胃もたれの正しい消し方
「あー、えっと…あ!」
詩音は、空気を戻すために頑張って何かを話そうとしていると、何かを見つけた。
「これは何でしょうか?」
あれ?下の方に隠したはずなのに…なんでこうなった?
「ちょっと待―――」
もう遅かった。詩音はメニュー表を見てしまった。あの伝説の。
「なんかすごくおいしそうですね」
????
「そうか?」
「じゃあ、この一番下のをお願いします」
(?????)
「マジかよ」
「え?普通のメニューですよね?」
「??????」
怜は本日六回目の謎を諦めることにした。
「胃もたれした」
何故俺は、コーヒーを飲んでいて胃もたれをしているのでしょうか?
まあ、見りゃわかる。
(もうこの喫茶店行くのやめようかな)
「また行ってみたいですね、水沢さん」
詩音は怜の方を見て、静かに微笑んだ。
ここまで魅力的な提案をされて断る?いや、無理ですね
「ああ」
気付けば、胃もたれなんて最初からなかったかのように、怜の心は軽くなっていた。
まあ、もともと原因はないんだけど。
「水沢さんも食べますか?」
「あ、遠慮します」
即答だった。
美少女に餌付けされるイベントを断ることは、これが人生最初で最後かもしれない。
「そうですか、すみません」
「やっぱ食べます」
怜は、詩音が少し悲し気な表情をしたのを見て手のひらをクルクルした。
美少女にあーんされたいですね。はい、もちろん。毒でもなんでも喜んで。
胃もたれしても、どうでもいいです。
「すみません。スプーンか何かありますか?」
(あれ?おかしいな)
どういうことだこれは。完全に餌付けフラグだっただろ!
…餌付けフラグって何だよ!
「すまんがない」
氷翔がキッチンの奥から出てきた。で、消えた。
え?そんなことある?喫茶店失格ですね
「じゃあ、はいあーん」
詩音は怜の方にスプーンを差し出した。
嘘です嘘です。喫茶店失格なんて言ってすみませんでした。最高です星5です。
怜は氷翔と後でじっくりお話をしようと心に決めた。
「はい」
なんてことを考えていたら、どんどんスプーンが怜の口に迫っていた。
(あ、死ぬ―――)
怜は、無意識下で口を開けた。
口に入った未知の食べ物は…
甘ッ―――くなかった
口に広がるはずだった甘味は、不思議と甘くなかった。というか味がしなかった。
「どうですか?」
いや、多分脳が餌付けと美少女のことしか考えられていないからか。
正直に言うと、味のこととか目の前にある胃もたれしそうな食べ物のことなんて、これっぽちも頭に入ってなかった。
でも、甘くないなんて言ったらおかしいと思われるし、なんか意識してるみたいじゃないか!いや、そうだけど…
「まあうまい」
「じゃあ、もっと食べます?」
「あ、遠慮します」
もう、いいです。はい。
「それより、それ甘いか?」
「え?はい、とっても」
本当に俺の味覚が狂ってたのか。これは不味い。
味だけに
(…)
詩音はまた食べることを再開した。すると、途中で手が止まった。
「…」
「どうした?」
「いえ、なんでも…ない…です」
突然、詩音の顔が赤くなり、スプーンを持つ手は震えている。
なんだ?生理か?すみません
「おい、大丈夫じゃないなら正直に言え」
俺は、スプーンを置かせるために詩音の手からスプーンを取った。
「…」
詩音は完全に赤く染まった顔を隠すように下を向いた。
「本当に大丈夫か?」
流石にこれは無理をさせている気がする。
俺は詩音に熱があるのかと思い、詩音に額に手を当てた。
「―ッ」
詩音は俺の手を払い、泣きそうな顔で睨んできた。
流石にこれは不味かったか、とも思ったがこれは少々しょうがないことだとも思う。
「だから…大丈夫だって言ってるでしょ!」
そう言い、詩音はチビチビと食べ始めた。
なんかずっと俺の方を見てる。
そんなに?傷つくわー
「…水沢さんが悪いんです」
詩音は、そう静かに呟いた。
「ちょっと、あの店主と話したいから待っててくれ」
「はい」
さっきから詩音が冷たい。だからちょっと逃げます。
「いやあ、罪な男だね」
「何がだ」
「いいや、何でも」
来たらそれか?腹立つなコイツ
氷翔は客に取る態度とは思えない話し方をしている。初対面だよな?
「あんたはいつも暇なのか?」
「まあ、見りゃわかるだろ」
氷翔は自虐を、もう慣れてるように言った。促したのは私、水沢怜です。
「そういえば、うちのメニューはどうだった?」
「あー、味が頭に入ってこなかった。ある事象のせいで」
「いや、それが普通だ」
氷翔は笑いながらそんなことを言った。
どういう意味なのか心当たりはあるが、それとは違う気がする。
「あれ、スプーンあるじゃないか」
俺が指を差した方向にはスプーンみたいなものがたくさん置いてあった。
「ほら、男のロマンって奴があるだろ?」
「やっぱりか」
心の中で感謝をしよう。ちょっとっていうか相当キモイな、俺。
「それと、お前あれはないな」
「何がだ?」
「そういうところが」
は?殺すぞ
「ごちそうさまでした」
詩音は頭を下げ、丁寧に店主に挨拶をした。
もちろん、怜はそんなことはしない。したとしてもそこまで丁寧にはしない。
「いいお店ですね、水沢さん」
「ああ、そうだな?」
確かにあの店の雰囲気も、人がいないところも。人がいないところも。
それと、あの店主は不思議と話しやすかった。
「ただいま」
怜は家に帰ってくると、返事のない家に帰ったことを伝えた。
そして気付いた。違和感に。




