第二王子クラール君の辺境生活。ちがーう。男好きなんかじゃなーい。(´;ω;`)
クラールはため息をついた。城壁の上から見えるは、岩だらけの殺風景な景色。
ミルトス王国と隣国の国境は、何もない寂しい岩山地帯だった。
ハァ。
何度目か解らないため息が出る。
クラールはミルトス王国の第二王子だ。第二王子であるが故に、策略に陥れられて、国境警備隊へ送られてしまった。
王太子であった兄のランドルが馬鹿な婚約破棄をやらかして王太子から降ろされた時に、これはチャンスだと思った。
「ちょっと待った。父上、それでは私がルディリア・ハルテリス公爵令嬢の婚約者に新たになるのは如何でしょう。」
と、すかさず言ったのだが、父の言葉が酷かった。
「お前が興味があるのは 男 だろう?ルディリア・ハルテリス公爵令嬢に白い結婚を強要する訳にはいかぬ。今まで、ランドルの事で迷惑をかけてきたのだ。」
いやーーーーちがーーーうう。
ルディリア・ハルテリス公爵令嬢に憧れていた。
とても、綺麗な人で。王立学園の廊下を歩く彼女を柱の陰からこっそりと見る事がクラールの幸せな日課だった。
とても美しいルディリア。
クラールは勉強が出来なくて、それでも、第二王子として国の為に役立ちたかった。
だから、良く騎士団へ通って、騎士達に剣技を教えて貰ったりしたのだが。
何故か変な噂が立ち始めた。男性に興味があると皆に思われているようなのだ。
「クラール殿下が、騎士団員と木陰で口づけをしていたと私は聞きましたぞ。」
「ああ、私も聞きました。聞きました。胸板逞しい騎士団員とイチャイチャと。」
ちがーーーううっ。
自分が興味があるのは、ルディリアだっ。
ルディリアが自分の婚約者になってくれたらどんなに幸せか。
「隠さなくても良い。クラール。お前は国境警備隊で2年程、修行をしてこい。
お前の大好きな筋肉ムキムキの警備隊だ。私はお前の事を考えて、だな。
2年とは言わず、一生戻って来なくても構わぬ。」
父である国王にそう言われてしまった。
そして現状、国境警備隊に今、居る訳である。
クラール17歳。
第二王子と言うだけで、何故か国境警備隊の隊長に任命されてしまった。
といっても隣国との関係は良好である。
従って、国境警備隊はとても暇だった。
しかし、彼らの間で流行っているのが、筋肉 である。
逞しい筋肉を作る事が流行っていて、皆、ムキムキモリモリの素晴らしい筋肉を持っていた。
「クラール隊長は筋肉がお好きだとか。」
「いやいや、男が好きだと聞いたぞ。俺は。」
「俺も聞いた聞いた。騎士団員とキスを木陰でしていたとか。」
ちょっと待ったーーー。何故に、その噂がこんな国境まで流れてきているっ??
慌てて否定する。
「私が好きなのは女性だっーー。騎士団員とキスなんてした覚えはないっーー。」
ダンベルを片手に警備隊員が、
「王都の嫁が言ってましたぞ。クラール隊長は騎士団員と出来ているって。」
「ああ、うちのかーちゃんも言っていたなぁ。熱い逢瀬を目撃したって。」
クラールは頭が痛くなる。
「それは嘘だっーーー。私はキスなんてしていないっ。」
「クラール隊長は筋肉がお好きだとか。」
「俺の筋肉見て下さいよ。もう、鍛えまくってモリモリですよーー。」
皆が筋肉をムキムキと自慢して来る。
細身の自分が恨めしい。
独身の隊員の一人が、
「俺、非番なんだ。街へ行って遊んできますっーー。」
「俺も俺も。やはり、非番は女だよな。」
