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読後良しの掌編、もしくは短編集

ありふれた猛暑日のこと

「こんなに暑いと、熱帯魚になって泳ぎたい」


 思わず口走っていた。

 交差点で信号待ちをしながら、

 暑さでちょっとおかしくなったのかもしれない。


 町並みを珊瑚礁に変えてしまおう。

 街路樹は海藻かな。

 それともイソギンチャク?


「カクレクマノミってやつ?」


 駅から自転車で帰宅途中、たまたま出くわした夫も話に乗ってきた。

 お互い仕事が早く終わる日だったから、太陽が高いところにいる空とアスファルトの熱気に殺意すら感じる時間に、二人揃って自転車をこぐことになった。

 

「俺は渓流がいいなぁ」


 もみあげに汗を光らせなが夫はうっとりと空を見上げた。


「ヤマメになって泳ぎたい」


 空の青が清流の青に見えなくもないが、夫も暑さに参っているのかもしれない。


「ヤマメかぁ」


 私は仕事帰りだ。


「天ぷらにして食べたいなぁ」


 がっつりお腹が空いている。


「俺食われるの?」


「食うでしょうね。ビールを添えて」


「その前に、ヤマメは塩焼きじゃない?」


 信号が青になる。


 二人で自転車を進める。

 自転車通行可の歩道には私たち以外誰もいない。

 熱気が視界を揺らしている。

 首の後ろがジリジリ焼かれ、背中に汗がふき出る。


 このまま浮力でふわりと浮き上がって、

 この世界を泳げたらいいのに。


「オクラ買ったから天ぷらにしよう」


 前を走る夫が言った。


「揚げ物すると暑いよ」


「冷えたビールを献上する」


 先を駆ける夫についていきながら、心のなかで「よかろう」とつぶやいた。


 あなたと二人でヤマメになって、渓流を泳ぐもよし。

 南の海で熱帯魚になって、イソギンチャクと戯れるのもよし。


 今日のところは、オクラの天ぷらを肴に、ビールを飲むのこととしよう。

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