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第三王子専属メイドの試験

門番の人の前へ行き、同封されていた招待状を手渡す。

二人でチェックされた後、一礼された。


「私が試験会場までご案内致します。こちらへどうぞ」

「はい、わかりました!」


ガッチリとした甲冑に身を包んだ門番兵士さんは、私の歩幅を考えながら案内してくれた。

やっぱり騎士様の一人だけあって、女性に優しい。

試験会場となる場所の大きな扉の前に到着する。

扉の前に居た騎士様に何か伝えると、扉を開けてもらった。


「この先は試験会場であり、国王陛下との謁見の間になります。リリアン嬢、ご武運を」

「ご丁寧にありがとうございました!頑張ります!」


元気いっぱいアピールとして、両手に拳を作ってガッツポーズを取ると

無表情で淡々としていた兵士さんが少し笑ってくれた。

こういう大事な場所は笑ったりするのはいけないのだと思うけど、それほど階級の高くない相手に

そんなに固くなる必要なんてないもの。

さっきまで私自身も緊張状態だったけど、少し和らいだ気がする。

よし、と気合を入れ直して中へと入る。

レッドカーペットを歩いていくと、中央には同じように試験を受けに来た令嬢たちが何人も居た。

何人かを連れた令嬢も居たので、たぶんその人は公爵とか侯爵辺りの令嬢だと思う。

連れの令嬢さんたちが「ヴィスタリア侯爵令嬢なら間違いなく選ばれますわ」「そうですわ」とか話しているし、

それに対してそのお嬢様は「もちろんですわ」と自信満々にしている。

どこからそんな余裕が来るのが不思議でならない。

でも、関わらない方がいいだろう。色々と面倒そうだもの。

それぞれがワイワイと話していると、急に鋭い声がその騒がしさを一掃する。


「国王陛下、及び王子、ご登壇です!」


先頭を行くのはおそらく王子だろう。その後に出てきた厳つい感じの人が国王陛下かな。あれ、また王子様が出てきたのだけど。

まさか王子が二人現れるとは思っていなくて、私は混乱する。

周囲を見ると、全員も動揺していた。

国王陛下が中央の椅子に座ると、二人の王子様はそれぞれ右と左に立ち並んでいる。


「よく集まってくれた。今回は希望人数が多かったため、採用試験をすることになった」


国王陛下自ら率先して採用試験をするなんて、驚きだ。

普通こういう試験というのは、宰相とか補佐役の人のお仕事だったと思う。

たぶん自分の息子直属のメイドを選ぶのだから、という理由で出てきたんだろうなとは予想はつく。

色々と考えていると、国王陛下は続けて採用試験内容を告げた。


「採用試験は簡単だ。今、ここにいるのは第二王子と第三王子の二人。どちらが本物の第三王子か、本人の前に並んでみせよ」


周囲の令嬢たちがざわざと戸惑いを見せている。

二人の王子はとても良く似た体格の男性だ。わかりにくくするためなのか、どちらも服装は同じもの。

困惑する中、それぞれが動き始めた。

そんな中、私は二人をじっと見つめる。第三王子がご主人ならば、おそらく似た仕草があるはず。

少し観察していると、片方の王子がその仕草をする。

私は迷わずそちらの王子の前に並ぶ。よくよく周囲を見ると、私以外は左側に行ってしまっている。

なんでだろう。あちらは第二王子のはずなのに。

さすがに私だけが右側の王子の前にいたので、本人が不思議そうに声をかけてきた。


「おや?君だけがこちらに来たようだけど、大丈夫なのかな?」


子どもに声をかけるようなこの言い方。間違いなくご主人だ。

長い期間離れ離れになっていたから、再会したことに少しだけ瞳が潤んでしまう。

それをぐっと堪えて明るい笑顔を作って返事をした。


「はい、大丈夫です!ご主人はご主人なので!」

「うん?なんだかわからないけど……それでいいなら、いいと思うよ」


