体育祭って大体暇
四月も後半になり、体育祭の準備が始まっていた。
「おい、お前ら。体育祭の…やっぱ任せる」
漆原朱華は、いつも通り生徒全振りstyleをかましてきた。そう、勿論生徒の自主性を高めるために。
今回の被害者は…あー涼だ。いや、毎回そうなんだけどね。学級委員だししょうがない。
皆、メンバー決めやら競技はどうするやら、楽しそうに話し合っている。
勿論、俺は机に突っ伏します。
皆が興味ありそうなことを興味なさそうにしてる自分カッケー…
いや、やっぱりただ面倒くさいだけか
「あの…水沢さん?大丈夫ですか?」
不味い、結構寝てたかもしれない。と思ったら詩音に起こされていた。
顔を上げると、心配そうにこちらを見つめる詩音の姿があった。
他の人は…移動教室か
朝から人と話すのは疲れ…いや、例外がいた。最高です。
「ああ」
「え、大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
あれ、なんか流れが変わっていくような…
「あれです」
と指を差した方向には、体育祭のメンバー決めの表が張られてあった。
そこには、怜が走らされるということが書いてあった。
終わった…短距離走って何だよ
「何があった、黒瀬」
「はい。水沢さんが寝ている間にメンバーが決まりました」
「経緯は」
「最初は余った競技に入れられていたんですが…藤井さんがリレーではなく、個人の結果だけが反映される短距離走の方が良い、と」
なるほど、終わった。
しかし、涼には仮を作ってしまった。まあ、もう赤字が限界突破してるけど。
「…」
「頑張ってください」
詩音は、そう言うと微笑んだ。憐れんでいるような気がしたのは気のせいだ。
残念だが、収穫がマイナスになることはなさそうだった。
「黒瀬は何に出るんだ?」
これっぽちも興味はないが、一応聞く。一応。
「私は玉入れです」
「なんか目立たなそうで良さそう」
「本当に大丈夫ですか?」
あー、本気で同情されているのがこんなにもキツイとは。まあ、大丈夫ではないけど。
体育祭当日、地獄が始まった。って言ってもほぼやることがないので楽だが。正直に言うと、競技以外は暇なので特に何もない。
「あれ、怜は応援しなくていいの?」
「何をだよ」
現在、玉入れが行われているが、何故かベンチでは最大級の盛り上がりを見せている。
「ほら。黒瀬さん頑張ってる?よ」
「まあ、なんかうちのクラスの奴等も、かわいそうというかなんというか」
煌夜もそこまで玉入れに価値を見出せてない。
いや、美少女が籠に玉を入れてるのの何が楽しいんだ。
なんてことを言うとでも思ったか!美少女は眺めているだけで、それ以外の何物にもならない価値がある。実際、体操着は素晴らしいと思う。体のラインをなぞr…
興味がないので今は、涼や煌夜と話しているところだ。最も、話すことはないが。
「怜と煌夜は次か?」
「うん。行ってくるね」
「はあ」
怜は、立ち上がる時に酷いため息をついた。
「まあ…頑張れよ」
そう言って、涼は怜の肩を叩いた。
いい友を持った。まあ、本当はリレーも短距離走も、どっちもやりたくなかったけど。
さあ、戦地へ赴こう
怜は自分のレーンに立つと、心の中で恨み事を言っていた。
(まあ?正直こんなもんどうでもいいんですよ。別に誰かになんか言われる訳でもないし?ていうか良くないと思うんですよね。なんで走らされなきゃいけないのかがわからないですね。走りたい奴が走ればいいのに。で、適当にやったら罵倒?一応ね?本気出しますかね?)
怜は、自分の口が笑っているのに気づかなかった。
この状況を楽しんでいることにも。
結果、怜の足は速かった。
そして、二位と少し離れたところで一位でゴールした。
「ねえ君、速かったね。陸上競技部に興味ない?」
勧誘かわからないが、やたらとがたいのいい先輩のような人が立っていた。
ゴールして疲れている直後に声を掛けられたのは気に食わなかったが、不思議と怜は良い気分だった。
「あ、いや俺は―――」
直後、ピストルの音が鳴り響き、次の走者が一斉に走り出した。煌夜の番だ。
「…」
「…」
煌夜は、この世のものとは思えない程の速さでゴールした。まあ、ある程度は常識の範囲内なのかもしれないけど。勿論、空間を消したり、テレポートしたわけでもない。
しかし、まるで風を切っているような、なんなら空間切れてるんじゃないかって思うほどに。それに…
(あれ、流してるよな)
怜は、友達に対してちょっと引いた。
そして、さっきの人はもう隣にはいなかった。
煌夜に目移りしたようで、すぐに話しかけにいった。やけに興奮して話しかけているので、煌夜が少しかわいそうだった。
「あー、もうやってられんわ」
怜は、独り言を呟きベンチに戻った。
次はクラス全体の競技らしい。ベンチには一人を除いて誰もいなかった。
「お疲れ様です」
詩音はそう言うと、水を差しだしてきた。
「え、ああ、ありがとう。黒瀬は何やってるんだ」
突然のことで驚いたが、クラスメイトとして全くありえないことではない。
俺は、ベンチに座り水を飲んだ。
「いえ、待っていただけです」
え?俺を?何照れる~
ちょっとこのノリ気持ち悪くなってきた。
「そうか。じゃあ、そろそろ行くか」
「はい。それと…」
俺は、次の場所に行くために立ち上がろうとしたが、立ち上がれなかった。
「かっこよかったですよ」
耳元で囁かれた小さな声は、怜の頭で鳴り響き、消えることはなかった。
―――こうして、体育祭は終わった。




