笑う君と自分
俺は今、人生の瀬戸際に立っています。助けてください。
刻は止まることなく、炎を無造作に飛ばす。
Q 何の話ですか?
A テスト一週間前で何も勉強に手を付けていません。まだ時間はある?いいえ。やる気がないので無理です。
Q ついでに今日は早めに学校が終わりますが、帰ったら何をしますか?
A 何って何も…
体育祭の余韻はすっかり消え、もうテストの雰囲気が漂っている。なんだその気持ち悪い空気。漂うな。
「うわー、あと一週間か。意外にまだ時間あったわ」
「鬱陶しい。インテリ眼鏡」
涼。こいつはできる奴だ。
「甘いもの食べたくなってきたなあ」
「お兄さんのお家来る?」
煌夜。こいつは…知らん。
「お、怜選手。余裕の表情を見せています。いや、もしやこれは…諦め!」
「ハハハハ」
「…」
「…」
(マジかー)
そんな二人の声が聞こえてきた気がするが、残念ながら耳を通り過ぎて行った。
今日は午前中に授業が終わり、帰る準備をする。
別に、怜は勉強が出来ない訳ではない。ただ、やる気がないだけなのだ。まあ、そこが一番重要なんだけど。
と虚空に目を向けていると、隣から詩音に話しかけられた。
「あの、どうしたんですか?」
「いや、別に」
それだけ言うと教室を去ろうとした。その時、後ろから声がした。
「あの…」
「…」
「これから一緒に勉強しませんか!」
「了解した」
即答だった。ちょっと自分でも気持ち悪いと思ったが、まあいい。
「え?どういうこと?」
「前にもこんなことなかった?」
「おい、どういう関係なんだ?」
なんて声が聞こえてくる。正直目立つのは嫌だが、それより今は、直接言いの来ないでコソコソ話している奴等に怒りを感じた。陰口が聞こえる度に視線を強く感じる気がしてならない。
「勉強するなら、早く行くぞ」
怜は、その場から逃げるように教室を出た。
「あ、はい」
「で、これからどこで勉強するつもりだ?」
学校を出たはいいが、どこで勉強するかは聞いていなかった。
場所の候補は…
・学校
論外。言うことはない。
・図書館
隣にいる美少女が目立ちすぎて、周りの目がすごいことになる。正直に言って嫌だ。
・喫茶店
前に行ったし、店員やばいし…まあ却下気味。
「あの…図書館とかだと目立つので…」
どうやら考えることは大体同じらしい。
「その…私の家、誰もいないので―――」
詩音は顔を赤らめ、小さな声で言った。怜は何を言おうとしているのかは検討が付いていた。だからこそ。
「じゃあ、この前行った喫茶店にするか」
しかし、怜は詩音が何を言いかけたのかわからないフリをした。
何故か。それは付き合ってもない男女が片方の家で二人きり。それも、まだ一か月とちょっとしか経ってない。
もう終わってんだろ。ラブコメ的に。
あ、これは詩音がヒロインって設定なので気にしないでください。
※あくまで怜の個人的な意見です
ここで謙虚さ(謎の自信)を発揮することで、気持ち悪く食いつく男、を捨てた。変わりに、勝手に自分のことを主人公だと認識する人間を拾った。
「うん。そうですね」
詩音は、微笑んだ。
顔も声も、悲しそうな微笑みを。
(あー、流石にやり過ぎたか)
怜は、乗った電車の中でさっきの会話を思い出した。
自分の行動は最低だが、こちらとしても思っていることはあるので、しょうがない。いや、端から見たら最低な彼氏だが、付き合ってないんですよね、これ。
こういうのは苦手だが、自分が相手のことを意識している、と思わせるように照れよう。いや、意識はしまくってるが、表に出そうという意味で。
「女性の家とか…慣れないんだ…」
俺は、そう言うとなるべく詩音の顔を見ないようにして前を歩いた。なるべく意識をしていると思わせるように。
「そうですか」
詩音は、さっきよりも小さな声で、誰も聞こえない声で呟いた。
その声はもう悲しそうには響かなかった。
(ほんと最低だな、俺)
相手の気持ちを揺さぶるようなことを言ったり、自分の好感度を上げようとしたり、挙句の果てには自分の気持ちまでを偽った。嘘ではなかったが、偽ったことには変わりない。
これは、優しい演技なんかじゃない。人を騙して弄んでいるのと変わらない。
「どうしたんですか?水沢さん」
どうやら、足が止まっていたらしい。
「いや、すまない」
「置いて行きますよ?」
声を掛けられなかったら本当に置いてかれるところだった。電車って怖い。
「勘弁してくれ」
さっきとは打って変わって明るい声で笑いかける詩音に、何とも言えない罪悪感が残った。
怜の前にいる少女の笑顔を作ったのは怜自身だ。なんて言えば聞こえはいいが、そんなものはただの綺麗ごとに過ぎない。
(俺の心はこんなに酷く濁っているのにな)
そんなことを、全く笑えないことを思っていると、不思議と口元は歪んだ。
鈍感が良かった。馬鹿が良かった。策謀はいらない。これは陰謀だ。
それでも笑える自分は…
それでも笑う自分は…
本当に気持ち悪い




