10 レオンの奮闘
「レオン、ダンカンの元気が無いのだ」
「ゴードンがマリーナのことを断ったからでは無いのか?」
「仕方がなかろう? 彼女は余りにもマーガレットに似すぎておるでは無いか!」
レオンは王宮に来てゴードンに捕まって仕舞い、帰して貰えなくなっている。いつでも転移出来るのだから帰りたいというと、「お主を呼ぶのに時間が掛かるではないか!」と言われてしまった。確かに転移が出来るのはレオンとサラ、そしてダンカンしか今のところ居ないのだ。
――失敗したな。王宮の様子が気になってきてしまったが、こんな事なら、来なければ良かった。
「ダンカンはマリーナのことが好きになったのでは無いか?」
「馬鹿な、かなり年上だぞ! 二十五は過ぎて居るはずだ。そんな年上が好みなのか? 趣味が可笑しいのでは・・・・・?」
「まあ、好みは人それぞれだからな。ゴードンみたいなのが良いという奴も過去にはいたし」
「何だその物言いは。まるで私を好きになるのが趣味が悪いと言っているみたいでは・・・・・ッ! サラのことか?」
「チッ、今は僕が一番好きだそうだ。勘違いしては困る。推しは変わった」
「おし? 何だそれは」
「何でも無い。ダンカンは今どうしている?」
「部屋に引きこもってしまっている。元に戻ってしまった。どうした物か」
失恋の痛み? 違うだろう。まだ恋しているとは限らない。何が原因なのか。
「兎に角、僕が聞いて見るから。ゴードンはこれ以上刺激しないようにしてくれ」
――これをさっさと片付けて、僕は早く帰りたいんだ。
ダンカンの部屋に入ると、ダンカンは、一人ぼんやりと窓の外を見ていた。魂が抜けたようになっている。
「ダンカン、どうした、元気が無いな」
「・・・・・レオン、僕には生きている価値がなさそうだ」
「ッダンカン! 何てことを言うんだ。随分落ち込んでいる。なにがあったんだ?」
ダンカンはマリーナのことを話して聞かせた。そして彼女を傷つけてしまった自分が許せなくなってしまったという。
そうか、彼女が自分の殻に閉じこもっているように見えて、ダンカンは共感した。だが、それは思い込みだったって言う訳か。それは、キツいよな。役に立つ事をしたと思ったのに、返って傷をえぐってしまったのだから。感受性の強いダンカンには耐えられないのだろう。だがこれでは立派な王にはなれない。もう少し図太くなって貰わねば。
レオンはどうしたものかと一計を案じた。
「ダンカン、魔女の家に行こう。そして、本当にマリーナが傷ついているのか確かめよう」
「・・・でもそれは」
「何をグズグズしている? 聞かなければ、お前の勘違いだったかどうか分からないだろう。ここでこうして居ても始まらない。またゴードンに心配掛けているんだぞ」
無理矢理ダンカンを連れて転移した。
マリーナはいつも通り書斎で本を読んでいた。二人が来た事を告げられて、フーッと息を吐き、困ったわと思っていた。また王都へ連れて行かれるのだろうか。私はこのままで十分幸せなのに、お節介にも程がある。
だが、ダンカンの憔悴した姿を見て、若しかしたら彼は前回のことを苦にしているのではと思い至った。
「ダンカン様、貴方は他人のことを思いやりすぎます。私は別に傷ついてはいませんよ。貴方が一生懸命私のことを考えて、気を配ってくれたことは分かっております。思い込みは少しありましたけど」
「ご、ごめんなさい。僕は先走ってマリーナにいらない恥をかかせてしまった」
「まあ、そうですね。でも、お陰で王都を見る事が出来ました。結構愉しかったわ。さあ、元気を出してください」
そう言って彼女はにっこりと微笑んだ。
マリーナは強かった。ダンカンと違い心が強い。今まで一人でいたとは思えないくらいだ。これは正しくマーガレットの子だな。とレオンは思った。
ダンカンを見ると、マリーナのことをじっと見ている。そして
「マリーナ、僕と結婚してくださいっ!」
「「!!!!」」
――何でそうなる? ダンカン!それは只の一時的な思い込みだ。また同じ事をして居るぞ。
「ダンカン様、何か私に母親像を重ねていませんか? それは大きな間違いですよ。私は子どもは嫌です。諦めてください」
マリーナはハッキリ断ったのだが、ダンカンは、
「いえ、貴方と僕は同じです。僕は貴方の魔力が見えます。僕と同じ魔力です。きっと良い夫婦になれます。お願いします、騙されたと思って僕と結婚してみませんか?」
何だそれ、おかしなプロポーズだ。だが、今ダンカンは何と言った? マリーナがダンカンと同じだって?
