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4階ボス『ドクロ』

「コッコッコッ……」



 不快な音を鳴らしながら『ドクロ』が4人の前に立ちはだかる。

 まずは『死霊の呼び声』を鳴らし畏怖、怯え竦んだ探索者を足元から刈り取る。

 その筈だったのが、既に目の前には無精ひげの男と魔女の2人しかいない。

 ならばと視界に映らない範囲、足元かと視線を下げた瞬間、強烈な打撃音と鋭い斬撃音が室内に響き渡る。



「そぉらぁッ!!」


「シィッ!!」



 ミリアムの先手、右脚の脛骨に対し垂直に拳を叩きつける。

 ダイレクトに伝わった力が骨の内を駆け巡り、ピシピシと割れる音がする。

 入りが甘いと判断したのか、すかさず姿勢を低く保ち二打目、三打目と拳を繰り返す。

 骨の中ほどまで罅が入ったのを見て満足げに、ミリアムは後退した。


 反してケインは刃身で薄く、叩きつけることはなく骨表面を撫でるように切り口を作る。

 刃は通ったと判断しもう一度同じ場所、返す刃で今度は押し込みながら引くように脚の骨を切断する。

 こちらも二の太刀で斬り落とすとはいかず、しかし半分程通ったのを見てすぐに後退する。


 『ドクロ』の行動パターンは既に多くの探索者達の手で解明されている。

 『死霊の呼び声』を用いて敵の行動を抑制、後スケルトンの『増援』を多数呼び出し、まずは数の暴力で圧殺。

 消耗したところを本体が戦う。スケルトンが減れば再度『増援』を呼ぶ。このサイクルを続けるのだ。

 故に速攻を仕掛けられる戦闘力があるのなら、まずは先手を取り行動に影響が出る程度に怪我を負わせ離脱。

 これが鉄板の行動である。


 『ドクロ』はある程度鍛えた探索者達にとってそこまで驚異的なモンスターではない。

 3階のボス『酸ガエル』のように装備を溶かし肌を焼く特技を持っているわけでもない。多く、怖く、固いだけだ。

 その証拠に二人は一切の『スキル』を使用していない。ただ普通の『攻撃』をしただけですぐさま後退した。

 このボスを相手に大技、大立ち回りなど無駄な消耗でしかない。この程度の処理も出来なくては7階到達など到底達成できないのだ。



「うんっ、もうちょっと力を込めてもよさそう。流石はグラノドのおじ様ねっ!」


「あぁ?お前グラさんとこでそれ叩いてもらったのか。道理で銘がねぇと思ったわ」


「ミリアム、グラノドを知ってるのか?あのグラノドか!?本物!?」


「なに、ケインひょっとしてファンなの?口利いたげよっか?相手してくれるかは知んないけどっと!」



 言っている間に身のこなしも軽く、ミリアムが再度前に出る。

 籠手も盾も鎧も、軽いものなど一つも無いのに骨だらけの足場を軽々走り抜ける。

 アジーは内心(猿みてぇ)と思っていた。だがあまりに素早い動きにケインは一歩出遅れる。

 眼光も鋭く狙いを定め、怯んだままの『ドクロ』へと肉薄。右脛に狙いを定め今度は拳を貫通させる勢いで殴りつける。

 二度、三度、四度、五度と殴る度に骨がどんどん陥没していき、やがてボキリと折れる音が鳴る。

 あまりの連撃にロクな『反撃』すら出来ず、片脚が砕けたことでバランスを失った『ドクロ』が正面へと倒れ込む。

 出遅れたケインがその瞬間を狙いすまし、倒れ込んで来る手前で停止。

 ありったけの力を込めて振り上げられた刃が『ドクロ』の頭部へと叩きつけられる。

 『ドクロ』の頭蓋骨は美しく斜めに両断された。



「クローカ!仕上げ!」


「はいっ!縮小、拡散、焦熱……」



 発する言葉に輝きと共に魔力が宿る。

 鍛えたとはいえクローカの魔法は未だ発展途上。今唱えている魔法は詠唱を用いない『原始魔法』だ。

 一語一語に魔力を込めて発する魔法はネイやヘレスの用いる『詠唱魔法』。『徘徊者』を撃退した高位神官が用いる『洗礼詠唱』とは違う、極めて原始的な魔法である。

