新アリとキリギリス
新アリとキリギリス
或る夏の暑い盛りの日にアリが汗だくになりふらふらになりながら自分にとって大きな大きなクッキーの欠片を背負って日に照り付けられた道を歩いていました。
それを叢の涼しい日陰で愛用のバイオリンを枕に寝転がりながら眺めていたキリギリスは言いました。
「お~い!、アリ君!この糞熱い中、何で態々そんなしんどい真似をするんだい!」
アリは立ち止まると、強がって、ふんと鼻で笑って見せてから言いました。
「僕はねえ、君みたいな怠け者と違って働き者で頭が良いから冬に備えて食べ物を蓄える為にこうして運んでるんだ!」
「へへへ!そんなの全くの徒労も徒労で無意味で無駄なことだよ!」
「何でだよ!」
「君は一生分からないだろうね、こうして僕みたいにのんびりしてたり遊んでたりしている方が賢くて君みたいにこんな糞熱いのに働く方が如何に馬鹿げてるかということがね!」
「ふん!何言ってやがる!冬になったら君が如何に馬鹿で僕が如何に賢いかが分かるさ!」
アリはそう言い残してしんどい思いをしながら去っていきました。
次に同じ道を矢張り汗だくになりふらふらになりながら自分にとって大きな大きな煎餅の欠片を背負って歩いているアリに向かってキリギリスは言いました。
「お~い!、アリ君!この糞熱い中、何で態々そんなしんどい真似をするんだい!」
アリは立ち止まると、情けなさそうに言いました。
「みんながやってるからさ!」
「僕みたいに自由にしたら良いじゃないか!」
「駄目だよ、仲間外れになるから・・・」
アリはそう言い残してしんどい思いをしながら去っていきました。
「あいつは自分を持ってなくて集団主義だからああなっちゃうんだ。僕みたいに自分を持ってて自由(個人)主義じゃなきゃ人生は楽しめないよ」とキリギリスは思いました。
それからもキリギリスは粋人のように酔狂に耽って暮らし、アリはサラリーマンみたいに皆と一緒によく働いて過ごしました。
そうして夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬へと季節は巡りました。
アリの家には豊富に食べ物がありますが、キリギリスの家には全くありません。而も、もう食べ物が探しても有りませんからキリギリスは飢えに苦しむことになったかと言うと、そうではありません。相変わらずのんびりとしていて今は家の中で静かに眠っています。
その時です。何処からともなく核ミサイルが飛んで来て大爆発し、キリギリスとアリが住んでいるところは勿論のこと、その周りの四方八方数百キロメートルに亘って被爆し、記録的な大惨事となりました。
キリギリスは只、のんびりしていた訳でなく人間の家へ行って社会情勢をラジオで聞いて知っていて、この事態を予測し覚悟していたのです。