第10話 『「OJISANS11」』
3話アップだとなんだかキリが悪いので、とりあえず書き溜めてる1話出します。
では、どうぞご覧ください・・・・・www
『亀の甲より年の功』とはよく言ったものだ。
亀の甲羅よりも人の功績の方が人の目に付きやすく、称えられることが多い。何より亀の甲羅を称える人間なんているのだろうか?
人間だろうがほかの動物だろうが、誰だって大きな体と力を持つ方を見がちなのだ。
―――ーだが、知っている人は知っている。一番の努力家は小さな力を積み重ねて、知らぬ間に大きな力を持つものとは比べ物にならないくらいの大きな功績を残していることに。
第10話 『「OJISANS11」』
真人は知らなかった。『オジサンズ11』とは?
たしか、そんなテレビ番組が少し前に放送されていたような気がする。
『OJISANS11』は、この街で『OVER FLOW』と肩を並べる3大勢力の1つで、輪山トロリーバス専用道路をホームとする。メンバーの全員の年齢が35歳以上で、1990年以降の車に乗っていないのが特徴。新しくてもR32GT―Rまで。S30ZやSA22Cなどといった骨董品ともいえるような車で元気に走り回っている。当然キャリアが長い分実力も高く、ドラッグ・ドリフト・グリップの3分野全部で全国的にもその名は知れ渡っている。
あのときの彼はハチロクに乗っていた。オジサンズ11の赤いハチロク。そのことを知っているのは奈津美だけだった。
「あのクルマはうちのガレージにも来るわ、松平さんね」
「何者なんだそいつ?」 真人の問いに、奈津美は首を横に振る。
「わたしも話したことがないの。いつ来ても注文したパーツだけ持っていって機材を借りて自分で作業してるから、あのハチロクのスペックは知らないし・・・・」
「そうなんですか・・・・」 少し肩を落とす圭太。
「だけど、音を聞いた感じは4A―GのカリカリNAチューンだと思うわ。N2用と遜色ないパフォーマンスだとしたら、だいたい180~190馬力ね。クロス寄りのミッションとの組み合わせでピックアップに重点を置いたグリップもドリフトも楽に振り回せる仕様ってところかしら」
((((さすがチューナー・・・・・))))
奈津美以外の全員が思った。名真市では凄腕チューナーで通っている彼女の実力の片鱗を垣間見た4人。
その翌週の夜、輪山トロリーバス専用道路。
ここは昼間は観光客のためのトロリーバスを運行しているが、夜はその道も使われずそのまま放ったらかしになっているので、近くに住む金持ちで車好きのオジサンたちの集まり(オジサンズ)が走り回っていた。その中の11人がチーム、というより旧車オーナーズクラブを立ち上げた。それが『オジサンズ11』の始まり。“映画『オーシャンズ11』のようなデキる奴ら”と“11人のオジサン達(Eleven Ojisans)”を掛け合わせて、カッコいいようなだらしないような微妙な名前になってしまったらしい。
「久しぶりだな、松平さん」 KPGC10型スカイライン、通称ハコスカのウインドウからハチロクに声をかける男が。
「ああ、先週はキャスナイトに行ってたからな」
「『オジサンズ11』はあれには参加しないんだけどな」
「頑張ってる若い奴らの勢いを見習ってみようかと思ったんだ、それに―――俺は『オジサンズ11』じゃない」
「ああ、そうだったな。で、収穫はあったのか?」
「そうだな、白い34スカイラインに乗った上手いのがいたな」
「ああ、野村とか言ったか?ちょくちょくドリコンでも結果出してる奴だろう」
「まぁな」
「あいつと互角に走れるなんて、あんたもまだまだ現役なんだな。間違いなくハチロク乗りではこの街一番だろ」
「誉めてもらえて嬉しいよ。もう帰るのか?」
「ああ、エンジンがぐずってるんだ、オーバーホール時期なのかな。S20エンジンのパーツなんてないよな・・・・そろそろRBエンジンも視野に入れるべきなのか・・・・」
「好きにしてくれ。俺は今から水越に行こうと思ってるんだ」
「あんなところに走り屋なんているのか?」
「走ってるんだと、そのスカイラインが」
「そうなのか、じゃあ気をつけてな。俺は帰るよ」
「ああ」
シガーライターでタバコに火を点ける松平。ハチロクは、輪山の道を勢いよく駆け降りていく。すれ違う車は、どれも旧車と呼ばれるような車種ばかりだった。
その20分後・・・・水越。
いつも通り、真人と圭太の2人と・・・・なぜか奈津美が。
「何であんたが来てるんだ?」
「別に走りたいわけじゃないわよ、ノムノムの足回りの状態を確かめに来たのよ」
「そうか・・・・確かに、軽トラだしな」
そう、彼女が乗ってきたのは軽トラ、一応車種はホンダのアクティ。エクステリア的にはホイールがそれなりのものに交換されていて、荷台がロールケージっぽい補強が少し入っている。荷台には工具が乗せてあり、ドアにはゴシック体で『㈱オダカオートサービス』の文字が。出張サービス用なのだろう。フロントバンパーに付いたむき出しラジエターが少し気になるが・・・・。
「じゃ、じゃあ小高さん、い、行きましょうか」
「ええ」
2人はスカイラインに乗り込み水越の峠を下っていった。1分も経たないうちに豪快なスキール音が辺りに響いた。
耳をふさぎたくなるほど、司のGT―Rと似ているエキゾースト。
「絶対、次は勝ってやる・・・・・」 そう呟く真人。
5分後、エキゾーストが重なって聞こえる。え?重なるって・・・・・??
「何だ・・・野村の奴、誰と走ってるんだ?」
ふもとでは・・・・・
「あ、あれ、な、何でしょうね」 後ろから来るそれに先に気づいたのは圭太だった。
「え?ああ、何か来てるわね」
「あ、ああの・・・・」
「え?」
「・・・・ぼ、ぼぼ僕、本気ででははっ走り出すとしゃべ、べべらなくなるん、で、でで」
妙に吃音が激しくなる圭太。奈津美は何も言わずにうなずく。
後ろからのパッシングに、ハザード3回の点滅で答える。
圭太はサードに入っていたギアを1速落とす。強烈な縦Gでシートに押さえつけられる。
「このヘッドライトはハチロクレビンね、まさか―――」
(!!)
本当に、松平はやってきた。なにを思ったか、圭太のスカイラインを見つけると反射的にパッシングをしてしまった。
「何やってんだ俺は・・・・」
そう呟くが、その目がハザードの点滅を捉えると、右足はアクセルを踏みつけていた。
第10話 終わり