 言葉と同じく、詠唱は正しい文章と文脈を踏むことで洗練されていく。一語区切りの魔法はカタコトの言語のようなものだ。

 意味は通じるし発動もする。だが正確で緻密なニュアンスが通じない。その分『成り立て』でも使えるのが特徴だ。

 だがそれは弱いことを意味しない。



「縮小、拡散っ!?ちょっ、ケインっ!」


「俺じゃないッ!そんなこと教えてないッ!」


「巻き込まれるぞー、二人共退がれ退がれー!」



 やんややんやと騒ぎ立てるアジーのことなど視界にも入れず、二人は全力でその場から後方に跳び下がる。

 ミリアムは低く大きく跳躍、四つ足の姿勢で地面にブレーキを掛ける。

 ケインもまた『ドクロ』の傍から全力で離れる。

 何も知らないのはその中央で倒れ伏している『ドクロ』だけだ。



「……焦熱、焦熱、焦熱───!」



 原始魔法は形状と元素、この2つに切り分けて行われる。

 形状を魔法をどのような形に出力するか。元素はどの元素をそれに入力するかだ。

 大前提として、これから5階に挑もうとする多くの魔法使いにとって形状変化を1回、かつ元素2回の計3小節を唱えられれば文句なしと言える。

 前段の形状に2小節以上含めれば魔法に、より指向性を持たせることが出来る。例を挙げるなら、線に加速を掛け合わせ水を入力すれば水の刃を作ることが出来るのだ。

 元素は単純で、重ねる程最終的な出力が増大する。

 今クローカが行っているのは4連続の元素加重。それだけでもひと握りの探索者しか使えない。

 魔力形成に極めて優れたクローカの体質『魔導機関』から繰り出す魔力の物量攻撃。

 そこに縮小(圧縮)拡散(解放)の指向性を持たせることで圧倒的な破壊力を齎す。正真正銘の離れ業である。



「あ、ダメだ。コレ俺もやべぇわ」


「6連っ!?しかも焦熱4つっ!?あの子何唱えようとしてんのっ!?」


「ヘレスが!ヘレス会長が悪いんだ!原始呪文は同単語を重ねる程威力が上がるって!」


「それ言ってできんの一握りだけだってっ!!ていうか熱系でそれやると地面と室温がヤバいんだけどっ!?助けてアジーっ!!」


「へいへいっと。まさか身内から身を護る為に使うことになるたぁね……」



 クローカは最後方。ミリアムとケインは最前列。その中間にいたアジーは素早く最前列へと躍り出る。

 懐から美しいサインのされた一枚のスクロールを取り出し、その中心に描かれた陣に素早く指をなぞらせる。

 淡い輝きを発し始めたのを見て満足げにそれを目の前の地面へと放り投げる。

 すると自分達を囲うようドーム状に鮮やかな蒼い幕が張られた。



「それ『水氷壁』じゃない!しかも全周!『守り人』から買ったの?あんた顔広いわねぇ」


「まーな。酒飲みには色々ツテがあんのよ」


「二人共軽く言ってるけど、グラノドも『守り人』も普通人間を相手に商売をしない筈じゃないのか……?」


「そりゃガセだ。客が来すぎてめんどくせぇから本人達で流したやつな。おら全員頭隠して伏せろ!目ぇ潰れんぞぉ!!」



 朗らかな雑談を前にクローカの魔法は完成した。

 『ドクロ』はというと、突然自分を襲う攻撃が止んだのをこれ幸いと体勢を立て直そうとしている。

 砕けた骨は戻らない。だが『増援』を呼び配下の骨を繋ぎ合わせればまた立ち上がれる。

 そう考え咆哮を上げようとして上空を見上げた時だった。

 小さな、本当に小さいが紛れもない太陽が浮かんでいた。



「原始魔法『疑似太陽』。私達の門出にお披露目させていただきます」



 同単語の重ね掛けは3回まで、というのが魔法使い達の暗黙の了解だ。

 4回以上は暴発の危険性が高く、万が一出来たとしても成立したその魔法はあまりに広範囲にわたって影響する。

 間違ってもダンジョンの外で使ってはいけないし、なんなら内部でも仲間がいる時は使ってはいけないだろう。

