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5 ソロの冒険者トム

 ダンカンは、イースラン領で半年冒険者を続けている。

 だが宿には一週間に一度だけ泊まるだけだ。魔獣を冒険者ギルドに卸す時だけにしている。イースランで食料を仕入れ、そして森に帰るのだ。結界の奥に土魔法で小屋を建て、そこで生活している。川の側に良い場所を見付けたのだ。そこにはサラから貰った魔道具を設置して、魔獣が来ても結界が守ってくれて安心だ。人は、森に張られた結界のお陰で入ってこない。

 土魔法は面白い。一度作ってしまえば、魔力で維持する必要は無い。空属性のレベルを上げるのは辞めた。いくらやっても思い描いた場所には行けなかったからだ。魔力が足りていないのだろう。だから他の属性のレベルを上げることにしたのだ。そのお陰で闇はカンストした。闇の収斂が出来てしまったのだ。終わった後、掌に魔宝石が出ていた。これは大金で取引される物だ。このお陰でお金の心配も無くなった。

 その後も何度か闇の収斂をして、魔宝石を確保している。

 ここから中心に向かって行けば魔女の家に行けるのは分かっていたが、行かなかった。ダンカンが来た事が知られれば、ゴードンに知られて仕舞い、困らせてしまう。

 今頃はレオンの子どもが次代になっているだろう。そんな時にダンカンが見付かってしまったら、皆が困るだろう。

 偶に金竜の子、キンボウが遊びに来るようになった。

 キンちゃんというヘンテコな名前の金竜の子供だ。金竜の子どもキンボウは凄く大きくなった。キンちゃんの半分くらいに育っている。それでもまだ甘えん坊で、何時も金竜に叱られているのだ。

【一人で獲物を獲ってこい】と何時も言われているらしい。

 そんな時にキンボウは、ふて腐れてダンカンのところに来るのだ。

「キンボウ、ここには来ない方がいいよ。いくら人間が来ないと言っても偶に迷い込んでくることがあるんだ。見付かれば殺されて仕舞うよ。お前はへっぽこだから」

「ギュルルルッ!」

「そんなことは無いって? 自分を分かってないなぁ」

 だがキンボウが偶に来てくれるお陰で、話し相手が出来て、淋しさが和らいでいる。キンボウはどうやらダンカンが造った魔宝石を狙ってきているようだ。偶には食べさせてやるが、勿体なくて偶にしか上げない。これは万が一のための資金になるのだから。

 本当は街に住めば良いのだろうが、長い間街に住めばやはり苦しくなってくる。ダンカンはいまだ人間不信から抜け出せていないのだ。

 ルークとの一件が勇気を与えてくれはしたが、人の陰口が聞こえすぎるというのは辛い。例え自分の事では無くても、人の外面と内面のギャップがダンカンを森へと逃避させてしまうのだ。

 ダンカンは、四級になった。冒険者としては中級だ。申請年齢では十六歳だが、まだ十四歳にもなっていない。後三ヶ月で十四歳にはなるのだが。身長は百八十センチに少し足りないくらいになった。。

 街では偶にトムを見かける。彼も未だにソロで冒険者をしているようだった。協調性に欠ける性格は、皆に敬遠されるようだった。彼の場合、おべっかや忖度が出来ない、真っ直ぐな性格が災いしているようだった。ダンカンにしてみれば、素晴らしい性格だった。ダンカンと違い、嘘は全く言わない。少しいばりんぼうで、話を誇張する癖があるが、トムはそんなに悪い人では無かった。人の世では生きづらい損な性格だった。

 そんなある日、トムが結界を超えて奥の森に入ってきた。丁度ダンカンが魔獣を退治していたところに居合わせてしまった。ダンカンは元の姿で雷撃を放った瞬間だった。

 トムはダンカンがダンダだとは分かっていなかった。未知の黄緑色の魔物がいたと考えているようだ。人型の魔獣が魔法を放っていると。

 トムは大きな怪我をしていた。命に関わる怪我だ。魔獣の毒にやられて今にも死にそうだった。仕方なく、ダンカンは光魔法を使って、トムを救った。彼は今、ダンカンの造った小屋で休んでいる。

 目を覚ましたトムは、開口一番こう言った。

「貴方は、異形の王子ダンカン様ですか?」


 何故、トムは一年以上前のダンカンのことを知っているのだろう。未だにゴードンはダンカンのことを探しているのだろうか?

