第13話 お兄様と訓練へ
オリーネと楽しい楽しい会話を終えて、ラウロと話す。
「ラウロ、もう仕事は終わったかしら?」
「はい、アサリア様。俺の我儘に付き合ってくれてありがとうございます」
「本当よ、運送店の店主に支払ってなかった給金を私が丁寧に頼み込んで支払わせたのに、あなたはもう少し働きたいって言うからビックリしたわ」
「丁寧に頼み込む……?」
「何かしら?」
「いえ、なんでもないです」
店主さんには丁寧に頼み込んだわよ。
ただあちらが私の権力に身体を震わせて青ざめた顔をしていただけ。
「給金をしっかりもらえなかったけど、店主のお陰で今まで生きてこれましたから」
「そう、ラウロは律儀な男ね」
まあそういうところは好感を覚えるけど。
「じゃあ行くわよ、ラウロ」
「はい、アサリア様」
「それじゃあ、オリーネ嬢。ご機嫌よう」
私が笑みを浮かべて、私達の様子を見ていたオリーネに別れの言葉を言った。
「ご機嫌よう、アサリア様」
オリーネは引き攣った笑みをしながらそう言ったのを見届けて、私とラウロはその場から離れた。
ラウロを連れて馬車に乗り、運送屋の前から移動する。
「はぁ……楽しかったわね、とっても」
私は思わず恍惚の表情を浮かべ、心の底からの言葉が漏れた。
ラウロが今日仕事を終えるから迎えに来たんだけど、本当に来てよかった!
まさか今日、オリーネがラウロをスカウトしに来るとは思わなかったわ。
ラウロがまだ仕事を続けたいと言った時は少しめんどくさいと思ったけど、本当にラウロが続けていてよかった。
「ラウロ、あなたが律儀な男でよかったわ」
「はぁ、そうですか」
ラウロは豪華な馬車の中で少し落ち着かずに背もたれに身体を預けず、ピンとした姿勢をしている。
なんだかそういうところは少し可愛らしいわね。
「アサリア様は、あのオリーネ男爵令嬢がお嫌いなのですか?」
「……まあそうね」
あれほどバチバチにやりあっている感じを出したら、目の前で見ていたラウロはすぐにわかるわよね。
「嫌い、大嫌いよ。本当に、死ぬほどね」
「そうですか。ああいう態度はあの人以外にはしないのですか?」
「うーん、あともう一人、あんな態度で接する人はいるわね。男性だけど」
ルイス皇太子とかいう浮気者がね。
「なんでそんなことを聞くの?」
「いや、それならよかった、と思って」
「よかった? 何がかしら?」
「レオとレナがよく失礼なことをアサリア様に言っていますが、嫌われないかなと思っていたんです。あと俺も我儘を言ってしまいましたし」
「弟妹さんはまだ幼いし、可愛いからいいのよ。あなたの我儘も別に問題ないわ、しかも今日あの女のいい顔が見れたから、むしろ我儘を言ってくれてよかったわ」
「それならよかったです。あれほどアサリア様に嫌われることがないよう、俺も弟妹達も気をつけるようにします」
「うーん、まああそこまで嫌うことはないと思うけどね」
私を嵌めて殺さない限りね。
そのまま私とラウロは馬車に揺られ、ラウロが住んでいる家に着いた。
彼に用意した家は三人で住むには広すぎる家で、オリーネに言った通り、そこらの男爵家の屋敷と同等くらいの大きさだ。
まあ公爵家の本邸に比べたら小さいんだけど。
「送っていただきありがとうございます、アサリア様」
「明日からは正式に騎士として訓練しないといけないわよ、ラウロ。運送屋での仕事よりも何倍もキツイと思うから、覚悟しておきなさい」
「はい、この屋敷をもらうに値する仕事をしたいと思います」
「ええ、頑張って。私の専属騎士になったらもっと大きな屋敷をあげるわ」
「もっと大きな……別にいらないですね」
「まあ、そうよね」
今でも弟妹二人とラウロが住むには大きすぎるくらいだろう。
「だけどもしかしたらあなたも恋人が出来て、結婚して家族が出来るかもしれないわよ? そうなったら部屋とか足りないんじゃないかしら?」
「部屋数は余ってますけど。何人子供が出来れば埋まるんですかね」
「さぁ? あっ、だけどあなた、恋人とか婚約者が出来るのはいいけど……絶対に! 絶対浮気なんかしちゃダメよ!」
私がラウロの顔に指を差して、忠告しておく。
回帰する前の私がやられたことだから、絶対にそれは許さない。
「浮気をしたら、今日会ったオリーネ嬢と同じくらい嫌いになるから」
「っ、わかりました。浮気は死んでもしません」
「うん、それならよろしい」
ラウロはとても強く頷いてくれた。
給金をまともに払わなかった店主にすら律儀にお礼を言っていたラウロだ、彼なら浮気などしないだろう。
「じゃあね、ラウロ。騎士の訓練、頑張ってね」
「はい、アサリア様。精進いたします」
そしてラウロと別れて、私は馬車に乗って本邸に向かった。
回帰する前に出会った最強の聖騎士を手に入れて、しかもオリーネの目の前でラウロを奪ってやった感じが出て、本当に満足だわ。
ラウロもとってもいい男だし、弟妹のレオくんとレナちゃんも可愛いし。
「ふふっ、上手くいきすぎて逆に怖いわね」
私は日が暮れた外の景色を眺めながら、本邸に戻った。
そして、その日の夕食。
お父様と一緒に食堂で食べながら会話をしていた。
「アサリア、専属騎士に相応しい者を見つけたと言っていたが、本当にあの男で大丈夫か? 確かに魔力は平民にしては持っているようだが、戦いの訓練をしたことがないと聞いたが」
私がお父様に頼み込み、ラウロを騎士として育てて、ゆくゆくは私の専属騎士にすると言ったのだ。
結構無理なお願いだったが、お父様は不審に思いながらも受け入れてくれた。
「はい、大丈夫です。ラウロは天賦の才能があります。すぐに他の騎士よりも強くなり、私の専属騎士に相応しい強さを身につけるはずです」
回帰する前のラウロも、この時期におそらくオリーネにスカウトされて訓練を始めたはずだ。
いつ聖騎士に任命されたかは覚えてないが、それでも二年後には他の聖騎士候補を圧倒するほどの強さで、平民なのに聖騎士になったのだ。
すぐに強くなるだろう。
「そうか。ふむ、まあアサリアが言うなら私はいいのだが……」
「? 何かありましたか?」
「アサリアの魔法の訓練を始めるために、イヴァンが明日こちらに戻ってくる」
「っ、イヴァンお兄様が……」
やはり私に魔法を教えてくれるのは、今回もイヴァンお兄様のようだ。
ちょっとだけ身体震えたけど、大丈夫、私は出来るわ、うん。
「訓練は騎士団の訓練場で行うと思うが、大丈夫か?」
「はい、もちろんです」
「うむ、イヴァンは厳しいが腕は確かだ。すでに私よりもおそらく強いから、アサリアの魔法もすぐ上達するだろう」
「は、はい、頑張ります」
「それと、専属騎士になるというラウロも同時に訓練させてやってはどうだ?」
「ラウロもですか?」
「ああ、今から訓練をしてどれだけ早く強くなるかはわからんが、アサリアの専属騎士になるのなら早く強くなった方がいいだろう」
「そうですね、それがいいと思います」
ラウロと訓練をするというのも楽しそうだ。
それに二人なら……イヴァンお兄様の厳しい訓練の負担が、少しは軽減されるんじゃないかな、と思うから。