苦笑されてしまったけど、言い方は優しい。

そんな会話をした直後に国王陛下はぽつりと呟く。


「これは驚いた……まさか第二王子と第三王子を見分けられる者がいるとは……」

「おっしゃる通りですね、陛下。さて、答え合わせをお願いいたします」


左側の王子様が楽しそうに笑っている。そういう微笑み方は本当によく似ている。

でも、あちらの方が品があるような気がする。ご主人に言ったら怒られそうだけど。


「さて、第三王子直属メイドとして選ばれたのは……右側の王子を選んだそこの令嬢だ」

「えぇええ?!」

「ちなみに左側にいるのは、第二王子であり騎士団長のアルベールだ。それで、第三王子であるレイナルドよ、どうやって見分けたか聞いたか?」

「はい、彼女は私がご主人だから、とのことです」

「ご主人?ふむ……それだけ第三王子に仕えたいと思っていたのだろうな……?」


国王陛下も首を傾げるやり方だったらしい。

実際に言われたご主人である第三王子も、小さく笑いながら言っているくらいだから、

たぶん変な見つけ方だったんだと思う。社交界にはほとんど顔を出したことがないから、感覚だけだったんだけど。


「な、何故ですの?!普通でしたら、左側に第二王子で右側に第三王子という立ち位置でございましょう?!」

「その認識通りだと、試験にはなるまい。不合格だった令嬢たちよ、また別の機会にお会いしよう」


なるほど、他のご令嬢たちは通常の王子様たちの立ち位置を知っているからそう思い込んだのか。

私は全く知りませんでした。無知、というよりも第三王子がご主人であると気づいたからこそ選べたのかもしれない。

謁見の間から退場していくご令嬢たちを、第二王子は最後尾に立ってお見送りしている。優しい王子様だった。


「さて、貴殿は……あぁ、ハーティア男爵家の子かね?」

「はい、国王陛下のおっしゃる通りでございます。私は、リリアン・ハーティアと申します」

「あぁ……研究才女の妹の方か……なかなかに元気そうなご令嬢だな。レイナルドをよろしく頼むよ」

「精一杯、ご奉仕させて頂きます」


精一杯の礼儀でお辞儀をすると、目の前に誰かが立った。すごく近い。


「顔を上げて、リリアン。おや……?随分と綺麗なオッドアイだね」

「あ……はい。ご主人から褒めていただけて光栄です」


私の両目は、右が緑で左が青という不思議なオッドアイをしている。

これは子猫の時から変わらない。

何か反応しないかなとソワソワしていたけど、完全にスルーされてしまい手を引かれて謁見の間を退室させられてしまった。

あれ。どうして私は第三王子のメイドなのに手を繋がれているのだろう。

そこまでお子様に見えているのだろうか。とても複雑な気持ちになる。

後ろから付いてきていたメイド長らしき女性が、第三王子の私室に到着するとそそくさとお茶の準備を行い出て行ってしまった。


「ほら、ここに座って。リリアンの本格的な仕事は、明日からになるよ」

「え、あ……し、しかし、私はメイドですので同席するなど……!」

「今だけだよ。ほら、座りなさい。せっかくの紅茶が冷めてしまうよ?」


いいのかな?と言いたげに微笑まれて、頷くしかなかった。

しぶしぶ向かいの椅子に座り、温かい紅茶を口にする。すごく心が落ち着く。

たぶんハーブティーなのだろう。二種類の鎮静作用のある花を煎じてある可能性がある。

そんなことを考えていると、目の前にいる第三王子が優しく微笑む。


「さて、先程の答えを聞こうか。俺がご主人、ってどういうことなのかな?」

「ご主人はご主人なのです……あの、前世でのお名前は……レン様、ではないでしょうか」


率直に前世のご主人の名前を口に出すと、綺麗な瞳が大きく見開かれた。すごく驚いているみたい。

こういう反応がわかりやすいところも、そのままだと思う。


「どうして俺の前世の名前を……?君は一体、何者なんだ……?」

