2 緒戦
「相葉って、こういうのが好きみたいだぞ」
僕が教室から廊下に出ると、タケトが廊下を歩く他の生徒を指差して言った。
廊下を歩く女子生徒は美しいドレス姿。男子生徒はタキシードや燕尾服。まるで舞踏会のようだ。
「はは、華やかだね。校舎は現実と一緒で地味だけど……相葉さんの夢は、この後どんなパターンになるんだろう」
「この前の2組の鈴木の夢みたいに、いきなり戦車とかが出てこなければいいけどな」
僕とタケトが辺りを警戒しながら廊下を歩いていると、廊下の突き当たりにある理科室から女子の叫び声が聞こえた。相葉さんの声だ。
僕とタケトは理科室へ走った。
† † †
足の早いタケトが先に理科室にたどり着いた。ドアを開け、中に飛び込む。僕がそれに続いた。
理科室の中では、ナイフを持った3体の人体模型がゆっくりと相葉さんを壁際に追い詰めていた。
相葉さんは、まさかの全裸だった。震えながら壁の方へと後退りしている。
一糸纏わぬ色白の肌。両腕で胸を隠している。下は……無意識にそちらへ目を向けてしまった僕は、慌ててを視線をそらした。
「クソッ、ホラー系かよ!」
タケトが叫び、床を蹴った。現実ではあり得ない高さと早さで跳躍し、人体模型の1体に飛び蹴りを入れた。蹴られた人体模型が吹っ飛ぶ。
残り2体の人体模型が、ナイフを持って相葉さんに近づく。ナイトメアの攻撃により夢の中で命を落とすと、「心」が死んでしまう。もう、2度と目覚めない。心が死んだ肉体は衰弱し、やがて死に至る。
「結城、相葉を頼む!」
タケトが2体目の人体模型に回し蹴りを入れながら叫んだ。現実にはあり得ない猛烈なパワーで人体模型を破壊する。
僕は、急いで「壁」と「美しいドレス」を思い描いた。具現化可能なところまで詳細をイメージすると、指をパチンと鳴らした。
その直後、相葉さんが純白のウエディングドレス姿になり、その相葉さんと人体模型の間にレンガ造の壁が現れた。
「さすが結城! 夢の中とはいえ、イメージだけでよくそんなことが出来るよな。ドレスのイメージは豊富じゃないみたいだけど」
タケトがそう言って笑うと、壁に阻まれた3体目の人体模型を蹴り飛ばした。
僕は苦笑しながら大量の岩石をイメージして指を鳴らした。床に倒れ込んだ人体模型たちの上に大きな岩石が次々と現れ、人体模型たちを押し潰した。
岩石に押し潰された人体模型たちは、モゾモゾと動き、岩石の山の中から這い出ようと踠いているようだった。
「不死身かよ……取りあえずこの部屋を出ようぜ!」
タケトの声を聞いた僕は、相葉さんに叫んだ。
「相葉さん、こっち!」
ウエディングドレス姿の相葉さんがこちらへ走ってきた。
僕たちは理科室の外へ出ると、モゾモゾと岩の下で不気味に蠢く人体模型から逃げるようにドアを閉めた。
† † †
「……た、助けて頂きありがとうございます!」
相葉さんが、僕とタケトに頭を下げた。どうやら、僕たちを知らない人だと思っているようだ。夢の中では良くあることだ。
僕とタケトは笑顔で頷いた。
「で、相葉はこの後どうするんだ?」
タケトが相葉さんに聞いた。相葉さんが驚いた顔になった。
「どうするって……今日は学校のダンスパーティーでしょ? 急がなきゃ! 遅刻しちゃうわ!」
そう言うと、相葉さんは廊下を走り出した。
相葉さんは、僕やタケトと違い、夢の中ということを自覚できない。
「パーティー会場へ無事にたどり着けば、相葉さんは目を覚ますかな?」
「多分な。何か目的を達成すれば目覚めることが多いしな。そこまで相葉を守り切れば、俺たちの勝ちだ……よし、行くぞ!」
僕とタケトは、相葉さんを追いかけて走り始めた。
† † †
相葉さんは、どうやら体育館へ向かっているようだ。その相葉さんに、次々とナイトメアの攻撃が襲いかかる。
ナイトメアの攻撃は、夢を見ている者の恐怖の経験、記憶に縛られる。
相葉さんは、ホラー映画の記憶が強いのか、ナイトメアの攻撃は、ゾンビやモンスターによるものが多かった。
僕とタケトは、協力しながらそれらの化け物を倒し、相葉さんを守り続けた。
「ふう、キリがないな……うちの学校って、こんなにデカかったっけ?」
何か分からない化け物を正拳突きで倒したタケトが、僕に言った。
校舎は3階建て。1階の廊下を突き当たり、渡り廊下を進んだ先に体育館はあるはずだった。
しかし、1階の廊下の向こう、渡り廊下の入口は、霞んで見えないほど遠い。
その遥か先を目指して、ウエディングドレス姿の相葉さんは走り続けていた。
「遅刻の夢と、すぐに着くはずの場所が遠くに感じる夢が合わさってるみたいだね」
「厄介だな……結城、お前のイメージ魔法で何とかならないか?」
タケトが、近づいてきたゾンビを回し蹴りで倒しながら聞いてきた。
僕は、廊下の天井から襲いかかってきたコウモリの化け物をつむじ風で吹き飛ばしながら答えた。
「僕と相葉さん、それぞれの想像力に縛られるからなあ……ねえ、相葉さん、相葉さんって車に詳しい?」
僕は前を走る相葉さんに声を掛けた。相葉さんが走りながらチラリと後ろを振り向いた。
「車? うちの家には車がないし、詳しくないわ」
相葉さんはすぐに前に向き直ってしまった。
「何かないかな。相葉さんも僕もイメージしやすい、早い乗り物……」
僕の呟きを聞いて、タケトが言った。
「相葉の夢に何かヒントはないか? この化け物たちに、ドレスに燕尾服、あとは何だ、ダンスパーティだったっけ?」
僕は、走る相葉さんを追いかけながら、タケトと一緒に化け物を倒しつつ、必死に考えた。
化け物はともかく、ドレスに燕尾服、ダンスパーティ……僕は、前を走る相葉さんのウエディングドレスを見て思い付いた。
「相葉さん! シンデレラの物語とか好き?」
相葉さんが走りながらこちらに振り向いた。
「大好きよ! ああいうお話は、子どもの頃、何度も絵本を読み返してたわ」
「了解!」
僕は、シンデレラのカボチャの馬車を思い浮かべた。相葉さんと僕の想像力が影響し合い、どんどんとイメージが具体化してくる。
僕は指を鳴らした。相葉さんの走る先に、豪華で大きなカボチャの馬車が現れた。幸い、馭者付きだ。
「おお、馬車か! でも、馬車って早いのか?」
「相葉さんのイメージ次第かな。まあ、魔法の馬車ならきっと早いだろうし、舞踏会には間に合うはずさ」
僕とタケトは、化け物たちを倒しながら、相葉さんを連れて馬車に乗り込んだ。
「ダンスパーティー会場までよろしく!」
馬車に乗り込んだ僕が馭者に叫んだ。馬車はものすごい早さで走り始めた。




