第七話:犯してみよう、知的財産権!
――『傷病奴隷』を引き取ってから一か月。奴隷の数が、数人から百人くらいにまで激増した。
って、しまったぁぁあああああッ!!? 調子に乗り過ぎたぁぁあああッ!!!
傷を治してやったら泣いて喜んでくれるし、領民たちも「リゼ様お優しいッ!」ってめちゃくちゃ褒めてくれるから、後先考えずに集めまくった結果がコレだよッ!
……まぁいいんだけどさー。食料や木材が採り放題になったことで、今やベイバロン領は怖いくらいの勢いで発展中だ。そこらじゅうで人手が求められてるからな。
でもおかげでお財布がすっからかんになっちまった。あーあ、超有能領主の俺としたことがやっちまったぜ。
こうなったらもっと税率を上げて、みんなからお金を巻き上げたり……するのも怖いな、うん。
最近はみんな真面目に働いてくれてるけど、所詮はベイバロン領の鬼畜野郎どもだもん。税率上がると知った瞬間に殺しに来るに違いないって。
――というわけで、税金のルールはこれまで通りに『余裕のありそうなときに儲けの一割か食べ物ちょこっと』でいいな、うん! 他の領はどうなってんのか知らないけど、おじいちゃんの代から続いてるルールだから大切に守っていこう!
と、俺が書斎にて頭を頑張って使っていた時だ。元奴隷のメイドが遠慮がちに声をかけてきた。
「失礼します、ご主人様。リンゴを切って持ってきたのですが……お邪魔でした?」
「いや、大丈夫だ。……少し資金繰りについて考えていてな」
「そっ、そうだったのですかっ!? 申し訳ありませんご主人様ッ! ご主人様の崇高なるお考えの途中に、水を差してしまって……っ!」
「フッ、気にするな。頭を使ってちょうど甘いものが欲しくなったところだ」
それにもう答えは出たからな。頭を頑張って使った結果、『まぁ現状維持でいいや』という崇高すぎる結論が!
だってヘタにルールを変えようとすると疲れるし反発喰らう可能性があるけど、何もしなければリスクゼロで済むからね。天才かよ俺。
……あーでもなー、やっぱりお金は欲しいよなぁー。どうしよっかなー。
そんなことを考えながら、リンゴを一切れ口に運んだ時だ。
俺はふと思った。
「……そういえばこれは、隣の『ボンクレー』領に行ったときに買ってきたものだったな。確かあそこはリンゴの生産で盛んな領地なんだったか」
「えっ、ええ……あそこのリンゴは国でも有名らしいですね……」
ボンクレー領の名を出すと、メイドの顔がわずかに曇った。そういえばこいつが売られていたのもボンクレー領だったからな。少し失言だったか。
まぁそれはともかく、俺はいいことを思い付いてしまった!
今や俺の回復魔法は、植物の種を一瞬で成長させることが出来るのだ。それに葉っぱの一枚でもあれば、まったく同じ品質の植物を安定して量産することが出来るわけで――!
よぉおおおおおおおし決めたッ! ボンクレー領の最高級リンゴをコピーしまくって、向こうの土地でこっそりと安く売りまくろうッ!
こんなん大儲け不可避じゃねぇかッ! リゼくん頭良いいいいいいいッ!!!
この作戦をメイドに話してみると、曇っていた表情をパァっと晴れやかにさせて、「やりましょうッ! ぜひともやってやりましょうッ!!!」となぜかハイテンションで手を取ってくるのだった。
◆ ◇ ◆
「――なんだこりゃうめぇぇえッ! このリンゴ、五個買わせてくれ!」
「オレには十個頼む!!!」
はーっはっはっはっは! 俺が思いついた作戦は見事に大成功だったッ!
どうせ何百個でもコピーできるんだから、覗きに来た連中に太っ腹に『試食』をさせてみたところ、みんな「美味しい!」と言ってたくさん買っていってくれた!
ああ、お客さんたち幸せそうだったなぁ。だってボンクレー領の最高級リンゴが普通の値段で手に入っちゃったんだもんね!
そうやって儲けたお金でさらに『傷病奴隷』たちを買いまくって癒してやったら、あいつらもみんな俺に感謝してくれてたね!
ふふふふ、お金儲けって楽しいなぁ! 俺は儲かってハッピー! お客さんたちもハッピー! それで買われた奴隷ちゃんたちもハッピーで、みんな笑顔になっちゃったね!
そうだ、今度はボンクレーの最高級茶葉や毛皮商品もコピーしてみようかな!
俺の回復魔法を使えば素材は量産し放題だし、植物類や皮類の加工技術に優れた獣人族の人たちがいるからね!
あいつらの手にかかれば、オリジナルとまったく変わらない物が出来るだろう! それを安く売ったらボンクレー領のお客さんたち、もっと喜んでくれるぞいっ!
フフン、ボンクレー領の領主よッ! この癒し系ハートフル領主のリゼ様に感謝しろよな! はっはっはっはっは! 平和ーッ!
※ボンクレー領の有名店がたくさん廃業に追い込まれました。