「あの、私は前世でレン様に保護して頂いた子猫の鈴です!ええっと、白い毛玉でみーみー鳴いていた白猫です!」

「す、鈴?!あのおチビが生まれ変わって人間に……そうか、随分と可愛らしいお嬢さんになったものだね」


私の正体を知ると、第三王子は手で口元を隠すこともなく大笑いしている。

それからすぐに、前世でよく私に向けていた微笑みを向けてくれた。

この困った笑い方は最期の最期に診せてくれたもの。

思わず大粒の涙があふれ出てしまった。


「え?!だ、大丈夫か、鈴?何かあったのか?!」

「い、いえ……違うん、です……ようやく、ようやくご主人に会えたことが、嬉しく、てぇえええ」


感極まってしまい、その場で泣き始めてしまった。

本当はご主人と再会したら笑顔で喜び合おうと思っていたのに。

どうしても、涙が止まってくれない。

心の底からご主人がこうして健康的でしっかりとした人に生まれ変わっていて、嬉しかったのだと。

涙と嗚咽のせいで、うまくしゃべることができない。

ひとり泣いている姿を見て、そっとご主人が席を立って抱きしめてくれた。


「……鈴は優しいね。先に死んだ俺の願いを、神様にお願いしたんだよね?」

「んぇっ、ひぅ……はい……そう、れすぅ……!ぇええ、ご主人んんん……!」

「ふふ、そういう泣き虫なところは子猫の時のままだ。落ち着くまでこうしておこう」


泣き崩れた私の背を、優しく摩ってくれる。

綺麗な正装を涙で汚してしまって、申し訳なく感じる反面、私に対してだけ甘くて優しいところに喜びを感じていた。

しばらくすると涙が落ち着いてきた。

顔を離すと、目元をハンカチで拭われた。


「ふふ、涙で目が腫れたね。後で顔を洗った方がいいだろう」

「んぅ……ありがとう、ございます……ごめんなさい、本当は笑顔で喜ぼうと、思ったのに……」

「構わないよ。それだけ待ち望んでいてくれたことだろう?俺は嬉しいよ」

「えへへ……はい、ご主人……!」


涙が落ち着いてすぐに、着替えるとのことだったのでお手伝いをすることになってしまった。

正装の上着は真ん中だけがびしょびしょに濡れてしまっている。本当にごめんなさい。

軽装に着替えると、改めてお話を続けることになった。

神様にお願いをして、ご主人の願いを叶えてほしいと伝えたこと。

それと、子猫だった私の命を捧げてしまったこと。

さすがに命を捧げたことに関しては、ほんの少しだけ怒られてしまった。

でも経緯が経緯なだけに、少しだけのお咎めで済んだ。


「あぁ、そうだ。鈴は知らないと思うけど……異世界からの転生者だとは誰にも言ってはいけないよ」

「え?どうしてですか?」

「転生者は知識の泉、と言われていてね。見つけ次第、離宮に監禁するように指示が出ているらしいんだ」

「ひぇええ、と、閉じ込められるのは嫌です……!」

「うん、だから俺と約束してくれるかな。鈴と俺が転生者だということ。できるかな?」

「はい!頑張ります、ご主人!」


元気よく返事をした後、ご主人は少し考える仕草をしている。

何か間違えたことがあったのだろうか。


「ご主人?」

「そうだね、鈴……俺たち二人の時はその呼び方でいいけれど、他のところでは今の名前で呼んでくれるかな?」

「あっ、そうでした!わかりました、レイナルド殿下!」

「今はいいんだよ。そうだね……俺は、リリアン……いや、リリィ、かな。うん、リリィと呼ぶね」

「えへへ……仲良しさんな呼び方ですね」

「もちろん。これからよろしくね、リリィ」

「こちらこそです、ご主人様!」


ご主人、からご主人様、に呼び名を変えてみたのだけどなんだか複雑そうな顔をされてしまった。

その微妙な表情の意味がわからないまま顔合わせの初日が終了してしまったのだった。

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