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お気に入り小説1

婚約者だった令嬢に裏切られた皇太子は、女神様と共に令嬢の結婚式に出席する。

作者: ユミヨシ

シャルロッテ・アーレンブルク公爵令嬢は、金髪碧眼のそれはもう美しく高貴な令嬢で、この国のレオンシード皇太子の婚約者なのだが、


この令嬢はかなり変わっているとレオンシード皇太子は思っていた。


二人は18歳、卒業と同時に結婚する事になっているのだが、レオンシード皇太子が、シャルロッテをお茶に誘っても、何か話しかけても、シャルロッテはいつも上の空で。


「そうですわね。」

「そう思いますわ。」

「確かにそうですわね。」


レオンシード皇太子が会話を広げようとしても、シャルロッテとの会話は成り立たないのだ。


いつも、上の空なシャルロッテ。


レオンシード皇太子は黒髪碧眼の美男で、学園でも人気の皇太子なのだ。

勉学も出来て、剣技の成績もいい。自分に自信を持っていた。


それが、婚約者の令嬢、一人。まともに会話も出来ず、どう扱っていいのか解らない。


シャルロッテは何を思っているのか?

シャルロッテは何で、こっちを見てくれないのか。

何でだ?何で…


弟であるルイード第二皇子に相談した。


ルイードは、考え込んで、


「不敬が酷ければ、婚約破棄をすると言ってみたらどうです?」


「婚約破棄か…。」


「だって、未来の皇妃としてこのままでは不安でしょう?」


「それはそうだが…。婚約破棄ではなく、このままでは婚約を白紙にせざる得ないと

シャルロッテに話してみてもいいかもしれんな。」


学園で、放課後、シャルロッテを廊下に呼び出す。

周りに人がいない事を確認して、


「シャルロッテ。君は不敬が酷すぎないか?私とのお茶の時は上の空。

君とまともに会話をしたためしがない。このままでは婚約を白紙にせざる得ない。」


「本当ですかっ。白紙にして頂けるんですか?」


「君は皇妃になりたくはないのか?アーレンブルク公爵家だって、皇妃を公爵家から出したいはずだろう?」


シャルロッテは満面の笑みで、


「是非、白紙にしてください。婚約を。わたくし、隣国へ行きたいのです。隣国に留学して彫金の勉強をしたいですわ。皇妃なんてなりたくはありません。わたくしは彫金師になりたいのです。」


「シャルロッテ。」


「お願いですわ。皇太子殿下。わたくし、早く、この学園を退学して隣国へ行きたい。」


「シャルロッテ。君が望むなら。父上にその話をしよう。婚約を白紙にしよう。」


「有難うございます。」


シャルロッテはカーテシーをすると、背を向けて行ってしまった。


あんな嬉しそうな顔を見た事はない。


自分の婚約者で居るより、彫金師になりたいだなんて。


シャルロッテの夢の為に、婚約を白紙にしてやろう。


そう、思ったレオンシード皇太子であったが…



シャルロッテが隣国の皇太子と婚約したと聞いたのは、それから一月後の事だった。

アーレンブルク公爵領も隣国と接している。

アーレンブルク公爵から、隣国へこれからは属するという手紙を貰った。


裏切られたのだ。


父である皇帝が、レオンシード皇太子に、


「隣国で、カイル皇太子とアーレンブルク公爵令嬢シャルロッテとの結婚式が行われるそうだ。招待状が来ているぞ。」


弟のルイード皇子が、


「馬鹿にしていますね。兄上。行かれないでしょう?」


皇帝は首を振って、


「行かない訳にはいくまい。だが私が行く必要はない。レオンシード。お前が行くがいい。」


「私がですか?」


「お前は我が帝国の皇太子だ。当然だろう。」


シャルロッテの…自分を裏切った女の結婚式に行かねばならないとは…


隣国であるミュールゼン帝国は、我がロイディール帝国よりも大国である。

ミュールゼン帝国との仲を悪くするわけにはいかないのだ。


シャルロッテを愛していたわけではない。

あくまでも政略の婚約だった。


だが…悔しい…裏切られた事は悔しかった。



また、レオンシード皇太子はシャルロッテが婚約者だったので、女性を伴って出席が出来ない。


誰か高位の令嬢を連れて、シャルロッテを見返してやりたかった。


レオンシード皇太子は共に結婚式に出席してくれる相手を探すことにした。


シャルロッテより美しく、シャルロッテより素晴らしい高位の令嬢。


そんな令嬢なんているのだろうか?


