表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/61

人の歴史

「えーということでね。一旦相談したいからフェニエには帰ってもらったところでね、改めて相談といくわ。じゃまず第一回投票、賛成反対だけお願い」


「反対だ。今はな」


「俺は……賛成かな」


「賛成します」



 日も暮れた頃、小さな食事処に集まった4人は先の少女、フェニエについて会議を始めた。

 道中歩きながらの相談では決着がつかず、先の『徘徊者』との一戦で疲弊した4人は、ここは一旦食事を取ってからにしようと決めた。

 アジーにとって馴染みの店で、街の立地に詳しい彼にとって安らげる良い店であった。

 そんな場所では口もよく回るだろうと考えての事だ。




「私は一応反対。2対2ね。じゃあ賛成意見からお願い」


「はい。彼女は今私達に欠けている戦力を大いに補ってくれます。固定を組んでくれる付与士(エンチャンター)呪い士(まじないし)が理想として、彼女以上に適切な人材はそういないでしょう。これは渡りに船です」


「概ね同意見だ。加えて言うなら体力と根性がありそうだ。目的が目的だからそこは不安かもしれない」



 主従コンビの意見は概ね好意的。やはり今彼らに欠けている要素を彼女が埋められるというのは大きい。

 4人のチームワークは現状、個人の力量で互いの呼吸に合わせている形だ。

 誰かが突出すれば3人がカバーし、誰も行かなければその時最適なメンバーが先を走る。

 今はそれ程大きな力量差も無く、かつ4人の適正レベルより低い階層の攻略をしている為目立たないが、バッファー不在の差はダンジョン攻略において如実に表れる。

 現に6階で活動しているパーティはごく一部を除きバッファーが必ず在籍している。特殊な事情が無い限りは同行した方が生還率は上がるのだ。


 その点において祭司(ドルイド)であるフェニエの素質は一級品だ。

 位階で言えば呪い士(まじないし)の上位に位置する祭司(ドルイド)は大自然を信仰し、人もまた自然に類するものとして大自然の恩恵を与える技能を持つ。

 また大自然の代理人としてその力を暴力として行使する事も可能であり、攻防一体という点は他の支援職業とは一線を画す。

 しかしそれ故に難点があるのも事実だ。



「次は反対派ね。アジー、先どうぞ」


「あいよ。今んところ俺は反対だ。確かにフェニエは強ぇ。今の俺達が課題を一挙にクリアできる能力は確かにある。だが祭司(ドルイド)ってのが問題だ。ちょいと関わったことがあるが、アイツらの信仰心の深さは尋常じゃねぇぞ。なんせあらゆる行動の上位に『教義』が優先される連中だ。アイツの考え次第だが、最悪ダンジョンで俺達見捨てて『教義』を優先する可能性も捨てきれねぇ」


「『エリート』で固定パーティを組む場合、その殆どが魔法使いから派生した付与士(エンチャンター)を登用してる理由がそれね。それくらい彼らの頑固さ、融通の利かなさは知れ渡ってる。あの子がちょっと変わり者ってことは分かるんだけど……やっぱり即決の加入は早計かなと思ってる」



 祭司(ドルイド)が探索者をしない理由、それは世俗との関りを極端に嫌うからだ。

 欲を捨て、世俗から遠く離れた彼らからすれば、財宝目当てにダンジョン探索というのは欲塗れの下賤な行いに見えるらしい。

 かつてアジーは何人もの祭司(ドルイド)と交流してきたが、そのどれも相容れるものとは言えなかった。

 俗人、飢えた者、枯渇した泉。そのような独特な言葉で凡人を評価する彼らはアジーからすれば酷く鼻につくものであった。

 それはお互い様であると知っている為か、あるいは彼ら自身他者との交流そのものは嫌いではないのか。会話が出来ない程偏屈という訳ではないのがまた難しい所であった。



「それぞれ意見は揃ったわね。じゃあ妥協案を出しましょ」


「まずはヘレスに話を聞くべきだろ。今頃親子で大喧嘩でもしてんじゃねぇか?いや娘に甘いってのを鑑みると説得しようとして失敗ってところか?」


「アイツの人柄に惹かれてるっていうのもややこしいわねぇ。中身は私達が最初に追っかけてたアイツじゃなくて、とんでもない腕利きの紳士に変わってるっぽいでしょ?このままじゃあの子と私達の最終目標が違うものになりかねないわ」



