君は本当に…
詩音は考えていた。最後、怜が自分に言った言葉の意味を。
確かに少し強引だったり、距離の詰め方もおかしいとは自覚しているが…
だからといって、前に会ったことがあるという結論に至るか、というのが疑問だった。
少し距離の詰め方がおかしい友達。では納得がいかないのだろうか?
(まあ、怜くんには何をしても敵わないからなあ)
もし仮に怜が、「私が怜を知っている」ということを知っている体で話を進めると、おかしいことがいくつもある。
もし、そうだったら私のことを警戒しないのはおかしい。もちろん怜は冷静で、自分の心を押し殺す。でも、なんで怜は
「君と話すのは楽しい。それに…何か懐かしさを感じるんだ」
なんてことを言ったのだろう。
ちょっと待って、私口説かれてる?
「―ッ」
私はベッドに飛び込んで、誰に見られているわけでもない赤くなった顔を埋めた。そして、叫び声を押し殺した。
別に理由がなんであれ関係ない。なんでも嬉しい。
あー軌道修正しないと
でも、懐かしいとはどう意味なのだろうか?怜ははっきりした物言いをしなかったため、なにを言いたいのかがわからない。わかるのは、私と話していると楽しいということ。
大事なことなのでもう一回。
怜は私といるのが楽しい。
まあ、話すもいるもあんまり変わらないからいいよ。全然大丈夫。
まあ、懐かしいということは別に知っている訳ではないことが分かる。
「却下却下!」
それに、怜は根拠のないことは決めつけないし、あれもただのハッタリだったのかもしれない。
それに、こんな短時間でヘマをする訳がない。私に限って!
でも、なんでこんなに私は動揺しているんだろう?確かに重要だが、少し考えればわかること。なんで、なんで…
そんなときに限って、怜の顔が脳裏に浮かんだ。
詩音は顔を真っ赤に染め、上を向いていた。
(私、どうしちゃったんだろう)
もう、この心には最近けじめをつけたはずだったのではなかったのか、なんてことを考えても暴走していくあまりで、結局は自分が弱い人間だということに気付いた。
一昨日のことはもう忘れよう、と思って詩音は学校に向かった。
と言っても特に何も変わらないので、普通に過ごすだけ。そう、普通に。
唯一違うところがあるとすれば、自分の足取りが妙に遅く電車を一本乗り遅れたぐらいだ。まあ、いつも余裕をもって家を出ているのでそこまで問題にはならないが。
教室に入ると、怜の周りには男子が二人いて楽しそうに話していた。楽しそうに?
(完全に挨拶するタイミングを逃した)
いや、だから変に意識はしちゃいけない。休日に二人で出かけたぐらいで。
休日に二人で出かけた?あー、そういえば…緊張していたせいで何も状況がつかめていなかった。待って。ちょっと今は顔に出せないが、一人になった瞬間に顔が崩れる。
そして、何故か怜がこちらを見てくる気がする。まあ、当たり前と言えばそうなのだが…いや、気がするだけでそもそも見ているかどうかすらわからない。そう望んでいるだけの自分がいた。これで説明はついた(?)。
今日は、いつものように慌ただしくない一日だったような気がする。別に、怜が心の中で暴れているから、なんてことは断じてないのだが、気持ちが落ち着く。この表現があっているような気はしないが、気持ちが落ち着いているのは事実なのかもしれない。
でも、そんな日常は嫌だ。つまらない日常は嫌だ。
もう、大切を失うのは嫌だ。今度こそ、残るのは「無」のみかもしれないのに。こんなにも呑気でいいのか?いや、だめだ。今だからこそ出来ること、伝えることはある。そう痛感したばかりではないか。
だから、頑張れ私。特別な何かをすることも、目標がある訳でもない。でも、頑張ろう。明日から。明日から。
結局今日一日、怜と話すことはなかった。