おふだを剥がしてほしいと願う依頼人
「おふだを剥がしてほしい?」
俺はおもわず依頼人の言葉を繰り返した。
「はい」とうなずく依頼人の女。「こちらは心霊関係の問題解決率が100%だと聞いてます」
「まあね」
一気に気分が良くなる。俺が開いている霊障相談所は所長しかいない零細事務所だが、女が言ったとおりに持ち込まれた問題はすべて解決している。業界イチの業績といっていい。……まあ、俺調べだし、依頼は月に一件くらいしかないけど。
「ならば」と依頼人。「可能ですよね? おふだ剥がし」
「うぅむ」
可能ではあるが……。
「だいぶ古いことのようで、誰がなんのために貼ったのか、まったく分からないんです」
「普通に考えれば、悪いものの封印だな。というか普通以外に考えても封印一択」
「そうとは思えません。なにかの間違いだったのです。悪いところはありませんから」
「そりゃ封じ込めているからだよ。おふだの力で。だから悪く見えないの」
「いいえ、悪くありません!」依頼人は強い口調で前のめりになる。本気でそう信じているらしい。「だからおふだをはがしてほしいのです! 邪魔で本当に困っていて! 生活に支障をきたしているほどなんですよ?」
「……まあ、それは不便だろうけどね」
「ええ!」激しく首を振る依頼人。「あなた、そういうもののプロなのでしょう? 他の人たちはみんな怖がって尻込みしてしまって。もうあなたしか頼る人はいないんです」
「でもね、おふだを剥がしたあとに悪いことが起きたら、どうするんだ?」
「そんなことは起きません!」
ため息をつきそうになり、すんでで飲み込む。依頼人は頑なだ。向こうの要求をのむしか道はなさそうだ。
「分かった。剥がそう」
「ありがとうございます!」
飛び上がって喜ぶ依頼人。
「ただし、なにが起きても文句は言わないでくれよ」
「言いませんとも!」
依頼人は感極まったのか、両手を体の前で祈るように組んでいる。
いったい、どんな思考になっているんだか。
不憫な気もするが、なにしろこちとら持ち込まれた依頼は100%解決が自慢なんだ。
どうしてもと依頼人が言うなら、おふだは剥がす。それで問題が起きたら、そっちもきっちり解決。でないと100%が伊達になっちまうからな。
俺は立ち上がり、依頼人に近づいた。
「んじゃ、剥がすぞ」
体中にびっしりとおふだが貼られた依頼人。相当な力を持った悪霊だろう。
まさか霊本人が依頼しにくるとは。最終的に除霊されちまうって、分からないものなのかね。