 『騎士捜索隊』の最終目標は『徘徊者』の解剖である。

 彼がどのように生まれ、何を行動基準とし、その危険性が如何程かを詳細に知る必要がある。

 ミリアムも忘れたわけではないが、初手で片腕を斬り落とされた点を除けば、今日に至るまで全く敵対的な行動を取っていないのだ。

 現在の彼はそこまで脅威ではない。そう結論付けられそうになったタイミングで今回の入れ替わりが発覚した。

 入れ替わってからも善行を積んでいることに変わりはないが、その目的はますます不明だ。

 始めの彼なら「そういう奴だから」で済んでいたのが、今は全く不透明。その心中を察させること無く彼は今も徘徊を続けている。

 しかしそんな彼の行動にフェニエは命を救われたと言う。それもまた、彼らの不安材料となっていた。



「……俺もまだ、ちゃんと判断がつかない。けど優秀な補助役に抗い難い魅力があるのは事実だ。ヘレスの訓練で一度組ませてもらったことがあるけど、凄い補助役は本当に凄い」


祭司(ドルイド)に関してはアジーさんの方が詳しそうですね。そんなに気難し屋とは、フェニエさんを見てても感じなかったですが……」


「ありゃあ初めて見るタイプだよ。まぁ試しに一度組んでみるってのもありじゃねぇかとは思う……おっ、飯が来たぜ」



 一同が頭を悩ませている中、頼んだ料理が到着する。



「お待たせしました。コーンサラダとチキンソテー、パンのセットです」


「はーい!私!」


「これから寝るだけだってのによく喰うなお前……」


「うっさい。よく動いたのに食べなかったら倒れちゃうでしょ」



 ミリアムの前に鉄板で豪快に焼かれたチキンソテーがドンと、そして皿に乗ったパンとサラダがその傍に置かれる。

 ジュウジュウと音を立てたプレートからは肉汁が僅かに溢れており、触れれば火傷しそうな大きい鶏肉が食事の時を今か今かと待っている。

 目を輝かせたミリアムに水を差すようなアジーもまた、楽しそうであった。



「こちらはトマトとチーズのピザ、それからグラタンのスープセットです」


「俺達だ。どうも」


「ありがとうございます」



 クローカの手元には1枚の中サイズのピザが置かれ、ケインの前にはグラタンとオニオンスープが差し出される。

 どちらも作り立てでチーズがくつくつと隆起しており、食欲をそそる。

 チキンソテーといい、このお店には上質な焼きを提供する設備があることが窺い知れる。



「こちら『デュオニソス』産ラガービールと、ソーセージの盛り合わせです。いつもありがとうございます」


「どーも。いやここの飯が旨いのがいけねぇんだ。お陰で稼いでもここに消えちまうってなもんで」


「あらお上手ですね。ごゆっくりどうぞ」



 にこりと笑って、黒いベストのスーツを着たウェイトレスが静かに立ち去る。

 その足取りは軽く、服には汚れ一つない。その服は『スーツ』と呼ばれていた。

 最近は協会長の意向もあってか、上質な布と糸をふんだんに用いた衣類がこの街にも多く流通するようになった。

 取引先はヘレスの個人的な伝手らしいが、ケインはそれらの衣類が外国で流行の兆しを見せているファッションの一環だと知っている。一体どんな伝手があるのやら、一介の商家の出として是非 知りたいところである。



「もうお腹ペコペコ、いただきます!」


「俺も腹減ったわ。話は後だ、いただきます」


「ケインさん、私達も食べましょう」


「……ん、そうだな」



 この店の店員達の衣装が皆そうであるところから見るに、探索者が利用するには少々敷居の高い店であることが伺える。

 ケインが周りを見れば確かに客層には名うての商人や職人、高名な探索者がチラホラ見える。

 場違いとまではいかないが、彼らは自分達を疎んだりしないだろうか?そう考えたが、自分もそれなりに大きい商会の跡取り息子の一人だと思い出した。

 周りからは時折こちらに視線が向く以外に大したこともされていない。

 ケインは食事に手を付けつつ、ふと気になったことを聞いてみた。



「いただきます。……なぁ、ミリアム、アジー。もし答えたくなかったらいいんだが」


「ん~?ふぁに?」


「食ってから口開け、行儀悪ぃぞ。なんだ?」



 早速肉塊を豪快に切り分けて口に運ぶミリアムと、駆けつけ一杯とばかりにビールを口に運ぶアジー。

 そんな二人に「不快だと思ったら流してほしいんだけど」と前置きしてからあまり声を大きくせず聞いた。



「二人はどうして探索者をやっているんだ?」



 そう聞いた途端、二人の手がピタリと止まった。

 視線が交錯し(言ってなかったっけ?)(そういや言ってねぇわ)とやりとりしたのが傍目に見てもすぐに分かった。

 若干の気まずさを覚えつつ、食事を飲み込んでからミリアムは答えた。



「言ってなかったわね。私はパパがすっごい強い人だったの。本当は騎士になりたかったんだけど、そっちはママが……あいや、うん、色々あってね。目指すのが難しくなっちゃったから、じゃあ手っ取り早く強くなるには探索者かな~って」


