表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

笑う君と自分

 



 俺は今、人生の瀬戸際に立っています。助けてください。


 刻は止まることなく、炎を無造作に飛ばす。


 Q 何の話ですか?

 A テスト一週間前で何も勉強に手を付けていません。まだ時間はある?いいえ。やる気がないので無理です。


 Q ついでに今日は早めに学校が終わりますが、帰ったら何をしますか?

 A 何って何も…


 体育祭の余韻はすっかり消え、もうテストの雰囲気が漂っている。なんだその気持ち悪い空気。漂うな。


「うわー、あと一週間か。意外にまだ時間あったわ」

「鬱陶しい。インテリ眼鏡」


 涼。こいつはできる奴だ。


「甘いもの食べたくなってきたなあ」

「お兄さんのお家来る?」


 煌夜。こいつは…知らん。


「お、怜選手。余裕の表情を見せています。いや、もしやこれは…諦め!」

「ハハハハ」

「…」

「…」


(マジかー)


 そんな二人の声が聞こえてきた気がするが、残念ながら耳を通り過ぎて行った。




 今日は午前中に授業が終わり、帰る準備をする。

 別に、怜は勉強が出来ない訳ではない。ただ、やる気がないだけなのだ。まあ、そこが一番重要なんだけど。


 と虚空に目を向けていると、隣から詩音に話しかけられた。


「あの、どうしたんですか?」

「いや、別に」


 それだけ言うと教室を去ろうとした。その時、後ろから声がした。


「あの…」

「…」

「これから一緒に勉強しませんか!」

「了解した」


 即答だった。ちょっと自分でも気持ち悪いと思ったが、まあいい。


「え?どういうこと?」

「前にもこんなことなかった?」

「おい、どういう関係なんだ?」


 なんて声が聞こえてくる。正直目立つのは嫌だが、それより今は、直接言いの来ないでコソコソ話している奴等に怒りを感じた。陰口が聞こえる度に視線を強く感じる気がしてならない。


「勉強するなら、早く行くぞ」


 怜は、その場から逃げるように教室を出た。


「あ、はい」




「で、これからどこで勉強するつもりだ?」


 学校を出たはいいが、どこで勉強するかは聞いていなかった。

 場所の候補は…


 ・学校

 論外。言うことはない。


 ・図書館

 隣にいる美少女が目立ちすぎて、周りの目がすごいことになる。正直に言って嫌だ。


 ・喫茶店

 前に行ったし、店員やばいし…まあ却下気味。


「あの…図書館とかだと目立つので…」


 どうやら考えることは大体同じらしい。


「その…私の家、誰もいないので―――」


 詩音は顔を赤らめ、小さな声で言った。怜は何を言おうとしているのかは検討が付いていた。だからこそ。


「じゃあ、この前行った喫茶店にするか」


 しかし、怜は詩音が何を言いかけたのかわからないフリをした。


 何故か。それは付き合ってもない男女が片方の家で二人きり。それも、まだ一か月とちょっとしか経ってない。

 もう終わってんだろ。ラブコメ的に。

 あ、これは詩音がヒロインって設定なので気にしないでください。


 ※あくまで怜の個人的な意見です


 ここで謙虚さ(謎の自信)を発揮することで、気持ち悪く食いつく男、を捨てた。変わりに、勝手に自分のことを主人公だと認識する人間を拾った。


「うん。そうですね」


 詩音は、微笑んだ。

 顔も声も、悲しそうな微笑みを。




(あー、流石にやり過ぎたか)


 怜は、乗った電車の中でさっきの会話を思い出した。


 自分の行動は最低だが、こちらとしても思っていることはあるので、しょうがない。いや、端から見たら最低な彼氏だが、付き合ってないんですよね、これ。


 こういうのは苦手だが、自分が相手のことを意識している、と思わせるように照れよう。いや、意識はしまくってるが、表に出そうという意味で。


「女性の家とか…慣れないんだ…」


 俺は、そう言うとなるべく詩音の顔を見ないようにして前を歩いた。なるべく意識をしていると思わせるように。


「そうですか」


 詩音は、さっきよりも小さな声で、誰も聞こえない声で呟いた。

 その声はもう悲しそうには響かなかった。


(ほんと最低だな、俺)


 相手の気持ちを揺さぶるようなことを言ったり、自分の好感度を上げようとしたり、挙句の果てには自分の気持ちまでを偽った。嘘ではなかったが、偽ったことには変わりない。


 これは、優しい演技なんかじゃない。人を騙して弄んでいるのと変わらない。


「どうしたんですか?水沢さん」


 どうやら、足が止まっていたらしい。


「いや、すまない」

「置いて行きますよ?」


 声を掛けられなかったら本当に置いてかれるところだった。電車って怖い。


「勘弁してくれ」


 さっきとは打って変わって明るい声で笑いかける詩音に、何とも言えない罪悪感が残った。


 怜の前にいる少女の笑顔を作ったのは怜自身だ。なんて言えば聞こえはいいが、そんなものはただの綺麗ごとに過ぎない。


(俺の心はこんなに酷く濁っているのにな)


 そんなことを、全く笑えないことを思っていると、不思議と口元は歪んだ。


 鈍感が良かった。馬鹿が良かった。策謀はいらない。これは陰謀だ。

 それでも笑える自分は…

 それでも笑う自分は…




 本当に気持ち悪い




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