性別が逆転した令嬢は婚約破棄されなかった!?
「アイリス・サクランティーア、おまえとの婚約を第一王子であるセシル・アルバイン・アーレンハイトの名において破棄する!!」
卒業式に答辞として卒業生を代表しているアーレンハイトの第一王子が挨拶をしたと思ったら、急に私の名前を呼び婚約を破棄してきた。
「なぜ、ですか殿下!?」
不敬とは分かっていても、つい口から言葉が出てしまう。王子と結ばれるために今ままで大変に辛い妃教育に取り組んできたのに。
私の何がいけなかったのでしょうか。まさか、どこかの小説みたいに好きな人ができたから私に罪をきせて、婚約を破棄するのかしら…
そうであれば、私は何のために…
そんなことを思って気落ちしていると、
「おまえは大変に美しく、教養が豊かで、あまり褒められたもではないオレを支えてくれた。本当に結婚をするならおまえ以外にいないと心からそう思っていた。いや、今も思っている」
と言い出した。今も私を結婚したい相手と思っているのに、なぜ婚約破棄をするのでしょうか。私はいつもよりかのぶとくなった声で、
「今も結婚した方が良い相手だと思っているのならば何故でしょうか?」
と叫んだ。いつもグイグイと来る俺様系のセシル王子が何を言い淀んでるのでしょうか。私がそんなことを思っていると王子は顔を俯かせて何かを呟いている。
「俺だって、朝起きたら、こんなことになってるなんて思っていなくて…」
「殿下、声が小さくてよく聞こえません。上に立つ男として、もっと大きなお声でお話いただけませんでしょうか?」
私の言葉を聞いた殿下は顔をあげてキッと睨んだかと思ったら、
「上に立つ男!? この俺が男? この胸元を見て、わからないのか!?」
と第一と第二のボタンを外し、胸をはだける。
「殿下、おやめください」
王子の行動に咄嗟に駆け寄り、皆にその姿が見えないようにした。
「わかるだろ! 俺は、俺は…」
そう言って、泣き出す王子。
「もう、王位につけぬのだ。この男系継承の我が国ではな」
いつもよりも軽やかな声に鎮痛な顔の殿下の胸元を見ると男性にはないかなり大きな膨らみが…
「おまえが大変に優秀なのは知っている。だが、性別が同じでは結婚などできぬのだ。俺とて破棄などしたくない」
「だが、しないといけない状況になってしまったのだ。卒業式の次の日に結婚式があるから、どんな治療も間に合わない」
「なら、気にすることはありませんよ。我が王子。いえ、我が姫様!」
「奇遇なことに私も本日から男になっております」
「もし、私でよろしければ生涯の伴侶として共に歩んでいけます」
「だが、王位がないのだぞ!?」
「そんな、些細なこと。可愛い女性がおり、婚約をしている。そこに何の問題がありましょうか?」
「本当にいいのか?」
「もちろんだとも、卒業後も一緒に幸せになろう」
私たちはそこで口づけを交わし、愛を誓い合った。
会場は卒業生、在校生からのはちきれんばかりの祝福の拍手。あれ、女性たちから野太い黄色い歓声がする。逆によく確認すると男たちから甲高い声。
もしかし、この国の人、全員の性別が変わってない? 私は戸惑いながら、壇上のセシル王子、もとい愛しの姫と共に自分の座席に戻った。
その後につつがなく卒業式が終わった。しかし、卒業式が終わった後に新たに知った事実があった。どうやらこの国にいる人は全て性別が逆転したようだ。
その所為で、男尊女卑で近隣諸国でも有名な男系継承の我が国が激変した。現、王配の元王妃に政治ができないため、元王が女王となり、国を統治することになった。
貴族は全て男性が当主だったのが女性に変わったため、女性に不利な法律は全て廃止。見た目は変化がなかったことで、ガタイの良いむさ苦しい女ばかりになり、女性から美しい男性貴族となった元奥方たちからの離縁が頻発した。
そのため、夫を平民から迎えることが多くなった。その結果、今まで虐げられてきた女性や平民が性別や階級にとらわれないで、進出できるようになり、この国は新しい社会へと変貌をとげた。
近隣諸国も多少は男性優位であったため、優秀な女性は我が国にたくさんくるようになった。そして、優秀な女性たちを追いかけて男性もたくさん流入する。まさに我が国はこの世の春と言わんばかりに大発展することになった。
☆☆★
ここは結婚式の会場。白く荘厳な教会で、
「こんなオレでいいのだろうか? おまえは後悔しないか?」
と生涯の伴侶となる人に睨まれている。だめだ。いつもと違って弱気で、すごく愛おしいわ。いや、存在が尊いかも…
「何を言っているんだ。君がいいんだよ」
私が心から思うことを素直に言うと顔を真っ赤にして俯く元王子様。いや、私が彼女の王子様に今はなっているのかな。
「後悔するぞ? この出来の悪い。わがまま元王子のお守りはさ」
顔を上げたと思ったら、上目遣いでそんなことを言ってきた。うん、可愛いね。
「妻のわがままを聞くのは男の甲斐性さ。君の可愛らしいそんなわがままを聞くのはやぶさかではないよ」
「おまえ、調子にのりすぎ…」
顔を真っ赤にして強気のふり。そんな状態で、どんな発言をしても可愛いだけだよ。
「なら、オレから最初で最後のお願いだ」
白いウェディングドレスが似合う彼女はこちらを伺うように私の顔を覗き込んできた。
「何かな?」
私は可愛らしい彼女に微笑みを浮かべて、言葉の続きを促す。
「幸せにしてください」
そう言って彼女はハニカミながら、お願いをしてきたのであった。この時に私はこの人を絶対に幸せにしてやろうと思い、生涯をかけて彼女の幸せとこの国の発展のために尽力した。その結果、誰もが知る大帝国としてアーレンハイトは栄えたのであった。
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