「あそこの娼館のねーちゃんはそれはもう…」
クラールは独身隊員たちに向かって、
「街へ行くなら私も連れて行け。」
隊員達は首を振って、
「皆、クラール隊長の噂は知っていますから、娼館へ行っても断られますよ。」
「ええ、断られます。」
クラールは叫ぶ。
「だからーーー。私はーーー。」
独身隊員達は、クラールを置いてさっさと遊びに行ってしまった。
城壁から見える風景は殺風景な岩山ばかりで。
そーいえば、この間、王宮の書記官がわざわざ来て。
そして、興味なさそーに。
「クラール殿下は、一生独身で警備隊隊長として過ごしましたと記載しておきます。
まさか男に走ったとは書けませんから。あ、詳細は聞きたくないんで。ただ、そのように記載するとご報告しに来たまでです。」
とかなんとか言って、さっさと帰っていった…
人の一生を勝手に記載するなーー。まだ私は 17歳 だぞっーー。
男に走ったと決めるんじゃなーーーい。
そもそも、何でそんな噂が…騎士団か。騎士団へ行っていたのが良くなかったのか。
ああ…騎士達も噂が出回った頃には、あまり構ってくれなくなったもんな…
ああ…なんかいい事ないかなぁ…
何しろ暇でやる事がない。
暇な隊員向けに、本が沢山置いてあるので、クラールは本を読む事にした。
今まで勉強が大嫌いで、王宮の家庭教師からも逃げまくっていたクラール。
読書なんてした事も無かったが、読み始めた恋愛小説がとても面白くて、ランプの灯りの下思いっきり徹夜をしてしまった。
兄の婚約者であったルディリア、とても美しい令嬢だった。
彼女とこんな恋愛をしたかったな。
そう思ったらちょっと悲しくなった。
翌日は一応、砦の見回りを他の警備隊員達としてから、身体を鍛える事にした。
周りはムキムキマッチョ達なのだ。
自分も負けてはいられない。
腹筋から始まり、ダンベルを持ち上げたり、色々と筋肉をつけるように努力した。
剣技の腕も磨きたかった。
騎士団へ通っていたくらいに、剣技が好きだ。
警備隊員達を相手に剣技の腕を磨いた、
「クラール隊長。本当に真面目ですねぇ。」
「それによく本も読んでいますな。」
クラールは本を読むようにした。
歴史書から…色々と。
そして今更ながら、自分は誰かに陥れられたのではないかと。
男好きの噂を流されて…その事に気が付いた。
クラールを陥れて得をする人物。
それは妹のエレーナ王女しかいないだろう。
彼女が王位を継ぐ1位の継承者になったと聞いた。
兄ランドルは男爵家の婿になって王位継承権から外れたのだ。
悔しい。悔しい。悔しい。
だが今の自分はあまりにも無力だ。
それに、王都へもう帰る事も出来ない。
クラールは絶望した。
だが、ここでの暮らしも又、良いのではないかと思えることに驚いた。
寂しい所だ。
街へたまに出かける事があるが、王都と比べて田舎である。
それでも、警備隊長として、砦を見回り、身体を鍛え、読書に励む。
そんな日々でも充実していていいのではないかと、クラールは思えるようになっていた。
そんなとある日の事である。
いつも通りに砦の上を歩いていると、どこからか声が聞こえて来た。
― 聖女達め。結界を強く張りおって。-
- これではこの国に入れんわ。―
- 美しい公爵令嬢がいると聞いた。是非、我が妃に -
- いや、公爵令嬢は我の妃だろう。-
- トカゲの妃なんぞ、気の毒でたまらんわ。-
- 何をっ―― -
何だ?なんの声だ?
