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9ヤーガイ王ゴードン

 今夜、ゴードンは主立った貴族達を王宮に招いた。

 滅多に夜会を開かない王が、大きな夜会を開くとあって、貴族達は招待されていなくても、夜会に参加したいと、こぞってやってきた。そう言う貴族にも入れて遣ってよいことにしている。多ければ多いほどこれから行う発表に真実味が出るだろう。

 レオンから、ダンカンがこれまで悩んできたことを聞かされゴードンは苦悩した。

「彼奴はそんなに傷ついていたのだな」

 鋭敏すぎる感覚は決して恩恵ばかりでは無かった。他人の陰口は確かにゴードンにも感じられたが、ハッキリ聞こえたわけでは無い。何時も気にしないようにやり過ごしてこれた。

 だがダンカンにはハッキリ聞こえてしまうのだ。それでは傷つくのは当たり前だ。

 人というものは悪くなくても勝手に陰口を言うものだ。それを一々気にしては居られないが、大人だから耐えることが出来るのだ。幼い頃からそう言う目に遭っていれば、心が閉ざされてしまうのも仕方のないことだった。ダンカンが人に馴染まず口を利かなくなるのは当たり前だった。

 だから、これから皆の前で知らせてやろう。彼等が恐れている呪いがどうなるのかを。

 ゴードンは王の立場を、呪いを見せつけることで優位に保ってこれたと思っている。だが、これからは王として純粋に皆の前に立とうと決心したのだ。


「皆の者、よく集まってきてくれた。今宵貴殿等には面白い余興を用意して居る。存分に楽しんでくれ」

 興も乗ってきて皆が思い思いに歓談し始めた頃、ゴードンはレオンに、

「さあ、初めてくれ!」

 そう言って、舞踏室の中央へ躍り出た。

「皆様、これからゴードン王の呪いを解きますので、目を離さぬよう、よーくご覧じろ!」

 レオンはそう言って王そっくりの空蝉ゴーレムを作り上げた。

 周りの貴族達は始めて見る魔法に息を呑む。

 ゴーレムの胸が輝き始め、魔力が固まりだした。レオンが大きな声で叫ぶ。

「呪いよ消えろ! 魔力器吸収!」

 レオンの手に乗せられた魔宝石が黒くなっていく。魔宝石に呪いが吸い込まれているように貴族達には見えるのだ。

 皆が石に目を取られている内に、ゴードンが苦しみだした。周りの貴族達は恐れ、我先にと逃げだそうとするが、ゴードンが大きな声で一喝する。

「静まれ! 馬鹿ども。我の呪いは綺麗に無くなった。よく見ろ!」

 そこで始めて貴族達は王の額に角が無いのに気が付き仰天する。

「「「「「!!!!!!!」」」」」」

「王族の呪いは消え去った。これでうぬ等は満足であろう。これを持って呪いのことは綺麗さっぱり忘れろ!」


 貴族達は半信半疑ながら、三々五々と帰っていった。

 レオンとゴードンは静かに王の居室に入っていった。側近やメイドも総て追い払われて今は二人きりだった。そこで始めて二人は大笑いをした。

「馬鹿な奴らだ。呪いが自分等に覆い被さるとでも思ったか」

「チョットオーバーにしすぎましたね。やっている最中笑いを堪えるのが難しくって大変でした」

「これくらいやれば、ダンカンも帰ってきて陰口を言われないだろう?」

「まあ、言う奴はいますね。ダンカンも、もう少し大人になれば、我慢できるようになります。それまではゴードンも気を付けてやらなければ。親というのは大変な物です」

「私の呪いを利用して貴族達に恐れられるやり方は間違っていた。始め私はダンカンの見た目は貴族を纏めるのに役立つと考えていたのだ。だが、ダンカンを傷つけていたとは・・・・・考が浅かったのだ。これからは気を付けるよ」

