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俺は何も知らない

 



 現在、ボッチな男子高校生がイケメンな女性教師に煽られている訳であります。

 勿論、それはむしろご褒美なのでは、と考える方も大多数いらっしゃることでしょうが…以下略


 状況がいまいち掴めないとは思いますが、簡単に言うと、


「教師が生徒の勉強をする意欲を削ぐのはどういうことなんでしょうかね」


 結構刺さっていた。怜の胸には、ズキズキと朱華の放った言葉が刺さっていた。

 これが言葉の暴力ってやつかもしれない。


(いや、そんなことは無い…はずだ)


 関係は無いが、決して無いが、「はず」って言葉、めっちゃ優秀じゃない?

 いや、勿論関係は無い。濁してなんかない。


「…なんか、すまん…」

「あ、いや…あの…」


 え?それやめろよ、やめてください


 普段、威圧感半端ない、クールでダウナー系でめんどくさがりで、人に興味がなさそうで…

 何故か、どっかの喫茶店の店長の顔が浮かんだが―――


(いや、別に罵っているとかそういうことではなくてですね…)


 まあ、とにかくそんな先生がこんな、かわいそうな人間を見るような目で見られると、流石にくるものがある。

 いや、むしろとか感謝とかは置いておいて、普通に刺さる。


「俺は大丈夫なんで」


 怜は、朱華と目を合わせずに、静かに言った。

 まるで、感情を消したかのように突然、無がそこに出来ていた。


 ついでに、本人も何が大丈夫なのかは分かっていないものとする。

 現実逃避?いや、向き合った結果これだろ。


 というか、ぼっちネタをそろそろやめようと思う。だって、周りには若干二名、よく話す男共がいるし、別にそこまで他人と話しかけないからって何かを深く考えたこともない。だからそんなに気にすることではない。いや、そもそも独りの方が楽なのかもしれない。

 俺は群れないから(決め)


「そうか、ならいいんだが」


 朱華は、とても腑に落ちていなさそうな返事をした。

 まあ、いいけどね。いいけど…ね。


「ところで、先生は何をしているんですか?」


 怜は、この空気に耐えられなくなり、話題を変えることを選択した。

 危うく、孤独な生徒が女性教師に罵られる最高な―――最悪な展開が続くところだった。


「いや、特に何も」

「そうですか―――」


 暇なのか?


 まあ、正直あまり興味は無い、みたいな感じを全面的に出して返事をしてしまった。

 実際そうだからいいか…聞いたのは俺だけど


「そういえば、この前のテスト、数学の点数…あー、えっと」


 今度は、朱華が質問をした。

 怜の耳には、凄く適当な質問に聞こえた。


 この人、話しかけておいて自分の担当教科の生徒の点数を覚えていない、というのはまあ、いいとして…なんでその話題を出そうと思った?


 ああ、この人一応教師か


「まあ、そこそこでしたね」

「ああ、そうだな」


 にしても、何で今日はこんなに話しかけてくるんだろうか。

 いつも通りの雰囲気だと、話すことすらめんどくさそうにしているのに(偏見)…もしかして、俺に気が―――あー、すみません。


「で、何か用があるんですか?」


 なんて冗談はいいとして、さっきから会話がぎこちない。結局何が言いたいのか、話しも中途半端で終わる。勿論、原因は8割程自分にあるのは承知の上で、それでも何か違和感を感じる。

 例えば、何故かはわからないが自分に何か他に用があるのではないか。


 この先生が生徒と話したがらない性格だ、とかそういうことは関係なく、何か目的があってここに来たのではないかと。


「はあ―――だからこういうのは苦手なんだ」

「…」

「お前は…いや、違う」


 朱華は、言おうとしていただろう言葉を区切った。

 何故かは分からない。しかし、わざわざ俺に言う事なのだろうか、それは俺にしか言えない事なのだろうか。


 怜の耳には、まだ内容のないこの会話がとても不吉なものに感じ取れた。


 そして、沈黙が生まれた。雨は、もうとっくに止んでいる。もう、この図書室にいる必要はない。

 じゃあ、何故俺はここにいるのだろうか。


 何か―――何もないはずなのだが、ただ普通に過ごしたいだけだ。

 大切な人のことを忘れる事ない日常。

 忘れている事実がない日常。

 だから、もう何も起きてほしくなかった。


 でも、もう普通が無いことくらい自分にも分かる。

 そもそも、俺の言う普通は逃げていることに過ぎない。結局この普通は普通ではないのだから。


「…俺、もう帰ります」


 そういって、俺は逃げるように図書館を出た。


「ちょっと待て」


 なんて都合の良いことは起こらなかった。

 そして、都合の悪いそれを無視出来る程の屈強な精神は怜に備わっているはずもない。


 こんな時に限って、脳は逃げることを拒んだ。


「…」

「何故、誰も憶えていない?」


 朱華は俺に問いかける。

 しかし、その答えを怜は持っていない。


「…」

「まるで最初からいなかったかのように」


 だから?


「…」

「彼女は―――」


 怜は朱華の言葉を遮って、言った。




「最初からいなかったんじゃないですか?」


 既に怜の目は色が消えていた。




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