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第30話 美しき炎



 宙に浮いていたアサリアが地面に降り立ち、優雅に頭を下げて挨拶をする。


「ミハイル・ホロ・モーデネス公爵様。非常事態ゆえ、挨拶は省略させていただきます。ここは私にお任せください」

「アサリア・ジル・スペンサー嬢、なぜここに? いや、それよりも、君だけに任せるわけには……!」


 来てくれたのは助かるが、ここはモーデネス公爵家が守るべき砦。

 さすがにスペンサー公爵の令嬢一人に任せるわけにはいかない。


「お気遣い感謝しますが、大丈夫です。ご存知の通り、そして見てわかる通り……私の魔法は、味方を巻き込んでしまう可能性が高いので」


 アサリアがパチンと指を鳴らすと、炎の壁が一気に激しさを増して魔獣をどんどんと襲っていく。

 炎の壁に魔獣が触れた途端、その身体に一気に炎が回り丸焦げになっていく。


 アレクシスはそれを見て、確かに下手に前に出てあの炎に当たったら洒落にならないと感じた。


(しかしいくらなんでも、一人で千体以上の魔獣を相手するのは……? なんだ、あの影は?)


 炎が魔獣を倒しているのは砦の手前の方、しかし奥の方では魔獣が多くいる中心に素早く動く影があった。


(あれは、人か? 騎士? いやだが、速すぎないか?)


 遠くにいるのに、人の影だと認識するのが難しいほど速く動いている。


「それと私は一人で来たのではなく、専属騎士を連れてきております」

「専属騎士……まさか噂になっている者か?」

「はい、名はラウロ。私の専属騎士にして、最強の騎士です」


 あの影が通っている場所の魔獣が次々と倒れていく。

 アレクシスも噂は聞いていたが、あれが騎士になってすぐの平民?


 どんな才能があれば、短期間であんなに強くなれるのか。


「ラウロって、本当に化け物だわ。一時間も私の高速移動についてきて、さらに戦いとなるとそれよりも速く動くって何? どういうこと?」


 アサリアが小さくそう呟いていたのだが、アレクシスには聞こえていなかった。

 それよりも、炎を操り次々に魔獣を倒すその後ろ姿、横顔を見つめていた。


(なんと強く、美しい女性なのか……)


 もうダメかと思っていた。

 ずっと慕っていた父上が死ぬと、そう覚悟していた。


 それを、こうも簡単に覆してくれた。


 こんなにも気高く美しい炎を、アレクシスは見たことがない。


「す、すごい、魔獣がどんどん減っていくぞ……!」

「もうダメかと思っていたが、凄すぎる……!」


 後ろで見ていた騎士達も口々にそう言っているのが聞こえて、完全に落ちていた士気が上がっていた。

 アサリアがチラッと後ろを見てそれを確認した。


「……ふぅ。モーデネス公爵様、すみません。意気込んでここまでやってきましたが、ここまでやってくるのに魔力を使いすぎてしまったようです」


 アサリアが少し疲れたかのようにため息をつきながらそう言った。

 アレクシスはすぐにそれが嘘だとわかった。


 確かに急いでここまで来るために魔力を使ったのだろうが、ここまでの大魔法を簡単に使っておいて疲れているなんて、嘘に決まっている。


 ミハイルがそれを聞いて目を見開き、口角を上げた。


「そうか……それならあとは私達に任せてほしい。もう魔獣も二百体ほどしかいないだろうから、私とアレクシスの魔法だけでいけるだろう」


 ミハイルがそう言った瞬間、アレクシスはアサリアの考えに気づく。

 このままアサリアと専属騎士のラウロが全部倒したら、東の砦で戦っていた騎士達がモーデネス公爵家を見限ってスペンサー公爵家に行く可能性がある。


 おそらくアサリアとラウロは二人で魔獣を全て倒し切る余裕はあるが、それを考慮してミハイルと自分が戦えるように仕向けてくれたのだ。


「ありがとうございます、モーデネス公爵様。私の騎士も退かせていいでしょうか?」

「ああ、あとは私とアレクシスに任せてくれ。感謝する、アサリア・ジル・スペンサー嬢」


 ミハイルの言葉に、アサリアがニコッと笑って一礼した。

 そしてアサリアが魔獣の方を向き、炎を消した。


「ラウロ、来なさい」


 とても遠くでいまだに魔獣を倒して回る影。

 その騎士に向かって言ったようだが、あまりにも声が小さすぎる。


 アレクシスはそう思っていたのだが、突如目の前に男が現れていた。


「アサリア様、お呼びでしょうか」

「もう十分よ。あなたも疲れたでしょうから、あとはモーデネス公爵家に任せます」

「かしこまりました」


 その騎士、ラウロはアサリアの命令に従い、後ろに下がった。


「いくぞ、アレクシス。ここからは我々の番だ」

「っ……はい、父上!」


 アレクシスは前に出る際、アサリアと後ろに控えているラウロの方を向いた。


 アサリアと視線を合わせ、軽く微笑んで頭を下げた。

 最大の感謝を込めて。


 アサリアも笑みを浮かべて会釈をしてくれた。


 後ろにいる騎士のラウロからは睨まれたが、それは無視してアレクシスはミハイルと共に前に出る。


「父上、やりましょう」

「ああ、アレクシス。いくぞ」


 ミハイルとアレクシスは同時に大量の水を出して、その水がまだ生きている魔獣達を一気に飲み込んでいく。

 そしてそのでかい水の塊は宙に浮いていき、その水の中にはジタバタして抜け出せない魔獣が二百体以上。


 その水の塊がどんどん小さくなっていき、二百体の魔獣は水の中でどんどんと押し合って潰れていく。


 そして最後には魔獣が全部潰れて、真っ赤な水の塊となった。


 炎と同様に、とても派手な魔法であった。


 その水が宙から無くなったと同時に、騎士達から歓声が上がる。


 魔獣の群れの異常事態は、終わったのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] この、ミハイルとアサリアの意図を、アレクシスの視点でわかりやすく述べるところも、他者からの主人公への心情も、どうやって心集めていくのかもわかりやすく、そして貴族としての矜持も最高です
[良い点] ミハイル・ホロ・モーデネス公爵のイケオジ度が高い。印象に残る。 「帝国の守護者たち」だね!!
[一言] モーデネス、惚れてしまったか!?
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