「僕やサラは何時も、子育てで間違っては悩んでいますよ。少しぐらい間違ってもそれは仕方がないことです。ダンカンが一番良いと思うようにしてやれば良いのでは?」

「そうだな。レオンは親として一日の長だったな」

「子どもは確かに三人居るが、それほどでも無いよ。まだ増やすつもりですけどね」

「サラも大変だな。側室でも取ったらどうだ」

「辞めてください。そんなことをしたらサラに逃げられてしまいます」

 ゴードンはレオンを羨ましそうに見た。

「ではダンカンを迎えに行ってきます」

「ああ、頼む」

 

 二年ぶりに見るダンカンは別人のようになっていた。大きく逞しく育っていたのだ。ゴードンの目から涙が溢れ嗚咽まで出てきた。

「ゴードン王、只今戻りました。長らく勝手をいたしまして、申し訳ありません」

「ああ・・・・・構わぬ。元気そうで何よりだ」

「僕は弱虫でした。これからはゴードン王と共にヤーガイの為に頑張ります」

「そ・・・う・・か。期待しておるぞ」

 ダンカンはこれまでどう生きてきたかをゴードンに話して聞かせた。ゴードンはじっと話を聞きながら、内心驚いていた。子どもというのは突然大人になるものだと言うことに。考え方までしっかりしてきた。

「ゴードン王。僕にも友達が出来ました。平民ですが僕の事を獣の僕でも、人間の僕でもそのまま受入れてくれる友達です。逃げ出したことは良くなかったけど、僕にとってこの二年間はとても有意義な時間でした」

「そうか、良かったな。これからは学ぶ事が沢山出来て自由が制限されるだろうが、それでも私に付いてきてくれるか?」

「はい、勿論です。ところで、学園都市の計画は進んでいますか?」

「ああ、もう街としては何とか回り始めたが、学園の教師の選別に手間取っている」

「では、一人推薦したい人がいるのですが」

 ダンカンが言うには、マーガレットの残した子ども、マリーナが適任だという。ゴードンは困った。確かに学識はあるだろうが、彼女は重罪人の子どもだ。だが、ダンカンの言うことを聞いてやりたい。しかし甘い顔をすれば、子はダメになると言うし、暫くゴードンは逡巡するが、

「まずは本人を見てから決めよう」

「はい、その内に連れて参ります。僕も拙いですが、転移が使えますから」

 本当に少しの間に成長したのだな。「可愛い子には旅をさせよ」とは、なんと見識のある言葉なのだろう。その間の親の心配は計り知れないほどだが。


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「マリーナも外へ自由に出て行けるだろう? 僕と一緒に王宮へ来ないか?」

「・・・・・でも、私」

「君が罪を犯したわけでは無いんだ。それに君の知識は役に立つ。これから学園都市に造る大学校で、教鞭を執ってみれば良い。どう? やってみないか」

「少し考えさせてください」

 ダンカンは何としてもマリーナを連れて行きたかった。過去の自分が目の前に居る。

 自分に自信が無く、殻を破ることが出来ない。他人の目を気にして自分が変わることに不安を抱いている。

 マリーナは未だにトカゲの見た目だったことを気に掛けているのだ。彼女のせいでは無いのに、過去の呪いに潰されてしまっている。

――何故か、僕はマリーナのことが気になって仕方がないのだ。これはどういう感情なのか?

 結局マリーナを説き伏せて王宮へ連れて行くことが出来た。少し強引だったが、外へ出ればきっとマリーナも勇気が出てくるはずだ。目が開かれて、殻を破ることが出来るはずなのだ。

 だが、ダンカンの思惑は上手くいかなかった。

 マリーナの顔を見た瞬間ゴードンは、絶対ダメだと言ったのだ。彼女は余りにもマーガレットの子だと分かりすぎるというのだった。

「そうだと思っておりました。私は重罪人の子どもです。ダンカン様にはご迷惑をおかけできません。どうか私を魔女の家に帰らせてください」

 ダンカンは思い違いをしていたのだった。彼女があそこから出て行けないのは、親が侵した罪のせいだった。何という可哀想なことをしてしまったのだ。余計彼女を傷つけてしまった。ダンカンは落ち込んでしまった。


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