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第14話 『ターマッククイーン』

学校(あえて学園とは言わない)モノ、少しずつ書き始めてみました。

ある程度実話なのでネタはつきませんが、なんせ何から書いていけばいいのかよく分かりません。

あぁ、この回をアップすれば書き溜めた話があと2話になる・・・なら置いとけばイイのにねwww


さて、第14話、アップします。

『輝かしい未来』とはよく言うが、その形は1つではない。

ある人にとっては理想でも、またある人には何の憧れも感じない、ということも多々ある。と言うより、その場合の方が圧倒的に多い。じゃあ、『輝かしい未来の定義』とは、一体どこに、どんな形で存在するのだろうか?



―――夢の形は人それぞれ。『人間の数だけ未来や夢がある』というのも、あるいは間違っていないのかもしれない。





第14話  『ターマッククイーン』




(だらだらしてるように見えて、いきなり喉元に刃物を突きつけられるような感じ・・・・・ギャップのきつい走りだな)

真人は内心怖かった。すぐ後ろにいて、いつ襲い掛かってくるか分からない状況。

(これがプロのやり方―――)




1本目の後半から、奈津美の中でも何か気持ちの切り替わった瞬間があった。

(彼のおかげかしら、本気ですること無かったのに・・・・)

不意に昔の感覚が蘇る。





それは7年前――――。

木々や草が生い茂る山道を駆ける、CP9A型、三菱 ランサーエボリューションⅥ(以下『エボ6』)。

競技車両と割り切ったその車のエキゾーストは、何も知らない人が聞いたら即座に倒れてしまいそうなほどうるさい。

黄土色のその道は、草木がガードレールのように高く生え、サーキットとは違いエスケープゾーンも無い。

アベレージ80km/hで、エボ6は細いその道でアングルの浅いドリフトを決める。



勢いのあるアナウンスが響く広場。もちろん舗装はなく、各チームのテントが立ち並び、車や機材が置かれている。

『暫定1位は、「KOOL CAR STUDIO 名真三菱ランエボ6」小高 奈津美、善田ぜんだ 篤志あつし組!!』

善田篤志、そう、3・4話で登場したあの善田である。

車を降りた2人はハイタッチを決め、監督の下に歩み寄る。

「今回はいい仕事だったな、小高。善田もご苦労だった」 社長兼監督の男が2人を労う。

「『今回も』の間違いじゃねーのかよ、監督」 篤志が食って掛かる。

「フッ、そうだな。とにかく後はゆっくり休め。お前等の仕事は終わりだ」

その後、他チームの車が続々とコースに飛び出すが、2人の記録を抜くことはなかった。

この2人、もとは同じチームで走っていたラリースト。奈津美がメインドライバーで、篤志がコドライバー。2人ともドライブ技術がありながら、コドライバーも出来るという実力者。

引く手あまたなこの2人をものにしたのが、当時名真市でも大手チューニングショップとして有名だった『クールカースタジオ』のラリーチームだった。




キャンプ用の椅子に2人は座り、続々と発表される後続の車両のタイムを聞いている。

「ねぇ」 奈津美が口を開く。

「ん?」

「・・・・今日は、抜かれる気がする」

「ハッ、馬鹿言ってんじゃねぇよ。そんな意識で走ってラリー屋が務まるかよ」

軽い冗談をあしらうような2人のやり取り。

「・・・・そうよね、ごめんなさい」

そう言うと奈津美は椅子から立ち上がり、メカマンにクルマの状態を報告しに行った。


(・・・・・・・)

『抜かれる気がする』。篤志にはその言葉が、本心のように感じられて仕方がなかった。

「あいつ・・・・・」




プロレーサーにとってコンマ数秒は大きな数字。ラリーも同様で、そのコンマ数秒に泣く者も笑う者もいる。

笑ったのは、小高奈津美・善田篤志組だった。

2人は表彰台のてっぺんに乗り、何回も振ったシャンパンをなりふり構わずさらに振り回す。

「俺はこの瞬間を楽しむためにプロやってるようなもんだな」

優れた6人のドライバーのみが味わう栄冠。奈津美はなぜか、それを心から楽しむことが出来なかった。



表彰が終わり、各チームが撤収の準備を始める。

「小高、お前最近、なんか変だよな」

篤志に不意にそういわれ、驚きの表情が濃く出る。今も昔も、彼女は感情を隠すのが苦手なようだ。

「お前ホントに分かりやすいな。何だよ、『自分の技術に限界感じた』とかそんなこと言い出すのか?」



「・・・・分からないわ」

「どういう意味だ?」

「そのままの意味よ」

「それがわかんねぇから聞いてんだよ」



奈津美はふぅ、と一息ついて。

「・・・・・・怖いの」



「怖い?」 

篤志は不思議で仕方がなかった。数時間前まで驚異的な技術で競技車両を走らせていた彼女の言葉だとは、到底思えなかった。

「できるだけ、スピードを落とさずに走るのが、なんだか・・・怖いの。理由は分からないけど、頭が、頭がアクセルを踏む足を、押さえようとするの・・・・・・」

うつむいたまま奈津美は、一言一言を吐き出すように言った。

「小高・・・・」

その小さな声は、篤志には冗談に聞こえなかった。本当の心の声だとさえ思った。

「分かった、お前がそこまで言うなら、俺も監督にかけあってみるよ。次は俺にドライバーをやらせてくれってな」



「うん・・・・・ありがとう」

「いいって、気にすんな。ちょっと疲れてるんだろ」



内心、篤志はこれをチャンスだと思った。ここで結果を出せば、メインドライバーとしてずっと走っていられるかもしれない。上手くいけば、さらに上のカテゴリーでの参戦も可能だ。案外野心家の篤志。

悲しいかな、何においてもプロの世界は結果が全てだ。プロを名乗っている時間が長ければ長いほど、人もマスメディアも過程より結果を重視するのだ。




数日後、名真市 COOL CAR STUDIO 社長室

「・・・・・・と言うわけなんだよ監督、次は俺に走らせてくれないか?」

代表の顔は苦々しかった。

「今まで小高を使ってきて結果も出てる、お前を走らせる理由が無い」

「だけど、恐れを抱かせたまま小高に走れって言うのもちょっと酷くないか?俺なら準備はできてる、きちっと結果も出して見せる。頼むよ監督、小高をこのまま走らせて取り返しの付かないことにも―――」



「―――うるさい、これからも小高で行く。私が決めたんだ、たかがコドライバーが偉そうな口を叩くな」


                                                           第14話 終わり


(注)本来ならこんなにあっさりラリーのドライバーは入れ替わりません。お話的にこうでもしないと、というのがあったので勘弁してください。

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