第2話「佐久間さんはたぶん、防犯カメラに映らない」
コンビニのバイトって、基本は退屈だ。
でも、ひとつだけ確実にスリルのある存在がいる。
佐久間さん。
23歳フリーター。無口で無表情。仕事は正確、声は小さめ。
で、何より――気配がまったくない。
このあいだなんて、冷蔵庫に商品を並べてたら、突然真後ろから「失礼します」って声がして、
缶コーヒーぶちまけるかと思った。
この人、ほんとに人間なんだろうか。
……っていう疑惑が、今日またひとつ深まった。
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「これ、ちょっと見てくれ」
休憩室で、シフトリーダーの横田さんが防犯カメラの映像を見せてきた。
そこには、スーツ姿の男が店内をふらふら歩いていて――
「……あっ、取った」
「だろ? 手元の動き、明らかにおかしいよな」
男はドリンク棚から何かを手に取り、そのままポケットに入れた。
そのあとレジを通らず出て行ったから、完全にアウトだ。
「時間、13時28分……ああ、私休憩中でした」
「ですね」と、後ろから低い声。
私は背筋を伸ばして振り返る。そこには、いつの間にか佐久間さん。
いるの気づかなかった……というか、また足音ゼロなんですけど!?
「佐久間さん、さっきまでいませんでしたよね?」
「いましたよ。冷蔵棚の補充をしていました」
「……あの、じゃあこの映像、佐久間さんどこに?」
私が画面を指さすと、横田さんが巻き戻してくれる。
でも、映ってない。どこにも。
「いや、いないですよ? 商品の揺れ方は誰か作業してたっぽいけど……」
「……たぶん、死角ですね」
佐久間さんは、表情も変えず淡々とそう言った。
死角? カメラの?
いやいや、補充作業してるのが丸見えになる位置なんだけど……。
「……棚が揺れてるのに、誰もいないってどういうことですか?」
「風とかじゃない?」と横田さんが言うけど、私は納得できなかった。
あの棚の揺れ方、どう見ても“人が手を入れてる”動きだった。
でも映ってない。佐久間さんがいたはずの位置に、誰もいない。
犯人の男が、棚の奥に一瞬ギョッとした目を向けて逃げてったのも気になる。
――あれ、もしかして、本当にいた?
でも、カメラに映らなかっただけ?
いやいやいやいや、そんな非現実……でも、それ以外に説明がつかない。
⸻
夕方。品出し作業の合間に、私はさりげなく尋ねた。
「さっきの時間、本当に店内にいたんですか?」
「はい。ペットボトルの棚にいました」
「じゃあ、なんで映ってなかったんでしょうね?」
「……死角だったんだと思います」
この人、本当に「死角」って言葉好きね。
っていうか、あの棚の角度で死角とか無理あるでしょ。
そもそも商品動いてたし。あと、犯人の表情も明らかに「誰かいた」感じだったし。
なにより――
「……佐久間さん、カメラに映らないタイプの人ですか?」
「さあ、どうでしょう」
またしても、無表情で即答。
なんでちょっとだけ誇らしげなんですか、その顔。
⸻
バイト後、私は帰り道で悶々としていた。
あの人、履歴書に“特技:映らない”って書いてあるの?
ていうか、これまで一緒に働いてて、防犯カメラに映ってたこと……あったっけ?
いや、そもそも採用された経緯も不明なんだよね。
気づいたらいたし。誰が面接したのかも、私知らない。
もしかして――
「日向さん、今日はお疲れさまでした」
「ひぇえええええええええ!?」
また出た! 無音登場!
「ど、ど、どっから来ました!? 今完全に独り言モードだったんですけど!? 聞かれてた!? やめてください心臓止まります!!」
佐久間さんは、わずかに首をかしげただけだった。
「自分は常に一定の距離を保って歩いておりました」
「え、それって、つけてたってことじゃ……」
「夜道は危ないので」
口調が丁寧すぎて逆に怖い。でも悪気はなさそうだし……多分いい人、なんだと思う。
「では、また次のシフトで」
「……あ、はい。お疲れさまでした……」
私が言い終わる前に、彼は街灯の影の中にスッと消えていった。
足音ひとつ立てず、姿勢もブレず。
人間の動きじゃない。
佐久間さんはたぶん、防犯カメラに映らない。
ていうか、そもそも――人間ですか?




