第5章〜キモオタの棲家・防衛長官イノリ〜
第5章〜キモオタの棲家・防衛長官イノリ〜
イケメン帝国から見れば最大の障壁であり最大の邪魔者である防衛長官の「イノリ」
イノリはキモオタの歴史の中でも最も防衛に適したスキルを所持していた。
キモオタは数百年の歴史の中で力を合わせてイケメン帝国と戦い続け、どうにかキモオタの棲家である洞穴を死守してきた。
他の長官であるシタンとルマはいずれも純粋な力と技で帝国軍と戦っていたが、イノリに関しては帝国軍は迂闊に近寄ることが出来なかった。イノリがそこにいるだけで「死ぬ」可能性があるからだ。
どんな能力かはわからないが、キモオタの仲間を殺そうとした兵士、爆弾を使い空・地中からキモオタの棲家を爆破しようとした工作兵、遠くから戦場を眺めている高級感のある鎧を身に付けイノリを銃殺しようとした将兵…いずれもイノリと戦闘することなくその場で死んでしまった。
また、イノリと対峙してなお生きて帰った兵士達にも異変が起こった。家庭で待っていた自分の妻や子供、また親族全てが自分を親の敵かの如く嫌っているのだ。朝笑顔で送りだしてくれた家族から戦場から無事に帰ったにも関わらず浴びせられる罵詈雑言…そうなる者は少なくなく家庭を、家族を捨てる他なかった。
イノリの持つその不明な"スキル"のお陰で帝国の被害は深刻だった。また、友人や知人、家族を様々な意味で奪われた者は多く、イノリは帝国兵から並々ならぬ恨みを買っていた。
おそらく敵対する者に作用するスキルであると思われるが、イケメン帝国1の頭脳を持つアルト宰相ですら想像のつかないスキルだった。
ただ一つ言えるのはイノリがいるだけでキモオタの棲家を滅ぼすことが出来ないということだ。
だが、イノリはスキルに頼りすぎていてシタンやルマの様に自分自身の身体能力を鍛えてはいなかった。
そして、アルト宰相はイノリの特徴、というか弱点を見切っていた。
イノリは日曜日の朝8時半から9時すぎまで戦闘活動を停止する。さらに調べるとこの時間帯はテレビで「魔法少女プリキュラ」が放送されている時間であった。イノリは筋金入りの"プリオタ"と見て間違いなかった。
アルト宰相は笑う。恐ろしい能力を持っていようが所詮はキモオタに過ぎん。イノリさえ封じてしまえば数で押せばキモオタ共などすぐに滅ぼすことが出来るのだ。よくよく考えれば過去の戦闘でもこの時間帯にイノリが出現することはなかったのだ。
だからこそアルト宰相はソー准将が唱えたキモオタの殲滅戦に賛同し、日曜日の朝8時半からの30分の間に帝国の全勢力、およそ10万の兵力を持ってキモオタの棲家を叩き潰す作戦を提案した。
キモオタ達の人数は調べによると300人にも満たないようだった。10万の兵力であたれば像の大群が蟻一匹を踏み潰すようなものである。
イチハチ将軍だけは作戦に反対した。放っておけばキモオタはいずれ滅亡するし帝国軍にも多少は被害が出る。この戦いは無意味だ、と。
だが、戦いを好むソー准将と手柄が欲しいアルト宰相が作戦決行を押し切った。何より皇帝陛下がこの戦いを望んでいるのだ。
イケメン帝国の皇帝「エボ皇帝」は両手を叩きながら喜び、作戦を了承した。キモオタは殆どが非戦闘員。マグナムは死に、今回の戦闘では30分間だけでもイノリを封じることが出来ればほぼ勝てる。9時を過ぎてイノリが出てきても帝国の城下付近まで辿りつけば帝国の持つ「リア充結界」のお陰でキモオタであるイノリは物理的に帝国に近づくことは出来ない。
キモオタには"スキル"という魔法のような能力があるが、有効なスキルを持つのはごく一部。スキルを持たない帝国兵達はイチハチ将軍、ソー准将を始め殆どが自らの肉体を、技を極限まで鍛えた兵士達ばかりである。スキルなど無くても互角以上に戦えるのだ。
イケメン帝国の歴史の中で長年の汚点であった「キモオタの棲家」。そこに棲む虫達を一掃出来ると思うとエボ皇帝は胸が踊った。イノリを始末するのは難しいだろうが、そんなことはどうでも良かった。エボ皇帝は良い暇潰しになると笑っていた。