彼女は優れていた。


誰よりも素晴らしい令嬢だったのだ。






レオンシード皇太子はシャルロッテを見返すために飛んでもない事を決意した。


シャルロッテの結婚式の時だけでいい。神殿に祭られていて、時々、天から降りて来る女神レティナに同伴の相手を頼んでみようと、神をも恐れぬ事を考えたのだ。


この国は女神レティナの加護がある国で、女神様は神殿に時々、姿を現し、神官長や皇帝陛下に、助言をすることは知られていた。


金の髪のとても美しい女神様だと、レオンシード皇太子は噂で聞いていた。


どうしてもシャルロッテの鼻を明かしたい。


自分を裏切ったあの女の前で、綺麗な女神様を同伴して、見せつけたい。


だから、父である皇帝に頼んだ。


「女神レティナに会いたいのです。このままでは悔しくて悔しくて。

シャルロッテに、ミュールゼン帝国のカイル皇太子に一泡吹かせたいのです。」


「それに女神様を利用しようなどどは。女神様の機嫌を悪くしたらそれはもう、まずいのでは?」


「それでも、私は…父上お願いです。」


仕方がないとばかりに、皇帝は神官長に話を通してくれるという事で、


女神レティナが降臨する日に、レオンシード皇太子も立ち合う事を許して貰えた。



そして、その日の夜。月が煌々と差し込む神殿の中庭に、女神レティナが舞い降りる。


それはもう、金髪をなびかせて白い衣を纏い美しかった。


レオンシード皇太子は駆け寄って、女神レティナの前に跪き、


「お願いがございます。」


「なんでしょう?貴方はこの国の皇太子。レオンシード様ですね?」


「はい。実は私は元婚約者シャルロッテに酷い裏切りを受けました。隣国のカイル皇太子に乗り変えたのです。そして私に結婚式に出席しろと。悔しくて。その日一日だけでもいいのです。どうか、私と共に出席して下さいませんか?お美しい女神様。」


「わたくしに、結婚式に出席しろと言うのですか?それも貴方個人のプライドの為に…」


女神レティナは、身を屈めレオンシード皇太子の顎に手をやって、


「イイ男ね…貴方の全てをわたくしに下さるなら、行ってもいいわ。」


「全てを?」


「夫が欲しいと思っていた所なの。わたくしと共に神殿で暮らしてくれるのなら…

共に神になってくれるのなら…どう?」


「皇帝になるのを諦めろというのですか?」


「あら。貴方でなくても、皇帝の位は弟に継がせればいいでしょう。さぁどうしましょう。

たった一日の貴方のプライドの為に、人としての全てを捨てるか。

わたくしとしては、おとなしく一人で隣国の皇太子の結婚式に出席する方を勧めるわ。」


「私はプライドをへし折られたのです。いいでしょう。女神レティナ様。一日、私と共に隣国の皇太子の結婚式に出席して下さいますか?」


「そこまで言うのなら、解りましたわ。本当に愚かな人ね。」


レオンシード皇太子はうっとりと女神レティナを見上げて、


何て美しい…この女神と共にいられるのなら、全てを捨ててもいいと愚かにも思ったのであった。



そして、一月後、隣国のカイル皇太子とシャルロッテとの結婚式にレオンシード皇太子は、女神レティナと共に出席した。


花嫁姿の真っ白なドレスを着たシャルロッテは美しかったが、それを上回る美しさで、女神レティナは周囲の注目を浴びた。


キラキラとしたウエーブのある金髪に金色のドレス。周りには小さな妖精達が羽を羽ばたかせて舞っていて、それをエスコートするレオンシード皇太子は、背も高く、黒衣に金糸の入った衣装が似合っていて、神殿の式場では、皆、主役のカイル皇太子とシャルロッテそっちのけで、そちらに視線が集まった。