「俺ぁ……家が嫌んなって飛び出しちまってな。流れで探索者やってて、気が付いたら怪物騎士様捜索隊ってワケだ」



 二人共どこか歯切れ悪そうに、話しづらい事は避けつつ簡潔に答えてくれた。

 先程ケインは周りから疎まれないのは自分が商会の人間だからだと考えたが、2人の反応を見るにひょっとして違うのではと考え始めていた。

 アジーは店員から声を掛けてもらう程度にはここを利用しているようだし、ミリアムもまた店員の服装に対し驚く様子はなかった。まるでこういった敷居の高い場所にも慣れているかのようだ。

 2人には自分が知らない顔があって、それはこの街で自分と同じくらい、いや自分以上に立ち位置が複雑なのでは?ケインの中にそんな疑問が浮かんだ。



「アジーさんはどちらのご出身ですか?」


「『国』だよ。実家がクソつまんねぇ家でなぁ、何処を見ても鼻持ちならねぇ高慢ちきしかいやしねぇの。やれこの国を真に愛するのは我々である~だの、やれ貴族として自覚を~だの。当の俺はクソガキやらかして絶縁。好きな時に酒飲んで飯食って、金が無くなったらダンジョン。探索者は最高だぜ」


「へぇ~。あんた意外とお坊ちゃんだったんだ。名字は?」


「捨てた。あんなもんぶら下げてたら重くてしゃあねぇ。……思い返しゃ、終ぞ家にゃ何も残さなかったわな。まぁ元々家はご優秀な兄貴様が継ぐ予定だったし、不出来なガキがいなくなって清々していることだろうぜ、ははは!」



 内心、ケインは驚いていた。聞く限りではあるが、アジーはほぼ間違いなく貴族の子だ。

 道理でフェニエの持つ通信鏡に然程驚きもせず、冷静に分析まで出来ているわけだ。常人ならアレを見ても「見たことがない」程度の感想になる。

 しかしアジーは見たことのない型番とまで言った。時折彼が見識の深さ、見せる交友の広さは大きな商会を袂とするケインからしても舌を巻くものであった。

 しかも『国』に居を構え、しかも金持ちだと言い切るくらいだ。それは他の金持ち、つまり他の貴族家よりも位が高いということではないか?

 そんな彼らが絶縁したとはいえ、息子に何の追跡も出さないものか?貴族は外へ血が流れることを嫌うのではないだろうか。



「んなこたーどうでもいいのよ。ミリアムよぉ、お前の親父さんって確か『制圧』のリューベルだろ?」


「よく知ってるわねぇ。そうよ、リューベル・ミラン。私の自慢のパパよ」


「うぐっ、ゲホッ。リュ、リューベル?あのリューベル・ミランかっ?」



 その名前を聞いたケインは大きく噎せ込んだ。あまりにビッグネームが出て来て驚いたのだ。

 『制圧』のリューベル。20年程前に『国』で大きく名を上げた騎士の名だ。

 一人で騎士隊10人を相手取り勝っただの、当時隆盛を極めていた化け物揃いの『常備騎士』隊にスカウトされただの、山賊逮捕に出発したらそれを聞きつけた連中が戦う前に降伏しただの、挙句の果てにはその実力だけで国王に謁見までしただの。

 聞けば多くの人が一笑に付すような馬鹿げたホラ話の連発。それがたった一人の人間の噂だと言うのだから更にお笑い種だ。

 だがそれを笑わないものがいる。『国』の中でも限られた人間と僅かな情報通、そしてミリアムとその家族だ。

 急き込んだケインにすかさず隣に座っていたクローカが背中をさすり、水を差しだす。



「そーよっ。まぁ私が物心つく前にいなくなっちゃったんだけど」


「それってあれか。17年前の」


「そう。ダンジョンに行ってそれっきり。だから私もダンジョンに行ってるの。パパみたいになりたいから」



 それは父の様に強くなりたいからか?あるいは父と同じところに行きたいということか?

 この場にいる3人にそれを聞く無礼さも勇気もなかった。

 ミリアムのアイデンティティに切り込めるほどの親密さはまだ重ねておらず、そしてそれを聞いた上で彼女を理解できないものとして見てしまう可能性を無意識に感じたのだ。

 彼らは深入りしない程度に賢く、そして正しくリスク管理の出来る探索者であった。



「ごめん、辛気臭くなっちゃったわね」


「いや、俺が聞いたことだ。悪い」



 どことない気まずさを覚えつつ、4人は食事を終えた。

 ミリアムにとっては懐古に浸る機会となり、3人にとって詮索は程々にと学んだ食事であった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