最大の危機
ぐっ、何だ
視界の明度が急に上がった。
しかし、瞼は開いていない。
天は無慈悲にも俺の体を光で照らす。光の線は、己の支配領域を広げるように
影を燃やす。
そんな中、俺は何も出来ずに消えていくのか…非力なことは、気すらも奪って遠のく。
「おはよう」
「あー、おはよう」
また、新しい一日が始まる。
「あのさ…」
「ん?」
あの…その嫌そうな顔やめてもらえませんかね…
「その、光に怯える序盤に出てきそうな魔物の真似事やめて」
「…はい」
え、あー、なんかめっちゃ傷ついたわ。
もしかしてだけど、さっきの「体が弱ってるかつて最強だった魔王」みたいなのが思ってそうなことを心の中で代弁したんだけど、駄目だったのかな?
「ほら、起きろ」
「やだ」
怜は、頬を膨らませて可愛く言った。可愛く。ここ大事。
「おい」
いただきました
三回目ですね。もう説明は省略させて頂きます。
と言っても、口元がにやけているのを俺は見てしまった。
俺じゃなきゃ見逃しちゃうね
「ごめんね」
少し声を高く作ってみた。
まあ、可愛いのは元からなので、作る必要はないんですけどね。
「無茶すんな」
「…わかった、お姉ちゃん」
やっべ、雌が出ちまった。良くない良くない。
こういう女性の前だと、幼児退行してしまうのかもしれない。
どういうシチュだよ
A, 妹に幼児退行させられたい
間違えた。
これはアンサーじゃなくてただの欲望になってる…多分、今までで一番気持ち悪い。
流石に時間があるので、学校に行かないといけない。
「行ってきます」
「気をつけてね」
「うん、行ってくる!」
何か後ろの方で、罵詈雑言の嵐が吹いている音が聞こえる気がしたが、恐らく空耳だろう。
耳鼻科行かないとな~
なんて風に明るく(?)話してはいたが、前にも大丈夫だと言われてこの有様。
気に病まないはずがない。もっと、兄を頼ってほしいものではある。
結局、あの後は普通に帰った後、疲れ切って寝てしまったから分からない。
凛はしっかり寝れたのだろうか?
時間も分からなくなる程、雨に打たれるなんて体験したことが無い。
何があったらそんなことになるのか。
もう凛は、感情の無い人形ではないのだから。
そう、人形ではない。
このときの怜には、凛のことを気に掛ける余裕なんて、本当は無かったのかもしれない。
学校に着くと、クラスメイトの何人かが何故か、少し騒がしいように話していた。
「今日席替えだって」
「えー、どこがいい?」
「私は―――」
え?終わったか?学園生活
この神席(黒板が見えづらい)を手に入れてからというもの、主人公ムーブという俺の立ち位置は定着してきたはずだった(無理がある)。
しかし、ここでこのイベントが来てしまったか…
クソッ、こんなのどこぞの陽キャ共が、
「誰々が隣がいいなー」とか「近くだといいな」とか何とか、話したはいいものの絶望する(偏見)―――
あれ?思った以上に良イベントなのでは?
見方を変えれば、世界は広がるとは本当の事なのかもしれない。もっと、たくさんの目から物事を見てみようと思う。そうすれば、色鮮やかな世界が見えてくるかもしれない。
なんてこと思ってるから味方は減るんだよ、俺。
ああ、俺のことだったか
今までの長い道のり(2か月)に、死ぬ気でついてきてくれた席に感謝を込めて。
なんてことはこれっぽちも思っていないが…いや、ツンデレとかではなく普通に
くじを引き、自分の席に戻り、荷物を持って移動するように指示が出された。
席に着いてみると、そこには新たな景色が―――
(変わってねー)
どうやら俺は、神に愛された上に、公式から主人公認定されたタイプの人間だったらしい。
お前ら残念だったな、そんなんじゃいつまで経っても主人公になれはしない。
俺こそが主人公だ―――
マウントの取り方が非常にショボいので、このくらいで勘弁してやろうと思う。
※主人公の認定基準は、あくまで怜の個人の考えです
この席は正直に言うと黒板が見えずらいのだが、そもそも授業を聞かない人には関係ないので短所は無いに等しい。
ついでに、怜の身長は特別高い訳でも低い訳でもないので、結構微妙に前の景色が映ることになっている。
まあ、関係はないけど。
怜の反対側の端の席、すなわち一番廊下側の一番後ろの席。
そこはくじに入ること無く、朱華の手で驚く程自然に取り除かれていた。
もう、そこに一人分の席は消えていた。まるで、最初から無かったかのように。