「なんて美しい。どこの令嬢だ?」


「レオンシード皇太子と言えば、元、シャルロッテ嬢の婚約者だったはず…あのような美しい女性を伴って来るとは。」


皆、口々に噂をする。



カイル皇太子とシャルロッテにレオンシード皇太子は女神レティナと共に挨拶をする。


「この度はおめでとうございます。」


カイル皇太子は女神レティナの美しさにぼうっと見惚れながら、


「こちらの令嬢はどちらの?」


女神レティナは微笑んで、


「この度、レオンシード皇太子殿下の婚約者になりました、レティナと申します。」


シャルロッテが女神レティナを睨みつけて、


「レティナ?どこの御令嬢かしら。わたくし、貴方の事、知らないわ。」


「そうですの?わたくし、銅像になって、祭られているわ。だって守り神ですもの。」


「え?」


「貴方だってわたくしの銅像を見た事があるはずよ。わたくしの名は、レティナ。女神レティナよ。」


「噓でしょうっ???」



女神レティナはレオンシード皇太子と腕を組んで、


「わたくし、レオンシード様と婚約致しましたの。ロイディール帝国とはさらに結びつきが強くなりますわ。だから、加護を増やそうと思っておりますのよ。」


シャルロッテは悔し気な顔をした。


まさか女神を伴って出席するとは思わなかったのだろう。



結婚式の後も、レオンシード皇太子と女神レティナは人々の注目を浴びて、さながら主役のようだった。


神様なんて間近でめったに見られないものだからだ。


カイル皇太子自身も、女神レティナに興味深々で、


「どうして、女神様がレオンシードの婚約者に?」


女神レティナはレオンシード皇太子にべったりくっつきながら、


「イイ男だからかしら。こんな素敵な方いないわ。」


「我が帝国の方が栄えている。何もレオンシードでなくても、今から私に乗り変えたらどうだ?」


とんでもない事をカイル皇太子は言ってきた。


シャルロッテと結婚したばかりだと言うのに。


シャルロッテは怒り狂って、


「わたくしと結婚したばかりではありませんか?」


「そりゃ、アーレンブルク公爵はもう、ロイディール帝国には戻れないだろう?裏切って我がミュールゼン帝国の傘下に入ったのだから。シャルロッテと結婚したが、君は側室にして、女神様を正室にした方が国の利益になる。」


「酷いわっ。」



女神レティナは微笑んで、


「ごめんなさい。わたくしはロイディール帝国と契約している女神だから、無理だわ。

それに、レオンシード皇太子殿下を愛しておりますのよ。婚約致しましたし。」


レオンシード皇太子は動揺する。


愛しているって…この美しき女神レティナから愛しているって…


何て嬉しい…


レオンシード皇太子は女神レティナの耳元で囁く。


「私もレティナ様の事を愛しております。ずっと私を傍に置いて下さい。レティナ様。」


「そうね…約束ですもの。」



そして、隣国から二人はロイディール帝国へ帰って来た。



レオンシード皇太子は、女神レティナの手を取って、


「約束ですから…私を天へお連れ下さい。」




「うふふふふふ。冗談よ。冗談。」


「冗談?」


女神レティナはホホホと笑って、


「貴方はこの国の皇帝なる運命。わたくしはその運命を捻じ曲げる訳にはいかないわ。

また会いましょう。今度は神殿で。貴方が皇帝になった時に、お告げをしにわたくしは来ますわ。」


「そんな…私は貴方の事が。愛しております。」


女神レティナを抱き締める。


「どうか、私を置いていかないで下さいませんか。」


女神レティナはするりとその腕から抜け出て、


「さようなら。レオンシード皇太子殿下。貴方の御世を楽しみにしていますわ。」



キラキラと輝いて、女神レティナは消えてしまった。



いやだ…。離れたくない。


レオンシード皇太子は、皇帝に頼んだ。


「私を皇太子から降ろして下さい。どうしても女神レティナと添い遂げたいのです。」


「困ったものだ…決意は変わらぬのか?」


「ええ。私はレティナ様を愛しているのですから。」



月の夜、神官長と皇帝が立ち合って、お告げを受ける日、再びレオンシード皇太子はその場に立ち合う。廃嫡して貰ったから、ただのレオンシードだ。


空から光が降り注ぎ、女神レティナが降りて来る。


「まぁレオンシード様。貴方…」


「ええ、皇太子の位を降りました。私はただのレオンシードです。貴方と共にありたい。」


「仕方ない人ね。ロイディール帝国の皇帝よ。神官長よ。わたくしはレオンシードを頂いていきます。夫として。よろしいですか?」


皇帝と神官長は頭を下げて、


「本人の希望ですから。」

「女神様のお心のままに」


女神レティナに抱き締められる。


「嬉しい…わたくしだって、本当は貴方と離れたくはなかった。でも、貴方が皇帝になる未来を潰したくはなかったのよ。神の世界は退屈よ。いいの?」


「かまわない。レティナ様とともにいられるのなら。」


「では、いきましょう。レオンシード様。」


「レティナ様。参りましょう。」



こうして、レオンシードは女神レティナの伴侶となった。




遥か高い山の崖地に女神レティナの神殿がある。


あれから何年経ったか…


大きな水晶玉で、レオンシードは下界の様子を眺めていた。


シャルロッテはカイル皇太子の元で、皇太子妃になったが、カイル皇太子は側室を3人増やしたようで、いつもカリカリと不機嫌だ。


メイドに当たり散らして、ストレスから散財し、周りの人からの評判も悪い。


「シャルロッテが気になるなんて、ここでの生活は退屈だからな。」



「だったら、旅でもすればいいと思うが。」


「そうですわ。旅行に参りましょう。」


女神レティナの神殿に遊びに来ている英雄ディストールとその妻エリーナだ。


女神レティナが近づいてきて、


「そうですわ。皆で旅をしましょう。あっちこっちを見て回りましょう。きっと楽しいわ。」


「それは楽しそうだ。」


皆で旅行する事にした。


ドラゴンの背に乗って、レティナと共に空を飛ぶ。


ディストール夫妻のドラゴンが遥か前に見える。


置いて行かれないように、レティナと共に空を飛ぶその先は、キラキラと日の光が下界を照らしてとても美しく輝いていた。


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