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橘が咲く  作者: 泡沫
中学1年
2/4

邂逅Ⅰ


-- 

 一歩、一歩、確実に歩みを進める。

 たとえ一歩が小さくてもゆっくりでも前に踏み出せば辿り着けるはずなんだ。

 諦めなければ、辿り着けるはずなんだ。

--



 私は、大きな荷物を背負いながら、家に帰ろうとしている。


 灼熱の太陽がその身を焦がそうとも、

 照りつけようとも、

 一歩ずつ着実に、

 進んでいけば辿り着けるさ。


 意味のわからない、勇気が出そうで苛立ちを煽る、謎の詩が頭の中でぐるぐると延々に流れている。


 草木は青々と茂っている。

彼らだって太陽の光を一身に受けている。

 いや、それは、ただの光合成だな。

そう思ってしまったら、終わりだ。


 この荷物は計画的に持ち帰らなかった自分のせいでもあると思う。

でも、毎日教科書も問題集も重くて重くて仕方がなかったんだ。

足を引きずって歩いているのが自業自得でも、それでも文句は言いたい。


 クソったれーーーー。


 絶対に人前では言えないことも心の中では全開にして言えるのだから。


 目の前が歪んでいる。地面がコンクリートが波打つ絨毯のようで、歩いていて酔ってしまいそう。

 そんなわけにはいかない。

目の前がチカチカとしてきても大丈夫、まだ、動けます。


 あれ、何か頭がふわっとしてーーー。




♦︎♢♦︎


 気がつくと、建物の影になっているところで、見知らぬ男性に抱き抱えられていた。

 うまく頭がまわらず、考えが纏まらない。

 確か、終業式が終わり、下校途中だったはず。


 「気がついた?」


 見知らぬ男性 = 私を抱き抱えている男性 = 不審者 が話しかけてきた。


 これは、やばい。

 コレ ハ ヤバイ。

 これ = ヤバイ。

 語彙が乏しくてその状態もまたヤバい。

 つまり、非常事態。

 今すぐに、この不審者から、離れなければ。

 頭の中にブザーが鳴り響く。

 危険 DANGER 警告 WARNING


 私は急いで不審者の元から離れて距離を取った。

 「はい。迷惑を掛けてすみませんでした。今すぐ立ち去るので見逃してください、不審者さん。」

 私はもの凄い早口で捲し立て、急いで走って逃げたはずだった。


 「助けてもらった相手を不審者呼ばわりとは如何なもの?」

 低く感情のこもっていない声がした。

 不審者は私の腕を掴んで立っていた。先ほど彼から抜け出せたのは彼に私を拘束するつもりがなかったからだろう。

 「具合が悪いんだろう。今、君がどうにかしようとしたって無理だ。」

 「離して。知らない人についていくほど私は不用心じゃないの。」

 不審者さんが言っていることは正しいのかもしれない。でも、不審者さんを信用するに値することがない。

 「用心深いところは評価するよ。でも、離したところで、君、どう見ても大丈夫じゃないだろう。」

 不審者さんは私の腕を離したけれど、私は動けず、座り込んでしまった。

 「五月蠅い。私は、」

 「いい加減、今の自分を認めなよ。」

 彼の言葉は私の心にナイフを突き立てるようだった。認めたくなくて、見たくなかった、私の一面。

 反抗しようと、体に鞭打って動こうとしたけれど、動けず、そのまま目の前が真っ暗になって、意識を手放した。



♦︎♢♦︎

 どれほどの時間が過ぎたのか、気が付くと、見知らぬ車に乗せられていた。


 板か何かで仕切られいて、運転席は見えない。

 私は先程の不審者の隣に座らされていた。

 「起きたんだろう。スポーツ飲料だ。アレルギーがないなら飲むといい。未開封だから安心だ。」

 私は500mlペットボトルに入ったスポーツドリンクを手渡された。ペットボトルは汗をかいていた。

 「ありがとう。」

 私は、とても喉が渇いていたので、そのスポーツドリンクを飲んだ。

 渇いた喉と疲れた体には褒美のようなもので、一気に体が軽くなるような気がした。

 隣で男は長い溜息をついて呆れたような目で見下ろしてきた。

 「やっと素直に返事をしたね。私は風見紫樹という。君は。」

 「月城光橘と言います。」

 どうやらこの不審者さんは風見というらしい。

 相手が名乗ったので自分も名乗ってしまったが、迂闊だっただろうか。

 「私をどうするつもりですか。」

 「只、干からびていたから拾っただけだよ。これから君をどうするかは詳しい人に話を聞いてからにする。でも、大体は決めてるかな。私が思うに恐らく君は、いや、気にすることはない。君の意思を最大限尊重するよ。」

 「胡散臭。」

 うっかり口をついて出てしまった。これはいけない。先に彼と会ってからだが、どうにもリズムが崩されがちだ。

 「酷いな。命の恩人に対して。」

 困ったようにヘラヘラと言っているが、彼の目は笑っていない。

 「貴方に助けてもらえなくても、家に帰ってました。というか、家に返してください。」

 「いや、私がみつけてなかったら今日でなくとも、死んでいたよ。」

 私を見ながら目の前の私を映さない瞳で感傷もなく淡々と言った。

 「どういうこと?」

 「だからそれを詳しい人に聞きにいく。そろそろ着くよ。降りる準備をしなさい。」

 彼は言い聞かせるように言った。


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