 王宮ではよく知られていることだったが、市井にまでは異形の王子のことは知られていなかったはずだ。

 ダンカンは王宮からこの姿で出たことが無かったのだから。

「誰がそんな嘘っぱちを言っている?」

「騎士達が探しているのを聞いたことがあるんだ・・・・・です。一ヶ月前にも探していやした・・・・・です」

「良いよ、普通にしゃべって。僕は王子なんかでは無いから」

「へ、そうなのか? おいら、てっきり王子様なのかと思ったぜ。そんな見た目の奴が他にもいるんだな」

「そうかもな。で、君は何故こんな処に来たんだ。危険な場所だぞ」

「・・・・・一人で魔獣を狩っていたら、下手こいてさ。ンで、毒を貰っちまって、ふらふらになってよく分からない内にここに来ていたんだ。助けて貰ってありがとな」

 それからは度々トムはここに来るようになった。結界を抜けるのは苦しいはずなのに、「また来たぜ」と言って街で買ったパンや、ワインを手土産に二,三日泊まっていくようになった。

 トムとは一緒に狩りをしたり、将来のことを話し合ったりした。初めて出来た友達かも知れない。

 彼にはレオだと名乗った。

「レオは何処の生まれだ? おいらは北の村で生れたんだ。イースランの」

「僕は東だ。あそこの男爵領で・・・・・」

「ふーん。そんな見た目じゃ、苦労したんだろうな。あ、おいらは気にしていないけどさ、気にする奴は多いと思うんだ。いじめられたりな、したんだろう?」

「まあな、もう忘れた。だけどこの見た目のせいで森に住んでいるんだ。誰にも言って欲しくない」

「分かってるって。折角出来た友達だもんな・・・・・おいら、こういう性格だから友達が出来ねぇんだ。寂しくってよぉ。以前ルークって言う友達がいたんだけど、彼奴にも愛想尽かされっちまった」

「・・・・・」

 トムには魔獣の素材のはぎ方を教わることが出来た。彼は魔法鞄も無くソロで活動しなければならなかったため覚えたそうだ。重い魔獣を持っては歩けない。今ではトムも五級になったと言った。ソロの利点は狩った魔獣を独り占め出来ることだ。そのせいで早く五級になれたと言った。

「他の元パーティーメンバーは未だに六級だぜ。何やってんだかな」

 トムは一人で危険な森に入っているせいか、気配察知の能力が早い内から付いたそうだ。魔力とは違う力が感じられる。すばしっこくて小柄なトムは索敵能力があり、パーティーに一人は居て欲しいだろうに。くくりナイフを腰にぶら下げ短めの剣で果敢に魔獣に立ち向かう姿は逞しい。

「おいら、今文字を勉強してるんだ。文字が読めればもっと色んな事が出来そうだしな。あ、計算はもう出来るんだぜ」

「凄いな、誰かに習ったのか?」

「いや、独学ってやつだ。おいらに教えてくれる奴はいねぇし・・・・・」

「もし分からないことがあったら、僕が教えてやれる」

「レオ! お前、文字、読めるのか」

「ああ、僕も独学だけどな」


 ここにトムが来るようになって半年が過ぎた。トムに文字を教える事はしなくて良くなり、そろそろここから出て行くことにした。冒険者のレベルも三級になり、余りの早い進級のせいで周りに注目されてきて、ひっそり隠れていたいダンカンは困ったことになっている。

「レオはすげぇよな。魔法も使えるし、文字も読める。おいらなんて何にも出来ねぇくせに威張ってばっかだったな」

「トムは、もう索敵が出来るじゃぁ無いか。文字も読めるようになったし。本当は君のような人がパーティーには必要だと思うよ。余計なことは言わないようにすれば、きっと仲間が出来る」

「・・・・・そうだな。一度元の仲間のところでも行って見るか」

「そうした方がいい。僕はここを発つことにしたから」

「え! ここから居なくなるのかレオ」

「ああ、マルス領へ行ってみたいんだ」

「大丈夫なのか? その、・・・・・」

「ああ、隠れて行くことが出来るんだ。心配しなくても大丈夫。またここに帰って来るから」

「そうか、分かった。待ってるぜ」

 トムにさよならも言えたし、心置きなくマルス領へ行ける。魔獣の素材はトムのお陰で、総て剥ぐ事が出来た。時空間収納には沢山の魔獣の素材が収まった。

 マルス領には良い鍛治氏がいるという噂を聞いた。ダンカンは古くなった装備をマルス領で作ろうと考えている。

 ここの小屋はそのままにしておく。トムが偶に使いたいと言っていたからだ。キンボウには、ここには来るなと言って置いたから心配はいらないだろう。

 転移の為の魔力はタップリ補充した。硬化が始まってきて、苦しくなってきた。

「さあ、転移が出来るかやってみよう」

 マルス領の領主屋敷へは行けない。一度通ったことのある国境を思い描いてみた。あそこにはもう検問所はなくなったと聞いたので大丈夫だろう。

 ダンカンは転移した。

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