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第8話:ドワーフ王国カル=デ=ラクルグ

「旅の巡礼。兄妹か――カル=デ=ラクルグへの滞在は最長三日。通って良し」


 人間より頭二つ程背が低いがっしりとした体格の小人、ドワーフ族だ――門番は他にもいたが、コールドゥ達についたのは二人だった――は人間の共通語コモン――リルガミン語だ――で話していた。


 秩序機構オーダーオーガナイゼーション戦方士バトリザードコールドゥ=ラグザエルは拉致したエセルナート王国王女アナスタシアと共に異界山脈のふもとにある巨大な門の前でドワーフの門番に見分されていた。


 王女はコールドゥが姉と母を人質を取られて秩序機構に従わざるを得ないのだと知って何とかそれを止められないかと思い――自分を奪還すべく動いている直属護衛騎士カレンとその仲間達の助力を得られればという結論に達していた。


 彼女らを通じて父“狂王”トレボーに直言出来れば王国の力も動員出来るかも知れない。


 王女はコールドゥにその旨を伝えたのだが、彼の返事は素っ気ない者だった。


「祖父ゲルグは強大な魔法使いだ――お前達の敵、ワードナに匹敵する――気持ちはありがたいが、余計な事は考えるな。それにこれは俺の問題だ――お前の命の保証も出来ない」


