いざ、桃香と。
三人兄弟の真ん中っ子の空士はクールを装う童貞である。
ある日友人と行ったカラオケで本当の自分の性癖に気がついてしまうのだった。
= レベル1 いざ 桃香と =
夜風が気持ち良い次の日の朝ほど寝坊するは何故だろう。
気持ち良いって良いよね!
「空士!起きやがれ!!」
ゴジラボイスの母は携帯のアラームよりイカつい。
ついイラついてしまうのは起きるまで止まらないからだ。
「やべぇ、バスいっちゃてる時間だ」てか朝のヌキヌキタイムはおあずげだ。
こうなると学校まで自転車ですっ飛ばす他はない
〝どうして起こしてくれなかったの?〟などと言う奴はチン毛が生える前のスキンポコチンくんであろう。
答えは明確だ、何度も声をかけては朝の忙しい時間に家事をこなし母親はイライラを溜めながら時計を見て舌打ちをしているのだ。
やっと起きたと思えば、起きれなかった事を母親のせいにする
母親がゴジラ化するのは仕方がないのだ。
中学生にもなると遅刻した理由は〝お母さんが起こしてくれなかったからです〟とは恥ずかしくて先生や同級生の前で言えない。その代わりに不機嫌というビームを放ちながら時に物に当たりながら登校準備をする。
高校生にもなると〝開き直る〟という悟りを開き「あの車で送ってくれないですか?」と親に敬語を使う。
「あのぅ…車で送ってくれな…」
「くれない!!」
最後まで言う前に被せ気味で断られた俺は自転車にまたがる決意を決める
本気でこげばギリギリ間に合うとわかっているが、自転車がパンクしたなど適当な理由をつけて遅刻するのもありかな。と心が揺らぐが俺は遅刻を選ぶ事にした。
「たりぃ。サドルが俺の肛門を刺激する」
どMな俺は気にしない。
しばらくすると自転車のパンクであろうか、困り顔でしゃが見込む女子高生が
「あっ、花音じゃん。パンク?」
「クソが!直したばっかだぞ!間に合わねぇじゃねぇかよ!」
花音ブチ切れモードであるが、どMな俺にはご褒美タイムである
「チャリここに置いてさ、俺の後ろに乗りなよ」
「えっ!いいの?マジサンキュー、…でも…」
「どうした?」
「私、重いから」
急な弱気な発言に勃起が止まらない俺は
「早く乗って下さい。」と懇願した。
「ありがとう!」
朝からニケツ!ニケツって言葉すらエロく感じてしまう。
側から見ればドラマとかである風景だろうが、クッソ重い!と思うのが現実だ。
カップルならば、腰に腕を回しているところだが、ただの同級生の場合はそうはいかない。
花音は俺の腰部分の制服を掴んで引っ張り
「もっと早くこげない?」と要求してくる
俺は馬車馬です!股間が熱々だ!
息を切らす俺に
「やっぱ重いんじゃん!」と笑い
「早くぅ!早くぅ!」などとエロい言葉をかけてくる、もう が、我慢できない!!!!
一気に立ち上がり立ちこぎした瞬間、俺はイッてしまった。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
ブレーキをかけ、花音の学校に着くと俺は達成感に満ち溢れていた。
「マジでありがとう!何だか後ろ気持ちよかった!」
エロ吐き台詞を言うと花音は校舎へと走ってゆく
今日俺は童貞をすてたのだ!と自慢したいほどだ。
汗だらけで自分の学校に着く頃には一時間目はとっくに始まっていた。
〝ヒーローは遅れて来るんだ!〟
俺ってカッケー。
先生に遅刻した理由を聞かれて、セックスしてました!と言いかけたが、遅刻しそうな友達を送ったことを告げると、遅刻よりも二人乗りした事を叱られた。
「空士くーん」
桃香が可愛い声で俺を呼ぶが何故だか直視できない
「遅刻しちゃたのー?ぷんぷーん。今日こそ桃香の家に来てね?」
チワワな顔で笑うと照れくさそうに去っていった。
まさか、今日は付き合って3ヶ月記念日!!
