表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

第2話「佐久間さんはたぶん、防犯カメラに映らない」

コンビニのバイトって、基本は退屈だ。

でも、ひとつだけ確実にスリルのある存在がいる。


佐久間さん。

23歳フリーター。無口で無表情。仕事は正確、声は小さめ。

で、何より――気配がまったくない。


このあいだなんて、冷蔵庫に商品を並べてたら、突然真後ろから「失礼します」って声がして、

缶コーヒーぶちまけるかと思った。


この人、ほんとに人間なんだろうか。


……っていう疑惑が、今日またひとつ深まった。



「これ、ちょっと見てくれ」


休憩室で、シフトリーダーの横田さんが防犯カメラの映像を見せてきた。

そこには、スーツ姿の男が店内をふらふら歩いていて――


「……あっ、取った」

「だろ? 手元の動き、明らかにおかしいよな」


男はドリンク棚から何かを手に取り、そのままポケットに入れた。

そのあとレジを通らず出て行ったから、完全にアウトだ。


「時間、13時28分……ああ、私休憩中でした」

「ですね」と、後ろから低い声。


私は背筋を伸ばして振り返る。そこには、いつの間にか佐久間さん。

いるの気づかなかった……というか、また足音ゼロなんですけど!?


「佐久間さん、さっきまでいませんでしたよね?」

「いましたよ。冷蔵棚の補充をしていました」


「……あの、じゃあこの映像、佐久間さんどこに?」


私が画面を指さすと、横田さんが巻き戻してくれる。

でも、映ってない。どこにも。


「いや、いないですよ? 商品の揺れ方は誰か作業してたっぽいけど……」

「……たぶん、死角ですね」


佐久間さんは、表情も変えず淡々とそう言った。


死角? カメラの?

いやいや、補充作業してるのが丸見えになる位置なんだけど……。


「……棚が揺れてるのに、誰もいないってどういうことですか?」


「風とかじゃない?」と横田さんが言うけど、私は納得できなかった。


あの棚の揺れ方、どう見ても“人が手を入れてる”動きだった。

でも映ってない。佐久間さんがいたはずの位置に、誰もいない。


犯人の男が、棚の奥に一瞬ギョッとした目を向けて逃げてったのも気になる。


――あれ、もしかして、本当にいた?

でも、カメラに映らなかっただけ?


いやいやいやいや、そんな非現実……でも、それ以外に説明がつかない。



夕方。品出し作業の合間に、私はさりげなく尋ねた。


「さっきの時間、本当に店内にいたんですか?」

「はい。ペットボトルの棚にいました」

「じゃあ、なんで映ってなかったんでしょうね?」


「……死角だったんだと思います」


この人、本当に「死角」って言葉好きね。

っていうか、あの棚の角度で死角とか無理あるでしょ。

そもそも商品動いてたし。あと、犯人の表情も明らかに「誰かいた」感じだったし。


なにより――


「……佐久間さん、カメラに映らないタイプの人ですか?」

「さあ、どうでしょう」


またしても、無表情で即答。

なんでちょっとだけ誇らしげなんですか、その顔。



バイト後、私は帰り道で悶々としていた。


あの人、履歴書に“特技:映らない”って書いてあるの?

ていうか、これまで一緒に働いてて、防犯カメラに映ってたこと……あったっけ?


いや、そもそも採用された経緯も不明なんだよね。

気づいたらいたし。誰が面接したのかも、私知らない。


もしかして――


「日向さん、今日はお疲れさまでした」


「ひぇえええええええええ!?」


また出た! 無音登場!


「ど、ど、どっから来ました!? 今完全に独り言モードだったんですけど!? 聞かれてた!? やめてください心臓止まります!!」


佐久間さんは、わずかに首をかしげただけだった。


「自分は常に一定の距離を保って歩いておりました」

「え、それって、つけてたってことじゃ……」

「夜道は危ないので」


口調が丁寧すぎて逆に怖い。でも悪気はなさそうだし……多分いい人、なんだと思う。


「では、また次のシフトで」

「……あ、はい。お疲れさまでした……」


私が言い終わる前に、彼は街灯の影の中にスッと消えていった。


足音ひとつ立てず、姿勢もブレず。

人間の動きじゃない。


佐久間さんはたぶん、防犯カメラに映らない。

ていうか、そもそも――人間ですか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