「! 本当か、ダンカン。マリーナの魔力が見えるというのは。お前は鑑定が使えるのか?」
「鑑定というのとは違うと思うけど、魔力の色は見えます。マリーナは全属性です。魔力は大きくは無いが、総ての属性が使えるはずです。今まで何故検査をしていなかったのか不思議です」
「それは、私がトカゲ頭だったせいかしらね。でも総ての属性が使えるというのは驚きです。魔法は何種類か出来るとは思っていましたが。ダンカン様、結婚はそれとどう繋がりますか?」
「何となく感じるんです。貴方とは親和性があると」
「親和性ですって?」
親和性とは驚きだ。そういう風な口説き方があるとは。だけど、あながち間違いでも無いか。一目見たときから、サラとは、ダンカンの言ったような親和性を感じたことは確かだった。
「マリーナ、ダンカンのことは嫌かい?」
「嫌では無いわ。可愛いと思いますが、年が・・・・・」
「年なら! 僕、直ぐに追いつきます!」
「ダンカン様・・・・・」
マリーナは呆れてしまっている。ダンカン、君が年を取った分だけマリーナも年を取るんだ。考えがなさ過ぎる。
「分かった。少しだけ待つんだ。ダンカン。君の気持ちが変わらなければ、僕がゴードンに掛け合ってみよう」
「どれくらい? 何年も待つことになるの?」
マリーナはダンカンを見て、それから僕に目配せをした。
レオンはそれとなく部屋を出て、物影に隠れて成り行きを見ることにした。
「ダンカン様、貴方、今、青年になり掛かって苦しいのでは無くって?」
「苦しいとは、何が?」
「ハッキリ言うと、せ***がしたいのでしょう? 私が年を取っているから、相手を為てもらえるとでも思った?」
「そ、そんなことは考えていない。酷いな。マリーナは僕が君の、か、身体目当てだとでも言うのか?」
「そうよ、男の人は皆そうだと本に書いています」
「そうか、仮りにそうだとして、それはいけない感情か? 僕は君が好きだ。これは考えてはいけないことか?」
「・・・・・」
レオンは、マリーナが負けたな。と思った。女は押しの強さに弱い。これは経験済みだ。こうなったら、ゴードンに掛け合ってみるしか無さそうだ。考えてみれば、以前ゴードンだってサラと年の差があるのに婚約したのだ。否とは言うまい。
「ダンカン、本当にマリーナと一緒になりたいんだな」
「ああ、マリーナが良い。マリーナで無いと僕は誰とも結婚出来ない気がする」
そうか、そこまで言うなら、何とかしてやる。マーガレットに似すぎていて困るのはゴードンだけだ。口では重罪を犯した者の子どもだと言っているが、似ているが故に私怨が絡んでいるに違いない。現にもう一人のマーガレットの子をきちんと面倒見ているのだから。
ダンカンはそのまま魔女の家に置いてきた。後は好きにすれば良い。返ってその方がいいかも知れない。既成事実を作ってくれた方が話は早く進む。そうなればレオンは早く帰れるのだ。
「なんだとーっ! ダンカンとマリーナが・・・・・」
「可笑しくは無いだろう。王族の血が二人とも流れている。縁組みとしては悪くない組み合わせだ。それに、マーガレットのもう一人の子は騎士として頑張っているそうでは無いか。問題はあるのか?」
「と、年が違いすぎる!」
「以前ゴードンは、サラと結婚をしようとしていたでは無いか。男と女の違いはあるが、今回はお互いが納得しているのだ。ゴードンの時よりも健全だ」
「・・・・・」
「それに、これは凄いことになるかも知れないのだぞ。彼等の子どもは全属性で生れてくるかも知れない。これからの王は全属性となる可能性が大だろう」
「・・・・・そうかな」
「僕が思うには、呪いが大きい子どもは、全属性だったのでは無いかと思っている。彼等は処分されてしまったから、今となっては確かめようは無いが。ダンカンは希望になる」
「レオン、お前、研究者の顔になっているぞ。フン、お前の研究のためにダンカンをモルモットにしているのでは無いのか?」
「・・・・・無いとは言い切れないが。だが、考えてみろ、いくら呪いがなくなったと言っても、これからダンカンの婚約者を見付けることが出来るのか?」
「それは、難しい。頭が痛い問題だ」
「ではこれでいいでは無いか。ダメなら側室を迎えれば済むことだ」
「人ごとだと思っていい加減なことを」
「どうする? あくまで反対するというなら、彼等はこのまま魔女の家に住むかもな」
「お、脅しか! 分かった許す。だから早くダンカンを連れ戻してくれ頼む」
――フーッ。やっと終わった。
サラの元へ帰ってこられた。サラにダンカン達の事を話して聞かせるとサラは、
「まあ、マリーナは初恋に惑わされたのかしら」
と言った。何のことだ?




