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47 公然の内緒話

 2人と1体は足早にダンジョンの入口を目指す。

 アルマが先頭に立ち、ミリアムは『徘徊者』の隣に付く。まるで『教会』がモンスターを守護しているかの姿に周囲のざわめきが止まらない。

 帰還所から入場口までは遠くない。これが済んだら当分会うことも無いだろう『徘徊者』に、アルマは疑問に思っていたことを聞いた。

 彼が提供したダンジョン内のアイテムに、意図して存在しないものがあったからだ。



「人工的なアイテムや武器の提出をあえて避けていたな。理由はあるのか?」


「遺品かもしれないから、だそうです。いずれそれらを纏めて提出する機会が欲しいと」


「そうか……気にするな、私の懸念を解消したかっただけだ」



 確かに遺品をあの場で提出するのはリスクが高かった。良い方に解釈されたとして、知己の遺品を回収するべく大勢の探索者に殺到されていただろう。

 悪い方に解釈されれば、回収した遺品を「価値あるもの」として売り捌こうとしているのかと勘繰られるかもしれない。あの場で提出しなかったのは無難な判断と言える。

 この時アルマは『徘徊者』の素性や行動原理を知りたかったのだが、あまりうまくはいかなかった。理解できたのは、彼を危険視しすぎるのはかえって時代にそぐわないかもしれない、ということだけだ。

 少なくとも今は、落とし物を拾う感覚で死んだ探索者の武器防具道具を拾ってくる不思議なモンスターである。

 敵対する気は今の所ないのだろう。なら今はそれでいい。『教会』へ報告するには十分すぎるファーストコンタクトだろう。


 しかしアルマは僅かに悔やんでいた。先に行ったエボの発言について出遅れた件だ。

 『大教会』はしばらく前から『徘徊者』への可能な範囲での接触、交流による意思疎通を行うよう通達を出していた。

 既に何人かの聖職者達はその任をしっかりこなしていたのだが、アルマ自身は実際に探索に出る回数が減っていたこともありこれまで『徘徊者』との遭遇は叶わなかったのだ。

 それ故に今回が初の接触となり、どれほど踏み込んだ発言をしてもいいのか図ることができなかった。その結果、人心の理解が深いエボに後れを取る結果となってしまった。


 現状『国』に拠点を置く『大教会』がどのような考えを持っているのか、そこまでは知らない。

 しかし少なくとも、遍く人の為に祈りを捧ぐ教会がモンスターの一個体に対し積極的な接触を言い渡し、かつそれは『ダンジョン協会』を通さない非公認の指示を出していることだけは確かだ。

 そしてエボが実質的に掌握している商会もまた『徘徊者』を味方に付けようとしている。彼の所持品と、それらを収集する習性は大きな利益を生むと商会全体が認めたに等しい。


 更にはアルマの知る限りでの話になるが、一部の貴族は『徘徊者』の行動に浮足立っている。

 噂話でしかないが、彼の持ち込んだ『探索者カード』によって探索者の貯め込んだ遺産をガメた者、探索者を唆して凶行に走らせた者が浮き彫りになったからだと聞いている。

 これに対し『国家騎士』達は突如として齎された不祥事に対応を余儀なくされ、ダンジョンまで対応の手が伸びていない。

 そこを何とかする為に派遣されたのがジェグイだったはずだが、彼はまた別な思惑の元動いているようで完全に信用は出来ない。


 しかし今回の件で『国』も『大教会』も『商会』も、この国の大規模な派閥が揃って『徘徊者』に関して大きな関心を寄せていることが公になってしまった。誰もが睨み合う。この国の未来を左右するかもしれないモンスターに夢中だ。

 そしてその公的な第一陣をエボは切って見せた。叶うならそれは『教会』でありたかった、というのがアルマの本音だ。

 これから台風の目となるであろう『徘徊者』と最も親密な関係であると思っていたのは他ならぬ『教会』だからだ。

 それがまさかこのような形で先手を奪われるとは思ってもみなかった。叶うならもっと段階を踏んで丁寧に関係性を構築する予定だったのが、ここにきて大波乱を起こしている。

 アルマは今後の方針についてすぐにでも確認を取るべきだと判断した。



「ねぇ、アンタの中にいるのってアンタと誰?分かんない?そうなんだ。いやひょっとしたらパパなのかなと思って。まーだとしたら関係性複雑すぎよね。あっ、でも『国家騎士』の誰かなんでしょ?ちょっ、知ってること教えてよ。私にだけはダメ?いやそれ答えじゃん」


「……ミリアム、次から次へと関心を寄せる話題を出すんじゃあない。後でヘレスに報告するのは私なんだぞ」


「そうはいっても私らはこいつと接触するのが仕事ですもん。ね、後でまた会うことになるでしょ?今のうちのこそっと教えて?人格の交代は今できるの?起きてる時は今回が初めてなんだ。じゃあなんで今まで代わってたの?……ごめん、無理に聞き出したいわけじゃないから。辛いことがあったのね、言わなくて大丈夫」


「ミリアム、情報量で私を攻撃するのはやめないか?」



 矢継ぎ早に『徘徊者』に質問をしては互いの心内で受け答えを完結させている。傍から見ればモンスターへの独り言なのだが、当の『徘徊者』はそれら全てに丁寧な返答を行っているようだ。そして質問の答えは全てミリアムにしか届かない。

 中の人間はミリアムの父親なのか?何故いきなり人が変わったような態度を取ったのか?切り替わりは任意なのか?『徘徊者』に何があってどう過ごしていたのか?