 4つ以上の元素加重魔法を展開するというのは、現時点では試そうとする者すらいない世界の話なのだ。

 それは正真正銘、クローカの花開かれた才能から放つ全身全霊である。


 空中の太陽が解き放たれる。

 始めはジリジリと暑く、それも太陽が突然膨れ上がることで気配が変わる。

 骨の表面を焦がす程度の熱だった日光が、その熱源ごと直接『ドクロ』へと触れる。

 広がり続ける太陽には『魔力対抗』も意味をなさない。魔力は既に熱へと変化している。

 炎を操る魔法使いが持つ初見殺し。溜め込んだ魔力全てを熱に変換し圧縮、そのまま相手に叩きつける極熱の魔法。

 魔力による抵抗を一切無視して焼き尽くす人工太陽の魔法である。



「───……」



 チリチリと『ドクロ』の身体が光に呑まれ塵になっていく。

 太陽は頭蓋骨ごと地面へと飲み込まれ、やがて広範囲に敷かれた石畳すらも塵へと変化させる。

 それは声を上げることも無く、ただ敗北を喫しダンジョンへと還っていった。

 やがて4人が目を開く頃にはそこには何もなかった。

 自分達の足場と背後への道を残し、跡には巨大なクレーターと僅かばかりの骨粉が底に沈んでいるだけであった。



「戦闘終了だな。3人共お疲れさん」


「問題ない。いや問題はある、か?」


「クローカ、やりすぎ。蟻地獄みたいになっちゃったじゃない、向こう側に行くのも一苦労よこれ。それに詠唱まで時間がかかりすぎ。当面の間は封印ね」


「ごめんなさい……」


「よろしい。皆強くなった自覚はしっかりと持ったわね。さ、とりあえず5階の安全地帯まで移動しましょ!褒めるのはそれからねっ!」



 派手にやったクローカを諫めつつも、ミリアムは怒らなかった。

 内心、驕っていたのかもしれない。自分はこの中で最も強いのだと。

 だがクローカを見て考えが変わった。私はまだまだ成長できると。

 単純な戦闘能力だけでは推し量れないものがここにいる全員にはあるのだと。

 自分の身体、アジーの知識、クローカの魔法、そしてケインの勇気。

 そのどれもがこの先必要になる。益々楽しみになってきた!

 ミリアムは内心でそう締めくくった。



「おっかねぇ。おいケイン、このままじゃ俺達尻に敷かれちまうぜ」


「強いことはいいことだ。今まで見たことのない強敵もクローカの魔法なら倒せる。俺達がそれを守る。いいパーティだと思う」


「かーっ、純粋だねぇお前はぁ!」



 彼らはもう一度歩き始めた。

 ほんの数か月前まで1階で足踏みしていた2人には既にその面影はなく。

 4階で日がな己を鍛えていた少女はついにその先へと踏み越えるに至った。

 ただ一人、知識と技量、人脈を培ってきた男もまたそれに倣う。

 彼らはこのダンジョンで今、もっとも急成長を遂げたパーティとなった。



「5階、楽しみね」



 リーダーの好戦的な言葉に、否定の言葉は返されなかった。



『魔法』



 この世界における「魔力を用いて発動する」技能の一つ。他に『奇跡』『神秘』がある。

 いずれも細分化すれば多数の流派に別れるが、『魔法』においては大別すると『詠唱派』と『原始派』の2系統に分かれる。

 詠唱魔法は使用魔力に無駄がなく、再現性が高い。ただし詠唱言語を正しく理解、認識していないと出力が格段に落ちる。

 原始魔法は出力にムラがあるが、発動に複雑な工程が要らない。

 魔法使い探索者の多くは詠唱、原始の両方を修めるのが推奨されている。


 魔法は人の進化と共に洗練されていくべきだと唱える詠唱派と、最も自然に近い形を維持するべきだという原始派は常に折り合いが悪い。

 両派閥はダンジョンのある街では手を取り合うが、それ以外では険悪であることが多い。


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