ふと空間に目をやれば、金色に光っているヒビが見える。
もしかして、あれは…聖女の結界がほころびかけているのか。
公爵令嬢?優れた公爵令嬢と言えば、ルディリアの事ではないのか。
ピシっとヒビが大きくなる。
あれらが入って来たら、ルディリアは…
自分の母は聖女の力を持っていた。
だから、身をもって祈れば、あのヒビをふさぐ事も出来るかもしれない。
私の祈りはーー。この剣に籠める。そして身をもってヒビをふさぐ。
剣を手に、クラールは飛び上がった。
ヒビへ突っ込んでいく。
ルディリアを守りたいーー。どうか俺の祈りよ。届いてくれ。
剣と身体全体が輝いて、その光がヒビを塞いでいく。しかし、その代償にクラールの身体は消えて行き、そして…すううううっとヒビの先の世界へ吸い込まれて行った。
気が付いてみれば、周りを異形の者達に囲まれいて、
「お前のせいで、ヒビが塞がってしまったではないか。」
「まったく、なんてことをしてくれたんだ。」
「どうしてくれようか。」
長い銀の髪が美しい精霊王と、ネジくれた角を持つ竜王と、白い肌で長い黒髪の魔王が、クラールの顔を覗き込んでいた。皆、美形である。
しかし、三人はクラールの顔をまじまじと見た後、
「この男、知っているぞ。確か、男 に興味があるとか。」
「ああ、我も聞いた。騎士団員とキスをしていたと…」
「私も聞いたぞ。筋肉が好きだと言っていたな。」
「何故っ。今更、その噂をっーーーーーー。私が興味あるのは 女 だっーーー。」
三人が白い目でクラールを見つめていて、
「信じられん。これは確かな噂だ。」
「ムキになる所を見ると、怪しい。」
「まったく、怪しすぎるな。」
「怪しむなーーー。」
やっと忘れて居た事なのに。蒸し返されてイライラした。
「人間が迷いこんで来るなんて、珍しいわねー。」
黒髪の可愛らしい胸の大きい女の子が声をかけて来た。竜王の娘だ。
久しぶりに見る可愛らしい女の子っ。街へ行ったって、田舎町で大した可愛い女の子もいなかったからクラールは嬉しかった。
「本当に、それにとても素敵だわ。」
銀の髪のスレンダーな美人がまじまじと顔を見つめて来る。
精霊王の娘だ。
竜王が二人に向かって、
「こやつは男に興味がある。お前達など相手にはしない。」
クラールは首をぶんぶん振って、
「綺麗なお嬢さん達。私は女性に興味があります。」
竜王の娘も、精霊王の娘もぽっと頬を染める。
竜王の娘が、
「せっかくこちらの世界へ来たのですから、おもてなしを致しますわ。」
精霊王の娘も、
「さぁ、参りましょう。」
二人の美人に囲まれて、クラールは幸せだった。
だが、心のどこかで警鐘が鳴る。
上手い話には気を付けろだ。
豪華な城へ向かって美人二人に囲まれながら、歩いて行く。
「ああ、すまないが。ちょっと…ね…」
クラールは二人に断って、そばを離れた。
そして、猛ダッシュで森を走って逃げる。
ストーンと大きな黒い穴が道に開いていて、そこへクラールは落ちてしまった。
ハっと目が覚めれば、そこは砦にある自室のベッドで。
夢だったのか…それにしてもリアルな夢だったな…
猫耳の少女がクラールの上に跨っていた。
ビキニを着ていて、胸が大きい。
何だか小説に出てくるような女性だぞ。
「危なかったわ。あたしが元の世界へ戻してあげたのよ。」
「君は?」
「ミーニャ。」
女の子は床にスっと降り立って、
「それじゃ帰るわね…あれ?帰れなく…」
「帰れないなら、しばらくここにいるがいいさ。」
クラールは思った。
ヨシっ。まるで小説のような可愛い女の子と知り合う事が出来たぞ。
これで、 男 が好きだと言う噂も消えるだろう。
この可愛い女の子と素敵な恋愛をするのだ。
そう思ったのだが…
ミーニャはにっこりと笑って、
「クラールは、男が好きよね。ここに置いて貰うのは申し訳ないわ。」
そう言って、部屋から出て行ってしまった。
「ミーニャっーーーーー。」
あああああ…どこまで付きまとう、男 が好きな噂。
あれから聖女の結界も壊れる事も無く、ミーニャはどこかへ行ってしまったし…
元の生活に戻ったクラール。
「隊長、筋肉ついてきましたねぇ。」
「本当に、いい筋肉ついていますよ。」
「有難う。ハハハハハ。ここに10年もいれば、筋肉もつくよ。」
クラール第二王子、改めクラール警備隊長は、生涯結婚する事も無く、国境を警備し続けたと言われているのは、王宮の書記官が適当に書いた事。
彼はとある日、街で花屋を営む素朴な女性と出会った。
「男好きのクラール隊長だべか?」
「ちがーーーうっ。まだその噂が。」
「まぁいいだべ、お花、いらないだべか?」
いらないお花をつい買ってしまったクラール。
そんな彼女マーサと、だんだんと親しくなっていき、何だかなし崩し的に、結婚していた。
人生なんてそんなもん。
クラールはしっかりもののマーサと結婚した後も、国境を警備しつつ、二人の間には可愛い女の子にも恵まれて幸せに暮らしたと言う。
クラールの波乱万丈なお話でした。




