第九話:リゼ様を褒めよう!
――その日の深夜。ベイバロン領の酒場に、三人の女たちが集まっていた。
一人目は『デミウルゴス教』の指導者である少女・アリシアだ。
二人目は、獣人族の姫君にして今や街の荒くれ者たちのまとめ役にもなっている金髪の美女・イリーナである。
そして最後の一人は、領主邸にてメイド長を務めている黒髪の少女・ベルであった。街の二大巨頭であるアリシアとイリーナをこの場に集めたのも彼女だ。
ベルは緊張した表情で、この日あったことを二人に語った。
「ご主人様はこうおっしゃっていました。『今は反逆者として疑われたくない。俺が忠臣に見えるように振舞え』と」
「まぁ……!」
「ふむ……!」
ベルの言葉に、アリシアとイリーナの雰囲気が変わった。
「うふっ、うふふふふ! なるほどなるほど、やっぱりそうでしたか! 思っていた通りですねぇイリーナさんっ!」
「そうだなアリシア殿! やはりリゼ殿は、いずれ王族に反逆しようとしているッ!」
彼女たちは予想していたのだ。自分たちを保護してくれた大恩人のリゼが、この国に反旗を翻そうとしていることに――!
「元々答えは出ていましたからねぇ。“平民ごときのために魔法を使うべからず”というふざけた貴族の在り方に対して、真っ向から反抗していましたもの! ああ、やはりリゼ様はこの腐った国を変えるおつもりだったのですねッ!!!」
「うむ! 隣の領地を平気で潰しにかかっていたのも、やはり貴族憎しという気持ちがあったからか!
いやはや……あれには私も痺れたぞ。真っ先に敵になるだろう隣りの領地を経済的に破壊しつつ、儲けた金で何百人と奴隷を集めて兵力の向上を図るとは……!」
「そうそうっ! リゼ様ってばクールだけどお優しくて、でもやる時には容赦なくやっちゃうお人だったんですねぇ!」
徐々にヒートアップしていくアリシアとイリーナ。
元より予想はしていたものの、リゼの口から直に反逆を考えている言葉が出たということが本当に嬉しいのだ。
片や邪教として信仰を否定され、片や国を潰された彼女たちである。貴族や王族に対する恨みは計り知れないほどに積もっていた。
リゼへの称賛やこの国の腐敗っぷりを上機嫌で語っていく二人に、メイド長のベルも割って入る。
「ご主人様はとても良い方です。貴族なんてみんな鬼畜野郎だと思っていたのですが、ご主人様は奴隷の身分であるわたしたちにもとっても良くしてくれて、お給料だってたくさん支払ってくれるんですよ?
人間ではなく『物』となった奴隷には、賃金を支払う必要がないという法律があるのに……!」
「うふふ、リゼ様はそういう人ですからね~!」
「ああ……獣人族である私にも対等に接してくれる御仁だ。彼が王となれば、どれだけ良いことか……!」
ほがらかな笑みを浮かべながら、三人の女たちは静かに誓うのだった。
どんなことをしてでも、恩人であるリゼのことを絶対に王にしてみせようと……!
――なお、
「ハーックションッ! ……うーん、今夜はちょっぴり冷えるな~?」
三人のリゼに対する印象は、まったくの見当違いである――!
クールなのは顔だけで、中身は考えなしの天然鬼畜野郎だ。コピー品をバラまいて隣の領地を荒らしまくった作戦だって、“俺はお金が儲かるし、隣の民衆は喜ぶから”と善意のつもりで実行しているのだから質が悪い。
思考の浅すぎるこの男は、いずれオリジナルの店舗が潰れて領地が弱り果てるという当たり前の未来すらわからずやらかしているのだ。
奴隷たちに優しくしたり給料を支払ったりしているのも、自己保身のためと、そもそも法律をほとんど知らないからである――!
「よし、こんな夜はさっさと寝るに限るな。有能領主であるリゼ様は体調管理も万全なのだッ!」
などと言いつつ、もぞもぞとベッドに潜り込む有能領主(自称)。
彼は知らない。考えなしに国家に恨みを持つ者ばかりを集め続けてしまったため、釘を刺すつもりで言った『今は反逆者として疑われたくない』という言葉が、まったく別の意味で捉えられているということに。
そしてこうしている間にも、三人の女たちが勝手に反逆の計画を推し進めていることに――!
「むにゃむにゃ……ふへへっ、王様ー……ベイバロン領を立派にしたぞー……俺のことを褒めてくれー……そして金くれ……!」
色々と手遅れになっていく現実に気付かず、リゼは幸せな夢の中に落ちていくのだった……!
ゲームモノを書かれている「稲村」さまと、ファンタジーモノを書かれている「のびしろ」さまと「naturalsoft」さまよりレビューをいただきました! ありがとうございます!
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