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象の足

作者: 白夜いくと

 何も感じない。ただ空腹の身体でベッドに寝転がる日々。躁の時に買ったイヤホンで聴きなれた音楽をリピート再生。それも飽きてきた。

 鬱になった今では、衰弱していく様をもう一つの心で観察することしかできない。


「……」


 声も出せない。このまま寝てしまおう。最後の力を振り絞ってすることと言えば、象の足のように重く感じるスマホで、動画サイトの動画を観ること。


(ん……?)


 ある有名な曲のカバーが関連動画に挙がっていた。


(どうせ原曲を越えやしない。どんな声も、今の耳には響かない)


 そう思いながらも、今時風の髪型をした綺麗な青年のカバー動画を観た――それは、とても美しい声だった。表情一つ変えず、儚く歌われるメロディ。

 心が透明になっていくようだった。彼が誰に対して何に対してどんな気持ちで歌っているのかは分からない。だけど、なぜか今の自分と比べてしまった。


 彼は孤独ながらも、「自分」というものを持ち、美しい歌声でそれを表現している。今の私の中に無い感情を持ち、それを音にしている。


 嫉妬と同時に、心が、美しくなれた気がする。


「ぅ」


 腹の虫と、ほんの少しの声が出た。


(今なら動ける!)


 液晶の中の感情が、歌が。私を奮い立たせてくれた。空腹の中で塩ご飯を食べた。ご飯をよそえた。塩をかけられた。偉いぞ私。


 これは2日前の私。


 人は一人では生きていけない。たとえお金や、食う寝るところや住むところがあってもだ。私以上に素晴らしい人が沢山居る。彼らの生きる姿を見て「生きよう」って思えるんだ。


 現実でどうしても孤独で寂しくなったら、液晶の中の感情に触れよう。ほんのちょっとの労力だ。スマホは象の足のように重いだろう。

 でも、その先に心を掴んで離さない何かが在るはずだ。


 鬱は、好きなモノを脳内シュレッダーに掛けていく。何の断りもなしに。ただ寝ているだけというのは悔しいから。象の足に立ち向かえ。


 液晶の中には沢山の人の感情が籠っている。必ず自分の心と結びつく何かと出逢えるはずだ。ほんのちょっとの力。本当は、本当の私はスマホなんか軽々と持ち上げられるんだ。


 象の足になんか負けない。


 

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