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少女の止まった時間

 



「お兄ちゃん、起きた?」


 朝、怜はゆっくりと瞼をあけ、ベッドの脇にいる小さな人影を見た。少女は、こちらを向き微かに笑った。そして、怜は瞼を閉じた。


「凛、おやすみ」

「ちょっと、いつまで寝て…」


 凛は何かを言いかけたが、言葉を止めベッドの中に入っていった。


「あ゛ー最高っす」


 え?ちょっとその顔からは考えられないような声が…凛さん?嘘だよな?


「まあ、可愛ければなんでもいい」


 凛は何のことだかわかっていないようだったが、構わず俺は隣にいる妹の頭を撫でた。


「んっちょっとお兄ちゃん?」


(なんだこの可愛いのは)


「いや、可愛いなと思って」

「もう!早く起きて!」


 凛は、顔を赤らめて怒っている風に言った。俺の妹は最高に可愛かった。




「いや、ギャルゲーの冒頭か!」


 恐怖(?)のあまり目が覚め、ベッドから飛び起きた。まだ外は、朝と呼ぶには暗かった。

 怖い妄想もあるもんですね(他人事)。


 隣には、何故か顔も名前も知らないはずの少女が眠っていた。これだけ聞くと不味いことになるが…こんな冗談を考える気分じゃなかった。


 恐らく、怜はあの後そのまま寝てしまったらしい。凛、という名の少女は隣で永い眠りについている。


(それにしても、さっきの夢は何だったんだ)


 まるで、前にもこのような出来事があったかのような、そんな感覚がした。それに、夢にしては良く出来ていた。隣にいる少女を具現化させたような気がした。

 ただ、夢にいた少女はここにいる少女よりも元気だった。現実にいる少女は、目を覚ましすらしない。覚ますかもわからない。


 夢の中の自分は、この少女のことを妹として捉え、凛と呼ぶ。しかし、そう呼んでいたという確信はない。そもそも仲が悪くて、これは理想論なのかもしれない。とにかく、情報が全く足りなかった。


 そして怜は、また同じ夢を見たいと願った。




 怜は、部屋の中を見ることにした。

 何故今まで、部屋の中を見ようとしなかったのか。それは、単純にこの感覚に陥ったのは最近のことだったからだ。

 いつからこの少女のことを忘れているのか。そもそも、この少女と接点はあるのか。それですら疑問だった。だからこそ、怖くて何も出来なかった。いや、よく耐えた方だとは思う。こんな状況で普通の人間でいられる訳がない、と思ったが恐らくこのことは自分にしかわからない。


 女性の部屋を見ようとする、なんて気持ち悪いことは気が引けたが、しょうがない。状況が状況だ。しょうがない。

まだ、心に軽口を叩ける程の余裕があることを確認して覚悟をした。


 少女はいつも通り、ベッドに横たわっている。動くことなく。




 机の上にあるカレンダーの日付は三月で止まっていた。もしかしたら…


 怜の視線は、その隣にある写真立てに映った。夢の中にこんなものはあったか?と思ったが、どうでもいい。

 写真に写っているのは、怜とそこにいる少女だった。


 写真は、どこかの海で撮られたものだろうか。

 自分の顔はいつも通り死んでいて、明後日の方向を向いている。ピースもどこかぎこちない。

 少女は、最高の笑顔を見せており、自分の肩に寄りかかった体勢で映っていた。


(こんな写真を撮った覚えはない)


 確かに、去年の夏休みに海には行った。しかし、一人で散歩ついでに行っただけなので、こんな写真は撮っていない。はずだ。


 しかし、怜は散歩ついでだから、と言って海に行ったり、そもそも一人で散歩に行くような人間ではなかった。


 じゃあ、この写真はなんだ?確かに映る自分の姿はどう説明する?


 ここで怜は、記憶がねじ曲がっていること。そして、その先には凛という少女の記憶があることを確信した。




「じゃあ、行ってくる」


 怜は、そういうと隣の少女の頭を撫で、準備をしてから学校に向かった。




「なあ、怜。お前って部活入んの?」

「は?入る訳ないだろ」

「え?いや、うん。そんな強く言わなくても…」


 最近は、部活の勧誘が多い多い。結構大変。


「煌夜は?」

「んー、僕も特には。別に興味ないし」

「えー、マジかよ。まあ俺もだけど」


 結局、三人とも部活に入る気はなさそうだった。


「涼は意外だな」

「部活か?いやー、なんか堅苦しそうだしな。怜はなんでだ?」


 涼は、気楽にやりたいらしい。まあ、確かにその気持ちはわかる。そして、話しが振られた。


「…いや、ちょっとやりたい事が増えたから」

「怜がやりたい事?ちょっと気になるかも」


 煌夜は、少し興味がありそうに聞いてくる。


「まあ、記憶の旅?なんつって」


 自分でも何を言ってるのかはわからないが、機は気長にまとうと思う。




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