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2 ゴードンの憂い

 ゴードンが、ヤーガイ王国の王になって十年近く経った。

 側近から妻を娶って欲しいと懇願されるが、きっぱりと断っている。

「私が妻を娶り、子が出来れば、ダンカン王子の立場が危うくなるでは無いか。今、やっと国が落ち着いてきたのに態々不和を齎す必要は無かろう」

 側近にはそう言って納得して貰ったが、結婚は全くする気は無い。もしダンカンが王を継ぎたくないと言えば、レオンやレオンの子どもがいるのだ。跡継ぎに困ることはないだろう。

 ゴードンは、以前マーガレットと長い間婚約していた。そのマーガレットでさえ心を許しあうことは出来なかった。

 サラとも少しの間婚約していたが、彼女はレオンと結婚してしまった。サラとならば、心を許しあえたかも知れない。だが、今更そんなことを言っても詮無いことだ。自分の気持ちには、死ぬまで蓋をすることにしたのだ。

「私も四十歳を過ぎたしな。ダンカンを立派に育て上げたら、早めに王の地位を譲るか」


「 ダンカン王子の婚約者候補ですか?」

「そうだ、ダンカンはもう直ぐ十三歳になる。そろそろ決めておいてもいい頃だろう」

「はあ、それはそうですが・・・・・誠に無礼ながら、あの・・・・・」

「ああ、そうだったな。それでも大国ヤーガイの王妃の立場は魅力的ではないか? 侯爵か、若しくは他国の姫でもいないか?」

「はい、何とかお探しいたします」

 普段一緒に過ごしていれば忘れているが、王族の呪いを強く受け継いでしまったダンカンには、難しいことだったのだな。

 何時もは人の姿になって大きな夜会などに一緒に貴族の前に出ているが、未だにダンカンの獣の姿を記憶に止めているものがいる。貴族達はダンカンをことさら下に見る傾向があるのだ。

 ゴードンにはその様なことはしない。この角のお陰で、周りに魔王と言われ恐れられているせいだろう。自分の姿は国を治めるには都合が良かった。

 ダンカンの場合は見た目は犬だ。せめて狼ぐらいに見えれば、畏怖の念を抱かせることが出来たかもしれない。顔も、レオンに似て可愛らしいし、身体はひ弱そうに見える。

 然もダンカンは人と馴染もうとしないし、人前では口を開かないのだ。話をすれば、決して知恵遅れでは無いと分かって貰えるのに。幼い時に受けた悲惨な記憶が抜けず、トラウマを抱えているようだ。


 暫くしてマスレード国の隣の小国から打診があった。

 第二側室の子で今年十二歳になる姫だそうだ。彼女がこの国に来て顔見せする事になった。まだ十二歳と若い二人には、結婚はまだ先だが、これが決まればゴードンはやっと一息つくだろう。

 可愛らしい見た目の大人しそうな姫だった。ダンカンは相変わらず何も言わない。しかし相手も恥ずかしがっているのか、ダンカンの無口を気に掛けていないようだった。

 それとなく観察していると、ダンカンの可愛らしい見た目にうっとりしているようだ。

 ――これなら、上手くいきそうだな。

 一ヶ月、ダンカンと姫は親しげに話をしたり、お茶会を開いたり、遠出したりと仲良くしているかに見えたが、突然姫が、断りの返事をしてそのまま国へ帰ってしまった。

「何故姫は帰られたのだ? 何か心当たりはないか?」

「僕の本当の姿を見せて欲しいと言われたので、見せました。姫はその場で腰を抜かして・・・・・失禁してしまい・・・・・そのまま泣きながら帰られました」

 ――誰かに言われたらしい。王子には呪いが在ると。それを確かめたという訳か・・・・・。

 

