないように大きな声を出して、奥で作業している店主に言った。

「なんだとう。見たけりゃぁ勝手に見ろやい。こちとら手が離せねぇんだ」

 凄い大声が返ってきた。受付に、慌てて出てきた女将さんだろう人が申し訳なさそうな顔をして、

「どうぞ、自由に見て良いですから」

 そう言ってくれた。お言葉に甘えて店に展示された剣を見て回る。なかなかの逸品ぞろいだった。これなら金は惜しくない。今から作って貰ってどれくらい掛かるだろう。

 一時間ほどそうしていると奥から親父が出てきた。

「特注品が欲しいみたいだな。その体格だったら数討ちは物足りないだろうさ。どれ測ってみるか」

 そう言って勝手にダンカンの身体をあちこち測り始めた。

「お前まだ若いだろう。まだまだ伸びそうだな。防具もここで作っているんだ。俺の息子がな。今は居ないがまた明日にでも来てくれ。じゃあな」

 そう言って、こちらが頼んでもいない内から買う羽目になって仕舞った。

 ――まあ、物は良いみたいだからここで作るとするか。

 ダンカンは急いで宝石商へ行って二センチほどの魔宝石を買い取って貰った。金貨一千五百枚になった。

 この頃は大きな魔宝石が偶に手に入るため、以前ならこの倍はしたそうだが、今はこの値段だと言われた。金貨一枚が一万ラリーだから千五百万ラリーと言う事になる。

 ――サラの魔宝石が出回っているのか。サラの魔宝石は大きいからな。まあ、武器や防具を作るにはこれで十分だろう。次の日、鍛治氏の所へ行き、その息子というライリーに合った。身長が百六十センチしか無い小柄な男で三十五歳だという。伸び上がってダンカンの身体を何度も測りながら、

「羨ましいねぇ。あっしに十センチ程くれ無いかねぇ」

 とブツブツとこぼす。

「あっしは親父に似て背が低いんだ」

「るっせい! 男の価値は背丈では決まらねぇんだ。さっさと仕事しろ!」

 奥から親父が怒鳴っている。地獄耳だ。親父も魔物か?

 一ヶ月で出来上がると言うことで手付金を置いてきた。剣と防具、それにブーツも作って貰い七百五十万ラリーだという。まあ、こんなもんだろう。

 剣が一番高く五百万ラリーだった。予算を大きくオーバーしたか、これから長く使っていく剣だ。覚悟して支払う。

 剣が出来るまで、領主館の近くをうろうろして過ごした。

 「若しかしたら、べべやサラママに会えるかも知れない」

 そう期待しての行動だったが、会えることは無かった。

 だが、遠目からマンナは見えた。懐かしい顔だった。

「これ以上こうしていても未練が残るだけだ。どうせ会って話す事は出来ないのだから」

 きっぱりと諦めその場を去ることにする。その足で冒険者ギルドへ寄ってまだ収納に残っていた魔獣の素材を卸した。

「ダンダさん。こちらの金額で受け取れますが」

「ああ、それでいい」

 金を受け取りギルドを出ると後から付いてくる者がいる。

サッと、曲がり角に身を隠し、一体誰が付けてくるのか確認した。

 付けていたのは、何とマツだった。少しの間しか会ったことが無いのに何故?

 彼とは魔女の家に少しだけ行った折りに会っただけだった。

「ダンダさんですよね」

 彼方から声を掛けてきた。何かの技能か? 隠れているのに見付かってしまった。仕方がない。出て行ってマツと話をしてみる。誰かと勘違いしているかも知れない。

「ああ、そうだが。何か用か?」

「ダンカン坊ちゃんですよね。変わっちまって初めは誰かと思いましたよ。マツです。覚えていないか、少ししか会ったことがねぇですもんね」

「・・・・・」

 なんと答えれば良い? 何故分かった?

「あ、お忍びでヤンスか。大丈夫、誰にも言いやしません。でも、ベッティー嬢様と奥様には報告しなけりゃなんねえな。そこは勘弁してくだせぇ」

「マツ、何故僕だと分かった?」

「匂い・・・ですかね。この頃おいらもゴン兄と同じに分かるようになって、そうしたら昔の匂いまで蘇ってきたんすよ。そいでもって「ダンダ」という名前とピッタリ合さって仕舞いやした」

 マツを見ると、確かに力を感じる。人というのは魔力とは違う不思議な能力が芽生えるもんだな。べべがダンカンにダンダという愛称を付けたのだ。領主館では、未だにダンダはどうしているかと話に上がるそうだ。

「マツ、僕はヤーガイへ帰えるつもりは無いんだ。だから・・・・・」

「分かりやした。心配しねぇで下さい。おいらは理解してますんで」

 そう言ってマツは領主館の方へ歩いて行った。

 剣が出来るまでの時間は、殆ど宿で過ごした。誰がどんな能力を持っているか分からないのだ。ヤーガイの騎士に見付かることだってあるかも知れない。ここでじっとしているしか無さそうだ。

 だが、宿にサラママとべべが押しかけてきてしまった。

「何で屋敷に来なかった!」

「そうよ、顔を見せて欲しかったわ」

 べべは相変わらず可愛かった。栗色の髪の毛、栗色の目、そばかすがあって小っちゃかった。身長は百三十センチくらいか? 母親似で、背は高くはならないだろう。

 サラママは、大きくなってしまったダンカンを見て、少し寂しそうにしていた。そして人間の姿を見てがっかりしているようだ。変わった人だ。

「ねえ、ダンダ。前の姿になれるんでしょう。一回だけで良いから変身して見せて」

 そう言われたので元の姿に戻って見せた。

「凄く強そう。まるで狼みたいになったのね。もうワンワンで無くなってしまった」

 懐かしい、おままごとを思い出した。何故か目から涙がこぼれ落ちてきた。

「ヤーガイへは帰りたくないって言ったわよね。どうして?」

「僕は人が怖いんだ。表と裏がありすぎる。王宮はそれが特に酷くて、僕は辛かった」

「・・・・・そう。それは大変だったわね。ダンダ、心配しなくてもヤーガイには知らせないから。でも、偶には手紙でも良いから、元気だと知らせてあげて。ゴードン王やレオンやサラが凄く心配しているのよ」

「そうか。そうするよ」

「それと、レオンから伝言。ダンカンはマルスへきっと行くからって、以前から預かっていたの。魔の森の魔女の家に来い。だそうよ」

「・・・・・分かった」


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