俺は一気に青ざめた…心の準備ができてねぇ…
俺はキスもした事がないガチガチの童貞オブ童貞…現実こえぇえええええ。
放課後自転車をこぎながら腹を決める事にした。
帰り道には今朝おいてかれた花音の自転車が寂しそうに一人ぼっちで佇んでいた。
自分の自転車を置いて花音の自転車を連れて帰宅し、パンクを直してシャワーを浴びながら自問自答した。
「本当にいいのか?」
「わからない。」
居間ではヒミコ(ひぃ婆ちゃん)が大きな声で笑っている
ヒミコの視線の先には弟が彼女を連れて家に来ていた
「こんにちわ!!」
体育系の大分ふっくらした元気花丸みたいな女の子である。
自分の母親みたいな人を好きになるというが、弟はまさにそれだ。末っ子の歩亜は母親にベッタリでママっ子であった。歩亜は若くて痩せていた時の母を知らない。
二十代前半で兄を産んだ母はまだ痩せていた。七年経ち俺が生まれる頃には三十代に入り、かろうじて標準体型と言った感じだった。ところが弟が生まれた頃には母はマンモスになっていた。
「歩亜ちゃんは男前なのに、どうしてこの子なんだい?」
失礼すぎる質問をストレートにぶっ込むのはお年寄りの必殺技だ。
「笑った顔が最高に可愛いから!」
イケメンな弟は心までイケメンだ。
気が晴れないまま服を選んでいると、弟が部屋をノックしながら俺を呼ぶ
コンコンコンコンコンコン
「空にぃ、空にぃ!」
「どうした?」
「コンドームちょうだい!」
俺は拳を弟の頬に浴びせていた
「お前らここに座れ!!」
童貞が童貞に性教育をするという展開に
「歩亜、彼女が大切なら絶対に今するな、何かあったら責任を果たせないし、一番傷がつくのは彼女なんだぞ!」
その台詞が自分に重くのしかかる。
俺が小学生の頃、当時高校生の兄と兄の嫁がまだ彼女だった頃、アレしているところを母に見つかり、兄は母にジャンプとマガジンでボコボコに殴られていた、母は暴走したエヴァ初号機のように雄叫びを上げていた。
こんな時どんな顔したらいいのか分からなかった俺は、笑っていたら俺も怒られた事を鮮明に覚えている。
一時間ほどセックスへの責任と大切さを童貞なりに語り、弟と彼女は涙を流して理解してくれた。
「疲れた…」
ふとスマホを見ると桃香からメールが届きまくっていた。
俺はさっきまで弟に語った説教は全て自分自身へと今跳ね返って胸に染み込んだ。
でもさ。
キスはしても良くね?
俺の心はキスに集中する事にした。
「ちょっと出掛けてくる」
「シャワー浴びて彼女のとこかい?エッチな事すんじゃないよ!!」
母の勘は鋭い。
「しねーわ!」
しまった!花音の自転車しかねぇ。自分の自転車を取りに戻る時間もない。だが、花音の自転車に乗り桃香にキスしに行くのも気が引ける。歩きたくねぇ。
俺は遠い空を見ながら数分モジモジしてた。おしっこ我慢してる時みたいだ。
「空士くん?自転車!」
花音が俺の自転車に乗り家までやってきたのだ。
ナイスタイミングじゃないか!俺は後ろめたさなく、俺の自転車で桃香にキスしに行ける!
「パンク直しておいたよ」
「マジ?ありがとう」
花音の笑顔は西日より眩しかった。
花音は俺の自転車のサドルが少し高くて片足で支えにくそうにして、自転車から降りようとした時、俺めがけて転んでしまった。
とっさに体が動いた俺は花音の下敷きになっていた。
花音は俺の体の上に覆い被さり俺の顔と花音の顔は具の抜けたサンドイッチほどの距離になっていた。
一瞬見つめ合う。
この数秒が少しだけスローモーションに感じる。お互いが好きな相手ではないのにドキドキしてしまう。
もちろん俺の股間は熱々になっている。
「ごめん」
花音が慌てて立ちあがって俺に手を差し出す
この手を握ると俺はイってしまうかもしれないと少し躊躇したが、自然に振る舞う俺はトランプマンを思い出していた。
トランプマン効果で股間は通常モードになったが胸の鼓動は感じた事のない速さで俺の脳を掻き乱す。
「俺、用事あるから行くわ」
「…うん、自転車ありがとう。またね!」
西日が俺の背中を押して桃香の家へと連れて行った。
〝着いたよ〟とメールをするとすぐに桃香が玄関の扉を開けた。
「遅かったね!ぷんぷーん。」
「自転車直してた、ごめん」
俺が言った〝ごめん〟は遅くなったから謝ったのではなく、さっき花音にドキドキしてしまった事への謝罪だ。
「お邪魔します…」
「今日は夜の九時まで誰もいないの」
「そっか…」
何となく会話が弾まないまま桃香の部屋に二人、夕方ドラマの再放送を見ていた。桃香は俺に熱い視線を向けている
そろそろっすか!俺! キス!キス!キス!キス!
