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橘が咲く  作者: 泡沫
中学1年
3/4

邂逅Ⅱ

 青々と茂る木々、森といっても過言ではないだろう。何故だろう、心地よい。

 その大いなる自然の中に、人工の建物がポツンと建っているのは不自然極まりない。

 建っているのは灰色のただの四角い建物。恐らくは4階〜5階建てくらいの高さと思われる。


 不審者さんモトイ風見は私を此処に連れてきた。

 不審といえば不審だ。

 不審者のアジトだろうか。


 抵抗するのも無駄と思って私は風見に着いていった。

 運転手さんとはどうやらお別れのようだ。

 顔もまともに見ることができていないので挨拶もできなかった。と少し残念に思ってしまったが不審者の仲間、つまり誘拐の共犯に挨拶する必要もなかったね。

 あれ、でも挨拶は必要だろうか。


 「この中に入る。触ったら不味いものが多いから気をつけて。」


 彼の説明にも渋々従うことにした。

 何かあってからの方がまずいだろう。彼の機嫌を損ねて殺されたくはない。

 何人かとすれ違うが、皆、スーツだったり現実ではあまりお目にかかれない正統派メイド服(ちゃんとくるぶしくらいまでスカートがあって上品なやつ)だったりする。

 そして、何か、違和感がある。

 たまに、誰かの声が聞こえる、気がする。


 入り口こそ無機質だったが、中は見事だった。


 これは図書館だ。


 蔵書数は数知れず、重厚な木材でできた本棚は見事だ。

 癒される。

 ずっとここで本を読んでいたいかも知れない。


 「此処が気に入ったかい。」


 私の考えを見透かしたようなタイミングで風見が尋ねてきた。

 確かに気に入ったが、それを言うのも癪なので無視した。


 「残念だけど、君をずっと此処に居させるつもりはないんだ。ただ、たまにだったら此処で本を読めるかもね。」


 私の欲を知ってか知らずか、煽るように、私の欲を刺激する。

 唾液が口内を潤す。

 腕をわきわきさせたくなる。


 暫く歩くと、小学生くらいの女の子が現れた。


 「アンタたちが今日のお客?いいわ。つれていってあげる。」


 肩くらいの髪を低く二つ結びをした少女は偉そうに言ってふんぞり返った。

 半袖の紺のワンピースに黒いローファーのようなものを履いた子は私を見ると、ちょっと睨んで先導するように歩いていった。



 暫く歩くと、いかにも図書館という机と椅子が並べられた開けた場所にでた。

 天井は吹き抜けになっていて二階が見える。

 そこにも膨大な本が貯蔵されている。木製の脚立はとても高く、そうでないと本が取れないくらいに壁が本で埋め尽くされている。



 「母様、連れてきたよ。」


 テコテコと走るようにその女性に近づいていく。


 「環、ご苦労様。あと、呼び方間違えてるわよ。」


 「ごめんなさい。結さん。」


 はにかんだ笑みをした少女の頭を結と呼ばれていたボブカットの女性は優しく撫でた。


 「今日は何の用なの。」


 彼女らの隣のテーブル席に座り人目も憚らずだらけている人が話しかけた。

 男?女?よくわからないけどとても綺麗な人だ。こういうのを中世的な美しさというのか。

 ただ彼の顔色は悪く隈ができているようだった。


 「何となく、わかっていると思いますが。この子の力について知っていることがあれば教えて欲しいと思いまして。」


 風見さんは私の頭に手を置いた。

 ムッ!

 此処をは貴女の肘置きとかそーいうんじゃないんですからね!と睨んでもスルーされた。


 「君が勧誘するの?」


 あの人はじっと私を見ているよう。

 でも焦点があっていない気がする。

 私よりもっと遠くを見ているような。


 「勿論。原石を見つけたのは私です。」


 その人はため息をついて姿勢を変えた。

 今度は脚をテーブルの上に乗せてふんぞり返ったような姿勢だ。


 「君はよく拾ってくる。まぁ、いい。何も話していないんだね。端的に云うと、その子は前世から引き継いでいるって感じだね。その子の前世は黒い猫又だったみたい。人間形態をもつ、かなり強いね。私も会った事ある。疲弊している理由は単純な疲労と、過剰な力の暴走だろう。力を使いこなせるようになればある程度落ち着くはずだ。エネルギー効率が悪すぎるから、あの水飲ませておけば応急処置にはなるだろう。まぁあとは、腕輪でも付けといたら。」


 前世?

 猫又?

 会ったことある?

 単体の単語で意味の分からないものなんてないはずなのに、何言っているのか意味が分からない。


 それでも理解したらしい風見とかいう不審者はにんまりと笑ってる。

 なんかムカつく。


 「ご丁寧にありがとうございます。」


 「お持ちしました。件の水と腕輪です。」


 「ありがとう。」


 気づかないうちにどこかへ行っていたらしい結さんは風見に水の入った瓶と腕輪を渡している。


 「不躾ながら、この子を引き入れるつもりですか。」


 「そうだね。彼女の意見を最大限汲みたいとは思うけど。」


 引き入れる?

 何を言っているのか。


 「そうですか。連絡、お忘れなきよう。」


 「忘れずに連絡入れるよ。彼にもそう伝えてくれ。」


 「是非。」


 彼?

 誰のことだろう。


 「では、帰ろうと思ったが、君は本に興味があったね。何冊か見繕うからそれを読みなさい。後、公衆電話を貸すから家族に連絡を入れるように。」


 本が読める?

 怪しい提案だが、本が読めるのなら応じよう。

 だって本が読めるんだもの。

 いくら指定とはいえ本が読める!


 「わかった。」


 私は気づいたら即答していた。


次話以降数話

文献 Ⅰ〜?

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