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都合の良すぎたプロローグ

 



「まずは、私から自己紹介させてもらう」


 転校生の少女が席に着いたところで教師らしき女性は話し始めた。

 その女性は、黒い髪を後ろでまとめていた。


 まあこういっちゃなんだが、鋭い目つきと無駄のない動き、威圧感のある声。人を殺してそうな雰囲気がある。怜はそんなことを思っていた。


「名前は漆原朱華(うるしばらしゅか)。担当は数学。好きなものは特にない。趣味は…まあ色々だ。嫌いものは大体全部だ。何か質問のある者はいるか」


(…)


 教室が静まり返った。誰も彼女に質問しようとするものはいなかった。


(この先生、やばいな)


 怜含め、生徒の大半がそんなことを思っていた。


「ないならおまえら一人一人自己紹介しろ。出席番号からな。あとなるべく長くやれ」


 怜は、朱華が最初に自己紹介は生徒全員がやると言っていたが、そもそも二年生で初めてのオリエンテーションってもっと他に話すことないのか、と思ったが…


(いや、長くやれってただめんどくさいから時間を過ぎさせようとしているだけなのでは…)


 怜は、もう細かいことを気にしないことを決めた。


 それよりも、直近でまずい課題が怜を迫っていた。

 自己紹介とは、第一印象ですべてが決まる。いわば公開処刑のようなもの。いや、公開処刑だ!


 水沢怜は、自分の番が回ってくる前に頭をフル回転させ、自己紹介のシミュレーションをしていた。五十音順で後ろの方の苗字にしてくれた親に感謝しながら。

 そして、自己紹介の完全攻略法を見つけた。


 話すこと

 ・名前

 ・趣味、好きなこと

 ・挨拶


 必須事項

 ・詰まらない

 ・表情を動かさない

 ・余計なことを言わない


 そして何より大切なのが、「質問をされないこと」

 これは完全にランダムだと思いがちだが、誰も興味の示さなそうなこと・無難すぎてつまらないことを言えば問題ない。おそらく。


 そして前のひとが自己紹介をし終わり、自分の番が回ってきた。


「あー、水沢怜です。趣味は読書です。一年間よろしくお願いします」


(よし、つかみは完璧)


 自分の完璧すぎる自己紹介(水沢怜の場合)に口元が緩みそうになったが、なんとか抑えた。


「はい。好きな本とかってありますか?」


(は?いや、恨む前に何を話すかを…)


「いや、本なら大体何でも好きなので特には」


 怜は質問者にだけわかるように、精一杯睨んだ。これ以上はまずいと思ったのか、質問者は口を閉ざした。そして、自己紹介の解放感を味わいながら椅子に座った。

 怜は、後で涼とはじっくり話し合おうと決めた。


「じゃあ、最後は私ですね」


 隣にいる少女は立ち上がった。俺と先生以外の全員が彼女の方を注目した。もちろん最初から見ていた奴も含め。

 自己紹介の最後の方は全員の集中力が切れそうになるのが定番なはずだが、この場合は違うらしい。そのおかげで、さっきはいい迷惑だった。


黒瀬詩音(くろせしおん)です。転校したばかりなのでなれない部分も多くあると思いますが、どうぞよろしくお願いします」


 詩音は、何の変哲もない自己紹介をし、席に座った。


 彼女の自己紹介中、クラスのほぼ全員が彼女の方を見ていたが、怜はというと…


(…はあ)


 ため息をつきながら窓の外から見える雲を眺めていた。もちろん耳は一言一句聞き逃さない、と言わんばかりに傾いていた。


 自己紹介が終わったあとに気付いたが、一人だけ興味なさそうにしてたら余計に目立ちそうだな、と思ったがそもそも彼女に夢中で誰も怜のことは見ていなかった。




 怜は、自己紹介が終わったところで周りの様子を確認した。もちろん隣にいる美少女を眺めるためではない。

 しかし、その判断は間違っていた。

 怜は、詩音と目が合った。合ってしまった。


 詩音の眼は、見惚れてしまうほどきれいで、宝石のような紫色をしていた。怜を見つめるその瞳に映る自分は、どこか自分とは違う存在に見えた。そして、詩音自身も自分を見ている感覚がないように見えた。


 確かに映るのは自分なのに、その目はどこか遠くを見ているような、そんな不思議な感覚に包まれた。


 怜は、いつの間にか詩音に見惚れていた自分に気づいた。興味がないように振る舞うという自分の心に誓ったことは、もう無くなっていた。


(これじゃ先が思いやられる)


 軽く息を吐きながら、小さく苦笑した。


 幸いなことに、もうとっくに詩音は前を向いていた。




 オリエンテーション(仮)が終わると、生徒たちが彼女の方に近づいてきて、話をしていた。ついでに、「今から自由時間だ」と朱華は生徒たちに告げたが、恐らく話をするのがめんどくさくて決めたのだと思う。


 俺は、あんな風に群がれたくはないなと思った。


(まあ、そもそも群がられないけど)


 こうして、高校二年生一日目の学校生活が終わった。




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