翻訳スキルで異世界無双…って出来ますかね?
朱華は、試験監督という退屈な仕事を任されていた。
まあ、ほぼ全員が任されていると言ってしまえば終わりなんだが。
とてつもなく生産性がないこの時間に、何も出来ないというのが辛すぎる。
何かをしたらテストが全て中止されるぐらいの勢い…は言い過ぎだが、それくらいには注意しておかなければならない。
(なんか面白いことでもなんでも)
「痛ッ」
この緊迫した状況では誰も気付くことのないはずの小さな声で、やや廊下側の後ろから誰かが発した音に気付いたのは、朱華のみだった。
(なんだ)
えっと…あれは霧月煌夜か、何故目を抑えたんだ?
朱華は怪しまれないように、気づかれないように、目を凝らして煌夜の目を見た。
もっとも気付く者はいるはずがないのだが…
(…)
煌夜が目から手を離した。特に何もなかったらしい。
(!)
煌夜が手を退けた先には、いつもの青…ではなく、灰色のような目があった。
いや、灰色なのかと言われれば違う気がする。どちらかというと、元あった青色が色を失っていくような、そんな色をしていた。
それを色と表現して良いのかどうかは分からないが…
朱華は、ずっと視線を向けている訳にはいかないので、少し視線を前にずらしながら横目で煌夜を観察した。
煌夜の手は止まることがなかった。
英語は特別得意なわけではないが、あれが異常な速さだという事だけは分かる。
まるで全て理解しているような、自国語の問題を解いているのかと思わせる程に。
(こりゃあお手上げだな)
煌夜は、どの生徒よりも早く解答を終え、机に突っ伏しやがった。
そして、最後に見えた煌夜の目は青色だった。
後日、担任だからという理由で、英語担当の教師に霧月煌夜の英語の点数を聞くと―――
勿論、圧力はかけてない。決して。
点数は満点だったらしい。
なんか許せねえ
これを異常と判断した朱華は、学校…ではなくある男に相談をした。
生徒の点数を疑って異常というのは少々よろしくないような気がするが、そんなことを気にするような人間ではなかった。
「聞きたいことがある」
『おいおい、それが朝早くに電話を掛ける奴の一言目か?』
電話の相手、氷翔は寝起きのような声で答えた。寝起きなのかもしれないが。
現代人の敵だな
今はもう昼を過ぎているはずなのだが、関係は無い。
「ああ、そうだ。それに何も言うことはないだろう?」
『いや、あー、いや、ないな。で、用件は…霧月煌夜か』
人の心を読むのはやめてほしいものだが、話が早くて助かるのは事実だ。
『そりゃどうも』
「はあ。目の色に関してだ。普段は青い色をしていたはずなのだが、テストの問題を解き始めようとしたときに、急に眼を抑えだしたと思ったら、急に眼の色が消えていった」
『…英語のテストか何かか』
「ああ、そうだ」
察しが良すぎて、もう恐怖を通り過ぎて呆れが来た。
『俺の目と同じような色か?』
「知らん…まあ、そんな感じか」
『それなら、何かの力だ』
「力」それならいくつも候補が浮かんでくる。
それが霧月煌夜の場合は尚更。
「それがお前の目と関係があるのか?」
『いや、俺の目とは違う』
「は?」
回りくどいことを言わないで、さっさと話の根本を知りたいんだが。
『まあ、そう急かすな』
「…」
『多分…翻訳アプリだ』
「は?」
霧月煌夜は、恐らく全てが見えていた。
そこまで大袈裟なことではないが、やっていることのレベルは人間が出来るような事ではない。少なくとも今は。
理解不能な言語の言葉を、自動で他の理解可能な言語に変換する。
そんな感じの能力がおおよその見解らしい。それだけ聞くと凄くショボい気もするが、実際の能力の出所はショボくないらしい。
で、力を使ったのか力が使われたのかは分からないが、それが原因で目の色が変わったんだという。
それで、力を使わなくなったから色が戻った。
そして、青色の目は…
『勇者』
「勇者?」
『なんて言えば聞こえはいいが、形だけのモノだ』
「モノか」
人を物だなんて、よく言えたものだ。
このモノは、電話越しだと分からないものかもしれない。しかし、者ではなく物だという確信は不思議と地に落ちた。
『あれは、人じゃない。そして、恐らく俺の数倍の力を持つ』
「そうか」
『それにあれは―――』
プツンッ
という音共に電話が切れた。
氷翔が切ったのか、誰かの陰謀なのか、それが煌夜なのか、それが煌夜の意思なのか。
「寿命が減ったな」
結局何を考えても意味はない。そう決めたはずだ。
氷翔には悪いが、これ以上の危険は冒せない。