 ゴードンの角は呪いとしては目立たない部類だった。だが、ダンカンは顔と体型以外は犬という異形だ。だが、身体能力に富み、鋭敏な感覚の持ち主だ。

 そして世にも稀な全属性の魔力器を持っている。ダンカンは優れた資質に恵まれているのだ。

 見た目に左右されるというのはやりきれない物だな。しかし、ヤーガイの国民には、この見た目は歓迎されている。強大な力の象徴として畏怖の念を抱かせているのだ。

「人間の姿にもなれるのだ。ダンカンに心づもりがあれば、一番良いのだが・・・・・」


「ダンカン、お前が気を許せる相手などはおるか?」

「気が許せる・・・・・? レオンとか、サラとかです。それが何か」

「いや、そう言うのでは無く、例えば貴族の子女とか、いないのか?」

「貴族達は殆ど僕には近づきません。遠巻きにされております。偶に目が合うと、怖がって目を反らされますが」

 まあ、私もそうだが、やはり難しいか・・・・・。

「あ、べべなら気を許せそうですね」

「誰だ、そいつは! いつ出会ったのだ? 平民か、この際平民でも良いぞ!」

「いえ、マルス伯爵の子女、サラの妹です」

 サラの妹だと? ああ、マルス伯爵の後添えの子か。そう言えばしばらくあの領地に匿って貰っていたのだったな。

「その、べべという女子と、婚約でもするか?」

「何故そう言う話になるのですか。べべは妹です。僕はそういう風に思っています。べべはまだ赤ん坊です」

「・・・・・そうか」

 ――これは大変な事になりそうだ。ダンカンの花嫁捜しは気を入れてやらなければ難しいかもしれん。


 ゴードンが肩を落してダンカンの部屋を出て行った。

 ――ゴードンは僕の婚約者探しをまだ諦めていないのか。僕が結婚だなんて、無理だと思うよ。

 ダンカンは、他人とは心を許せそうにない。未だに人間は怖いと思っている。ダンカンに付けられたメイドは優しかったが、彼女はダンカンを恐れていたし、影では『早くこの仕事から解放されたい』と皆に言っていた。

 べべの事は赤ん坊だと言ったが、もう八歳くらいだから赤ん坊ではなくなった。だが、結婚はお互い嫌だと思うだろう。例えべべの方でダンカンの押しの強さに屈して、受けてくれたとしても、ダンカンには人と肌を合わせるのは、ハードルが高すぎる。

 この頃ダンカンは計画していることがある。

 ヤーガイ王国は、ゴードンの頑張りで何とか持ち直した。もう自分がここにいる必要は無いのではないか? ゴードンが半ば脅しを掛けてダンカンを跡継ぎとして連れてきたが、今では僕の代わりにはレオンの子どもがいる。彼等はまともな、呪いがない人間として生れた。さらに、魔力も持って生れたのだ。

 レオンはずっと呪いの研究をしていた。そして遂に呪いを解く方法を見付けたのだ。

 この間、レオンが王宮にコッソリ転移してきて興奮してゴードンに話していた。

「現し身を造って自分の代わりをさせるんだ。現し身はゴーレムを造ってそれに自分の魔力を入れた魔宝石を入れ込む。闇の魔器吸収をゴーレムに掛けると呪いが消えたんだ」

 レオンの背中にあった翼が亡くなっていた。ゴードンは、

「今更呪いが解けてどうする。私はこのままで良い。この角のお陰で国が纏まっているしな。子どもはダンカンがいる」

レオンの三人目の子どもはそうやって生れたそうだ。

 彼等が王になればいいのでは? 自分はこの狭苦しい王宮から向け出してもいい頃ではないのか? 今でも、犬ころ王子と陰では言われているのだ。

 ゴードンには面と向かって言う命知らずがいないだけだ。ダンカンにも面と向かっては言わないが、ダンカンの耳は何でも聞こえてしまうのだ。王宮は昔と何も変わってはいなかったのだ。

 だから、森で自由に走り回って暮らしたい。と考えるようになった。呪いを解くにはダンカンではレベルが低すぎる。

 まず、ゴーレムを造るには、錬金術を学ばなければならないだろう。自分の魔力で作り上げなければ呪いは解けないのだから。

 それにダンカンは人間に対して不信感がある。獣の姿で生きていけば悩む必要は無いのでは?


「ダンカンがいない?」

「はい、ここ3日、何処を探してもいらっしゃいません」

「3日だと! お前達は何故直ぐに私に言わなかったのだ!」

「も、申し訳ございませんッ! お部屋にはこれが・・・・・」

 ――何だ? 手紙か?

『叔父上。勝手に出奔して申し訳ありません。私には跡継ぎは無理です。結婚など出来そうにありません。昔から王宮は私にとって拷問の館でした。今まで何とか我慢して耐えてきましたが、もう私を解放して下さい。許して下さい。どうか、レオパルドの子を、跡継ぎにして下さい。私をこの重責から解放して下さい。叔父上のご健康をお祈りして。では永遠にさようなら。

ダンカン』

 ――永遠にさようなら・・・・・だと?

 ゴードンは無理に婚約者を探すなどしなければ良かったと後悔した。大切な跡継ぎがいなくなってしまった。万が一の時はレオンに頼み込めば何とかなるだろうが、だがダンカンがこんなに嫌だったとは考えてもいなかったのだ。手紙を握りしめ呆然と佇むしかなかった。




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