第9話 『まだまだ』
極限状態で結ばれる2人は長く上手くいく・・・・なんて話を聞いたことはないだろうか?
外国のアクション映画なんかでよくあるエンディングのシーンから来ているのだが、実際はもし人間が極限状態に直面すると、何より『安心・安全』を求めるし、目の前で起こっている状況を必死に誤魔化そうとする。
―――結ばれるきっかけは『極限状態』と言うより、『極限状態をともにする相手の度量』だ。
第9話 『まだまだ』
目一杯。
一言で言えば、悠はそんな状態だった。精神的に。
もともと運動神経や反射神経に神経に優れている悠は、車が多少言うことを聞かなくても、それにアジャストできるだけの力がある。
油温、水温は安定している。最近変えたばかりのラジエターがいい仕事をしているのだろう。
欠点といえば、頭の悪さ。無意識に体が反応するということは、意識して車の変化に気づけないということ。
頭で分かれないのだ。それまでとは明らかに違う変化がなければ、彼女は学習しない。
数字で見えること以外の車の状態などは知らない。常に変わっているコンディションに気づいていないから。
ただ分かっていることは、すぐ後ろで圭太が睨みを効かせていることくらいか。
(思ってた以上に上手ですね・・・・・これからが楽しみです)
圭太も少なからず感心していた。ドリフトとは常に綱渡りの状態だ。傍目から見ている以上にドライバーは神経を酷使している。
だから初めはコースに出ず、駐車場のように何もない広い場所で練習する。追走となれば、さらに神経を使う。抜かれるのが怖いのではなく、本能的に追突されることに少なからず恐怖感を抱いているのだ。
(ここからは本気です。確実に仕留めて見せます!!)
それをわかっているからこそ、圭太はさらに接近していく。アグレッシブを通り越してクレバーなまでにピタリと車体を寄せていく。観客へのサービス精神を忘れないのは、生粋のドリフターの証。
ギャラリーはコースに身を乗り出してまで声を張り上げるやつもいるくらい、歓声はさらに大きさを増してゆく。
(もちろん、ここまでは完璧に予定通りで動いていますけどね)
「そろそろ、おしまいです・・・・」
口元を軽く吊り上げ、圭太は呟いた。そして、勝負は動く。
悪く言えば頭の悪い悠も、テールを流し始めて3秒足らずで気づいた。
(!!)
タイヤが終わっている。グリップ力はほとんど無い。
「くっ・・・・!!」
スピン寸前のところを必死にカウンターとアクセルワークで誤魔化す。
ほぼハーフスピン状態のワンエイティに合わせるスカイラインと、その後ろにさらに1台の車。
(こんな終わり方なんて――悔しい!!)
連ドリの状態でスカイラインの方をキツく睨みつけると、圭太が悠の方を向いて笑顔で(・)手を(・)振って(・・・)いた。
「嘘よ・・・・」
その光景に悠は唖然としていた。
悠はスピン寸前を必死でコントロールしていたのに、それと同じに合わせて、しかも片手でステア操作を行うことなど、本来ありえないのだ。
しかしその顔は笑っていたし、たしかに圭太の左手は上がっていたのだ。
驚きと、何か胸踊る感覚。ドキドキして、妙に興奮。
(・・・・・・・!!)
あっさりスカイラインにインを突かれ、そして前を取られる。
それに付いていく、赤いハチロクレビン。
「あの車はいったい・・・・?でも、まぁいっか」
5分のクールダウンを終えると、最終走行枠の車は続々とコースを後にする。
駐車場へ車を止めて、真人の元へと帰ってくる3人。
「疲れた~、野村さんすげぇよ、俺前走るの怖かったもん」
「ぜ、全国戦なんて、毎回、あ、あんなものですよ・・・・」
走行中と走行後のギャップに悠も翔太もビックリ。
「それはそうと、あのハチロクって誰だったんだ?」
「さぁ、僕は知りませんよ・・・・?相当うまい人だと思いますけど」
「そうだな、あの2人の走りについて行ってたんだからな」
少しの沈黙が流れる。そこへ、奈津美がやってくる。
「『オジサンズ11(イレブン)』じゃないかしら?」
「「「オジサンズ11?」」」
第9話 終