俺の頭の中はキスコールで埋めつくされていた。
「キスしよ?」
桃香はチワワみたいな可愛い目を瞑る
俺は桃香の小さな唇にキスをした。再放送ドラマのエンディングが流れていた。
俺はこの曲を一生忘れないであろう。
マルマルもりもり
一度キスをするとドキドキが嘘のように何回もチュッチュ、チュッチュ。
桃香のキスがエスカレートしてくる。
〝 プレイはもうはじまっている。〟
「ちょっと待って」
俺は桃香の肩に手を置いて体を離した
「どうしたの?してもいいんだよ?」
チワワ桃香は戦闘モードである
「俺…どどどど。童貞なんだ!」
まるで命乞いするかのように言ってしまった
「なーんだ、大丈夫だよ?桃香は初めてじゃないから。」
チワワ桃香が慣れた手つきで俺のベルトを取りズボンのチャックを下ろしていく
「えっ?えっ?えっ?」
俺の頭の中は思ってたんと違う警報が鳴り響いていた
「初めてじゃないの?」
少し青ざめた俺の顔を見た桃香が慌てる
「えっ…うん。空士くんで五人目」
サラッと経験人数を言われた俺は頭の中でロボットダンスするほど引いてしまった
「多くね?」
一番言ってはいけない台詞を言ってしまったが時すでに遅し、桃香のチワワな瞳からジワジワと涙が溢れている。
彼女の涙ほど萎えるものはない。
「ごめん…」
沈黙という地獄は無常にも過ぎる
「桃香が処女だったらよかった?」
俺は何て言えばいいのか分からず、自分の気持ちも整理できず、どの言葉も桃香の涙を癒せるとは思えなかった
「本当にごめん、これから付き合っていける自信ない」
俺はどうしようもなく情けない、声のナイフで桃香を傷つけた
「…わかった…」
桃香の泣き声を抱きしめる事もできずに俺は桃香の部屋を後にした
次の日、桃香は学校を休んだが、その次の日には、いつもと変わらず登校してきた
髪をバッサリ切って少しボーイッシュになった桃香にクラスの女子たちは群がる
「髪切ったのー?」
「えーすごい似合ってる!」
「桃香ちゃんてぶりぶりして苦手だったけど、今の桃香ちゃんは好きかもー」
ぶりっ子が髪型をボーイッシュにしただけで女子は群がる
「まさか、失恋でもしたのー?」
クラスのモブ女子の真意をつく質問に興味深々で桃香の答えを待つモブモブ女子たち
「うん!振られちゃったっ!てへっ。」
「えーぇ!うそー!」
モブモブ女子達が針のような視線を俺に当ててくる
「近藤ごときが桃香ちゃんを振るだなんて有り得ない!」
「何様なの?」
「桃香ならもっとカッコいい人すぐに見つかるよ」
などなど今まで仲も良かったわけでもねぇ女子たちがここぞとばかりに結束する
結局、人の不幸が好きなだけである
でも、桃香が一人ぼっちじゃなくなった事に安心する俺がいた。
桃香はぶりっ子で女子から嫌われる典型的な子で、クラスでは男子にチヤホヤされて女子と話をしてる事がほとんどなかった
しばらくの間、女子がクソみたいな結束で俺の悪口を言うだろう。
でもそれで、桃香が一人じゃないなら俺はなんだか救われる気がした。
放課後、俺は幼馴染の京の家のチャイムを押していた。
玄関を開けてくれた京のお母さんは俺の顔を見るなり
「シーちゃん、いらっしゃい。京は今、塾なのぉ。上がって待っててね」
そう言うと俺をグランドピアノがある広い部屋に通してくれてカチカチに固い外国のクッキーとピンクの紅茶を出してくれた。
小学校の時からそうだった。何も変わらない優しさが心地いい。
俺はカチカチの外国味のクッキーを食べながら弾けないピアノを勝手に弾く
しばらくして塾から帰宅した京が笑いながらやってくる
「やっぱり、シーちゃん来てた、下手な音色が外まで聞こえてる」
俺は京の顔を見るなり号泣してしまった。
「えっ、どうしたの?しーちゃん」
「俺、桃香の事、大好きだった… 」
「だったて。えっ? 別れたの?」
俺はガキの頃みたく鼻水を垂らして泣いた
そんな俺を馬鹿にする事なく最後まで話を聞いてくれる幼馴染に心の傷が和らいでいった
俺は勝手に桃香を処女と決めつけて、勝手に自分の理想を膨らませて、勝手に振った。
こんな男がセックスするにはまだ早いと神様は言うだろう。
俺の初めてのキスは、大好きな彼女の部屋で、西日が眩しくて、目を閉じた。
そして、ドラマの再放送が流れてた。
俺はマルマルもりもりを一生忘れない。
明日も晴れるかな
次回、秘密は決して甘くない