鈍感は罪
怜は朝、教室に向かうと問題の少女が早々と席についているのが目についた。別に問題だと思っているのは自分だけなのだが…
ここは、無駄に意識するなんてことをしたら終わる。まず、自分の席に着き、他の事に興味を出している風に動く。絶対に隣は見ない。絶対に。
え?ここまで聞いたら最低な人間だって?
主人公という人物は、いつでもクズがなるものだから(偏見)。
隣にいた詩音と目が合った。怜の目つきは、いつにも増して酷いものになっていた。
ついでに怜の目つきは、不機嫌な時も通常時もあまり変わらない程酷い。
なんで目が合って話しているか。それは、怜が詩音の方を見たからです。なんで怜は隣を見たか。それは、ちょっとよくわかんないです。
「おはようございます。水沢さん」
「ああ、おはよう」
詩音は怜の方を見て、いつも通り挨拶をした。いつも通りと言える程出会ってから日数はたっていないが。それに続けて、怜もいつも通りの感じの悪い挨拶をした。こっちはいつも通りです。
今日は涼も煌夜も話しかけてこない。もしかしたら気を使ったのかもしれない。いや、俺は人に気を使われる人間になった覚えはない!ない。ない…すみません。
それに、昨日何も話していないからなのかはわからないが、特に男子の視線が詩音から俺に反射することは少なくなっていた。一応、金曜日に学校に行った日から学校では一度も話していない。だからか、いやそもそも俺の存在が薄いからか。
いや、後者は却下させてもらおうか
「大丈夫か」
「え?」
怜は、自分でも思いがけない言葉が出たことに驚いた。なんで、俺はこんなことを聞いたのだろう。
「いや、元気がないなと」
「…まあ、寝不足ですかね?」
怜は、詩音の方を見た。今さら。
勿論、怜はずっと目を合わせてなかったということだが。
「あの、昨日一回も話さなかったので…嫌われたのかなと…それに—」
詩音は、少し赤面しながら恥ずかしそうに言った。
「それはない」
俺は、詩音が言いかけてた言葉を遮り言った。
それだけはない。それは、断言できる。俺は簡単に人を嫌いにはならないが、詩音に関しては尚更だと思っている。こんなにも嫌われたくないと思ったのは初めてかもしれない、という程に。
「そうですか」
詩音は安心したのか、こちらに微笑みかけた。
(やばい)
「でも、あんまり話しかけられないと悲しいです…」
詩音は、不満そうに頬を膨らませてこちらに訴えかけてきた。
(―死ぬ)
なにこの可愛い生き物は。素で言ってんのか、と疑う程洗練された言葉と表情。これは、堕ちます。
「…善処する」
「まあ、いいでしょう」
詩音は満足そうに言った。
何も良くはないが、やっぱり何も変わらなかった。ただ、詩音が自分のことを気にしていたのは少し嬉しかった。いや、相当嬉しい。
(なんか俺、キモイな)
「じゃあ、今日早速二人でお話しませんか?」
「ああ。は?」
ということで、放課後に屋上で話すことになった。
あと、今日の朝のことで一つ言いたいことがある。
(俺、最低じゃね)
大丈夫かと聞いておいて、圧かけて本音を聞き出した?いやさ、結果的には別にいいんだけどね?
いや、本当にわかんなかったんだよ。なんで元気なさそうか。しょうがなくない?
そして、その原因俺っていうね。自作自演ですか?いいえ、違います。
鈍感系主人公ってホントゴミですね。ついでに、気まずい雰囲気を頑張って直そうとしている人が目の前にいるのに、俺は何も考えてない。
まあ、可愛かったのでなんでもいいです。嫌われてなさそうだし。
何故俺なんかに嫌われたくないのだろう。別に俺ごときに嫌われたところで何の支障もないだろう。
ここで、怜の中に一つの見解が浮かんだ。
もしかして…そう、俺が気軽に話せる無害な奴だからだ。
別に鈍感になった訳ではない。ただ、これ以上余計な事を考えても良いことは一つとして無い。それだけだ。
「なあ、黒瀬が俺と関わるのって無害そうだからか?」
思わず聞いてしまった。これは、良くない。こんなことは聞くもんじゃない。
「そうですね」
「そうか」
まあ、そんなもんか
陰キャ程自惚れるもんだ(偏見)。こんな一般モブに何かあるか?いや、ない。
「水沢さんはどう思います?」
詩音は、わざとらしく首を傾げ、微笑んだ。その紫色の目はどこか挑発的で、怜は目から話すことが出来なかった。
どう思うって何だよ
どう意味で言ってるのか、それにその顔は何なんだ?深い意味はないんじゃなかったのか?俺と関わるのにそれ以外の意味はあるのか、そんなの…
(何もない訳ないだろ)
詩音にあそこまで言わせておいて、俺と話すのが疲れないから?そんな訳があるか
そんなんで今までの行動に説明がつくなら、どれだけ詩音は罪な女なんだ?
「黒瀬、お前俺のことが好―――」
待て。最初、詩音は俺に出会ったときどんな行動をした?
詩音は俺に話しかけた。隣だったから。でも、その隣にも人はいる。
そう、俺にだけ話しかけた。
気付いた時には、もうそこに少女の姿はなかった。
そして、怜が確信した自分への好意は、単なる好意でないと悟った。