 これだけ重要な問いを投げかけ、その答えは今も目の前から発せられているのに、それを真に理解できるのはこの世でミリアムだけだ。なんと不公平なことだろうか。

 興味本位の質問は一旦置いておき、先に最も重要なことだけアルマは聞くことにした。



「彼はかのリューベル・ミラン氏なのか?それにしては少々……と、思うのだが」


「んーと、今この中には2人いるっぽくて、1人は私と意思疎通できるコイツ、とても優しいやつです。もう1人は騎士だったらしいんですけど自分の過去をあんまり喋らないみたいで……あっ、でも私の事になると凄く動揺はしているみたいです」


「それは……実質的な答え合わせじゃないのか?」


「言いづらいこともあると思うし、とりあえずは言う気になるまで待とうかなって。中にいるのがパパなら聞きたい事はいっぱいあるけど、確定するまでは待ちます」


「……もしリューベル氏本人なら、娘に気を遣われても尚正面から顔を見れない父親、という構図になってしまうな」


「そうかもしれませんね。……いや『そういうこと言わないであげて』じゃないのよ。えっ、本当なの?本当にパパなの?だとしたら……まぁ後でいっか。今はあんただもんね」



 アルマの中に予感にも似た確信の種が芽生えた。これは恐らく『徘徊者』の核心に至るピースの1つだ。

 鮮烈なまでの強さを持ちながらあやふやな過去を持ち。呪われた生まれながらも確固たる善の意思を持つモンスター。

 今の彼は記憶、身体、価値基準に関わる全てがそれぞれ違う何かで()()()()になって構成されているのではないだろうか。

 その結果どこかに齟齬が生まれても何らおかしくはない。むしろ全てが今この場で崩壊して殺戮の限りを尽くしたとしてもまったく不思議ではないだろう。

 彼が奇跡的なバランスの上で成り立っているのか、それとも安定しているのか。それすら外部からは分からないが、少なくとも現時点で脅威には数えなくていい。

 ここまでの結論にアルマの願望が全くないとは言い切れない。しかし他ならぬ『徘徊者』自身が証明しているのだ。

 彼には共に生きる意志がある。人々が選ぶのであれば、彼と手を取り合う未来も十分にあり得るだろう。



「先に告げておこう。『徘徊者』、ミリアム。私の名はアルマ。お前が接した教会の男、ガロンの……形式上は上司に当たる。以後頼むぞ」


「はーい。……ちょっと怖がってます」


「何故だ」


「アルマさん気ぃ強系美人だから……これでも気が弱い奴なので、できれば優しく接してあげてください」


「……そうか、努力はする」



 モンスターに怖がられるのは探索者としてはむしろ得な筈だが、アルマは何故だかほんの少し悲しい気持ちになった。同時に自分より小さく可愛らしいミリアムが少し羨ましくなった。

 彼女は生まれてこの方美人とは言われても、可愛いと言われたことが無いのを少しだけ気にしていた。

 ミリアムも『徘徊者』が(綺麗な人だけどちょっと怖い)と思っていたことを告げるべきか少し迷った。ミリアムが『帰還』する直前彼女に錫杖で殴打されているのだ。怖いと思うのも仕方がない。

 しかしこれからはより近い距離で接することになる。隠しても後々為にならないだろうと言うせめてもの親切心から教えることにしたのだ。

 そんな会話をしている内に3人はダンジョンの入場口に到着した。周辺は既に人払いがされており、一部の監視している職員を除いて他に探索者はいない。



「今後通達はミリアム達を通して行うことになる。それ以外の通達はしない為、信用しないように。それとミリアム、次に落ち合う場所を決めておけ」


「分かりました。そうねぇ、4階終端の安地分かる?うん、じゃそこで。決まりました」


「早いな。了解した、恐らく数日の内にまた会うことになるだろう。それまで息災でいるように」



 アルマがそう告げると『徘徊者』はミリアムをじっと見つめてから、扉を開けて静かに歩き去って行った。

 今のは何だったのか。アルマは聞こうとするが、ミリアムは穏やかに笑っているだけだった。

 彼らの間でのみ完結する意識下でのコミュニケーションというのは一体どういう物なのか、聞きたいことは文字通り山ほどあり興味は尽きない。

 しかしミリアムが屈託なく笑っているということは、恐らく軽いあいさつ程度の物だろう。そこに突っ込んで話を聞くのは野暮ったいような気がした。



「彼の居場所が常に掴めるようなものがあればいいのだが……難しいか」


「私も大まかにしか分かりませんし、人格が入れ替わってる間はそれも働きません。中々うまくいきませんね」



 アルマはこれから来るであろう大嵐を幻視した気分で、辟易とした気持ちをなるべく表に出さないよう告げた。



「この時代に起きたことは、未来永劫語り継がれることになるだろう。汚点になるかどうかは……我々次第だ」

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