「お前たちの仲間が追いかけて来る様痕跡を残す位はしても良い。俺を襲わない様に――と言うのは虫が良すぎるだろう。仲間を殺してしまったら恨んでくれて構わない」


「そう――じゃあ私は私で勝手にやらせてもらうわ――まだ死にたくはないもの」


 二人は門番には聞こえないほどの声で話す――強制ギアスの首枷の力で助けを求めることは出来ない。


 ドワーフの砦には照明が無かった――ドワーフ達は皆暗闇でも目が効くのだ――。


「カル=デ=ラクルグ――一度来た事は有るけど、式典用の場所しか行けなかったわ――」


 コールドゥが灯りの魔法を唱える。


 満月くらいの明るさの光だ。


 天井は高く、道幅も馬車が並んで五台は通れる広さだった。


「露店とかは無いみたいだな」


「もう少し先に行けば商業区画や宿屋が有るわ――人間用のもね」


 コールドゥが連れて来た馬が低くいなないた。


 ラバに乗ったドワーフ達が横を通り抜けていく――ドワーフの戦士だ。


 ふくよかな体形のドワーフ女性――男より背が高かった――も居た。


 顔立ちは美しかった。


 ドワーフの女性はあまりドワーフ社会を出ない――おかげで地方によってはドワーフの女性にはひげが生えているとさえ思っている人間もいた。


 しばらく進むと酒場や宿屋、食堂――洞窟を横に掘った店舗兼住宅が立ち並ぶ区画に出た。


 少し早いが昼食を取ろう――そう考えた二人は居酒屋に入る。


 人間やエルフと言った種族も入れるような照明された高い天井の店だ。


 洞窟都市で人工的に栽培された野菜や家畜の肉、運ばれた魚――海魚まで有った――ミルクや醸造、蒸留、各種の酒と言ったメニューから王女は興味深そうに料理を選ぶ。


 この王女はいつもそうだ――コールドゥはそのたくましさに驚かされたものだった。


 庶民がどんな物を食べ、飲み、働き、娯楽として消費しているか――それを知る事が大切な事だと信じている。


 コールドゥがそれを言うと王女は何時か王国を継いだ時に必要になると言った――自分が帰れるという事を微塵も疑っていないのだ。


 予知能力を持っている訳でも無いのにそこまで未来を信じ切れるという事がコールドゥには眩しいと同時にある意味不気味だった。


 真の絶望の淵に立った時この王女はどんな表情をするのか――試してみたいものだとそう思う。


 王女は年相応の娘らしくたっぷりと飲み食いした――一方コールドゥは味覚を維持するために薄味のポトフと岩塩を振った腸詰と葉物のサラダ、バターで焼いたパンを食べる。


 ドワーフ達、少なくともカル=デ=ラクルグの住人は濃い味が好みの様だった――鉱山労働者や金銀細工師、鍛冶師といった肉体労働をする者が多いせいだろう。


「“兄様”」王女はわざとらしく呼んだ。


「もっと食べた方がよろしくてよ」コールドゥは通常の食事は余り必要とはしない――全く食べないと体力は回復しないが飢え死にするまではいかない。


 人間としての感覚と習慣が食事を取る様にさせているのだ。


 それを知らない王女は悪意では無いにせよ癇に障る事を言う――なまじ純粋なだけにその言葉は不愉快だった。


「余計な世話だ」コールドゥは冷たい反応を返してやる。


 王女は頬を膨らませた。


「ドワーフ王国ではカレン達は仕掛けてこない――そう思ってるなら甘いわよ」


「注意しておこう」


「私を解放してくれるなら貴方の家族の安全を――」


「無駄だ。ワードナと戦い他の国にも侵略しようとしている国に何が出来る」


「エセルナートの軍偵が秩序機構に潜入したと言っても?」


「秩序機構総帥を暗殺できるとでも?――正気じゃない。それに奴を殺すのは俺だ。他の誰にもやらせはしない」


「貴方の手伝いをするというのは?」


「何?」コールドゥは食事をする手を止めてアナスタシア王女を見た。


「私をこのまま魔都マギスパイトに連れて行く――同時に私の仲間が貴方の後をつけて敵深奥で合流し秩序機構総帥ゲルグを倒す――止めは貴方がさせばいい」


 コールドゥはその言葉を心の中で反芻する。


 上手くいけば確かに力強い援軍となってくれるかもしれない。


 王女を連れて行けばゲルグも油断するだろう。


 彼女がこちらの手に有れば王国も裏切る可能性は低い――巧妙な妥協案と言えた。


 コールドゥの表情を見て王女は自分の提案が受け入れられたとまでは言わないまでも心を動かすことは出来たと踏んだ。


 王女はもう一押しする。


「リルガミンでも魔人ダバルプスに貴方を襲わせた――最初から全て罠だったのよ。次の目的地ガランダルも、このカル=デ=ラクルグも」


 コールドゥは黙考する。


「今すぐにとは言わないわ――ただ貴方が家族を救いたいのであれば私の提案を考えてみて」


 ――二人の間に沈黙が落ちた。


 *   *   *


 一方、王女奪還を狙う王女付き護衛騎士カレン、不老不死ハイエルフの女忍者ホークウィンド、そして“狂王の試練場”に挑んでいたエルフの魔法戦士キョーカ、ドワーフの女戦士シーラ、魔法使いマーヤ、神官ミア、勇者の一族のマキがカル=デ=ラクルグの門で見分を受けていた。


 交通の要衝でも有る洞窟都市ではエルフも珍しくない――しかしドワーフにはエルフに対し複雑な感情を抱くものも多かった。


 見分は長い時間続いていた――もう昼過ぎだ。


 特にホークウィンドに対し敵対的な意図が無いかをしつこく確認していた。


 シーラもそんな事は無いと必死に説明していたが、門番の疑いは中々晴れなかった。


 ホークウィンドは落ち着いたものだった。


「まだ疑っているの――?」一方カレンは苛立ちを隠せない様子だった。


「そういう訳では無い」少しなまった共通語コモンでドワーフが答えた。


「ただそなたらが何者かはっきりさせているだけだ」


「うざったいチビのデブ野郎」カレンはエセルナート語で小さく毒づいた。


 キョーカ達が一瞬ぎくりとする。


 エセルナート王国の発行した“狂王の試練場”と呼ばれる迷宮に挑む冒険者だとの身分証は殆ど効果を発揮しなかった。


 その間にも隊商や旅人が横を通り過ぎてカル=デ=ラクルグに入っていく。


 結局、一行が解放されたのはそれから一刻も経ってからだった。


「マーヤ、灯りの呪文を唱えて――ミアは王女様の追跡を」カレンの声には苛立ちを超えて疲労の色すら有った。


 マーヤの魔法の明かりが辺りを照らし出す。


「有りました――時間は半日から一日程前ですね」ミアが王女達の痕跡を発見した。


「じゃあすぐに――」焦るカレンをキョーカ達が引き留める。


「少し休息を入れましょう――カレン様もお疲れでしょう。焦っても始まらないです。ミア、王女様を見失う心配は?」


「絶対とは言えないけど――まず無いわ」


「――分かったわ」カレンは渋々といった様子で同意した。


 人間向けに営業している居酒屋に入って遅い昼食を取る。


「洞窟都市で仕掛けられれば良いけど――可能性は五分五分と言った所だね」ホークウィンドが鹿肉のステーキを食べながら言った。


「向こうもそうそう隙は見せないでしょうね――」カレンが嘆息する。


「まだ決まった訳じゃありません。追い付ければ機会チャンスは有ります」マキが励ました。


 七人は時間を掛けて食事をし、少しの食休みを取ると王女の追跡に掛かった。


 相手の細かな位置まで探るのは時間が必要だった。


 人間族ヒューマンが多い人込みに紛れられると――ドワーフの身長は人間より大分低い――捕まえるのは難しくなる。


 しかし逆に言えばそういう所――人込みに敵が紛れる可能性が高い――を重点的に探せば良いという事でも有った。


 そして夕方過ぎ――遂に七人は王女を見つけ出す事に成功したのだった。

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