番外編:すべての元凶、リゼ・ベイバロン!!!
ホームを開くと分かりますが、このたびなろう様にお便りメッセージを書かせていただきました!
でもなろう様は私の名前の後ろにある「馬路まんじ『@底辺領主&貧乏令嬢&ブレスキ書籍化!』」という部分まで掲載してくれちゃいました……!
「馬路まんじ@底辺領主&貧乏令嬢&ブレスキ書籍化!」とかいう自己主張たっぷりの名前が全ユーザーの眼に飛び込むと思うと、胸がどきどきしてたまりませんねっ!(※アンチ激増的な意味で)
『テメざッけんじゃネェぞアァァアァァンッッ!? 元死刑囚舐めてんのかオォォォォオオンッ!?』
『何だとオラァァアァアンンッ!? 伝染病移すぞアァアアアンッ!?』
……朝っぱらから最悪の気分だった。
外から聞こえてくる異常者どもの叫びを聞きながら、ボクはボロボロの領主邸で具のないスープをズルズルと啜っていた。
五歳のボクでもよくわかるよ――ボクの領地『ベイバロン』は完全に終わっていた。
土地はやせ細っている上に害獣は多く、作物なんてろくに採れやしない。
さらに領民もやべー奴らばかりだ。どっかの土地から逃げてきた犯罪者どもに、追い払われてきた病人や亜人種や異教徒たちばっかだ。
絶望顔のお父様も何も考えてない幼女みたいなお母様もお酒ばっか飲んでるしね。今だって二日酔いに苦しんでいて、もうとっくに朝なのにベッドから起きてこないしさ。
ああ、アルコールに逃げたところで現実が変わるわけではないだろうに……それとも肝硬変のリスクを高めて、遠回しな自殺でもしたいんだろうか?
どうしようもない生活環境を思い、堪らずため息が出てしまった。
「はぁ……お父様はボクのことを『よしッ、第一関門突破だ! 母親にまっっったく似ず、どちゃくそ賢い子が生まれてくれた! これで私のようにネガティブにならず育ってくれれば、まともな領主に……!』とか言ってたけど、そんなの無理だよ……」
いつかはこの地を治めなければいけないと思うと、絶望で表情が暗くなりそうだ。
これで『攻撃魔法』が使えたのならまだよかったんだけど、どうやらボクには『回復魔法』の才能しかないらしい。このままでは凶悪な領民たちに遊び半分に殺されるに決まってる。
はぁ、運もなければ才能もないなんて……ボクはなんてダメなやつなんだろう。
こんなクズみたいな命、消えたところできっとこの世は何事もなく回り続けるんだろうなぁ。
そんな虚しいことを考えていた、その時――、
「――オラァァァァアアアッ! ここが領主の屋敷かぁぁぁあああああ!」
「っ!?」
突如として扉を突き破り、何十人もの武装した男たちが居間へと踏み込んできた!
誰も彼もが凶悪そうな顔付きをしていることから、おそらくはどこかから逃げてきたお尋ね者の一味なのだろう。リーダーらしき男が大剣を抜きながら吼え叫ぶ。
「クハハハハハハハハハッ! わりぃが今日からこの地はオレたちが支配させてもらうぜぇッ!
……って、なんだよガキ一人かよ? おいテメェ、親父はどうした。ぶっ殺すから出せやコラッ!」
「ひっ……お、お父様は、その……!」
言えない、まさか土地を守護する役目の領主が二日酔いで泥酔しているなんて言えるわけがない……! それで屋敷に踏み込まれるとかアホすぎる。
あのクソお父様、なんてタイミングで寝てるんだよチクショウッ!
「へっ、まぁいいや」
口ごもるボクの顔を見てリーダー格の男は笑うと、剣の切っ先を向けてきた――!
「何にせよ、テメェら家族は皆殺しにする予定だからなぁ。ガキ一人だって逃がしやしねぇ、このベイバロン家を滅ぼしてオレが新しい領主になるんだからよぉ!」
そうしてついに掲げられた大剣。ボクを頭から両断すべく、男は容赦なくそれを振り下ろしてきた!
「死ねやオラァアアアアアアッ!」
「ひぃいいいいいいいーーーーッ!?」
もはや身を縮こませることしか出来なかった。なぜならボクは、擦り傷を塞ぐくらいの回復魔法しか使えない無能なのだから……!
ああ、こんなところでボクの人生はおしまいなのか。底辺の地に生まれて、貴族とは名ばかりの貧乏な日々を送り、最後はこんなチンピラどもに雑に殺されて終了なのか。
迫りくる死の直前、ろくでもない人生を振り返りながら絶望しかけた――その時、
「――控えろ貴様ら。誰に対して剣を向けている」
凛と響き渡る声。
それと同時に『輝く牛』が光線のごとく放たれ、大剣を持った男を横合いから吹き飛ばした!
「がはぁあああああッ!?」
全ては一瞬のことだった。屈強な男の身体は胸から下が千切れ飛び、苦悶の絶叫が屋敷に響く。
「なっ、なんだ、何が起きたんだ!?」
「リーダーの身体が、いきなり!?」
「今のは……牛!?」
突然の出来事に騒ぎ出すチンピラ集団。
だが一番戸惑っているのは殺されかけていたボクだった。
魔法使いだからこそわかる。今のは何らかの魔法によるものだろうが、牛を飛ばすなんて魔法は聞いたことがない。そもそも一体、誰が助けてくれたというのか。
困惑するボクと共に、上半身だけになったリーダー格の男が恨めしそうに牛の飛んできたほうを見る。
「がはっ……て、テメェ、は……一体……ッ!?」
「ほう、息があるのか。ならば死に際に覚えておけ」
そこに立っていたのは、射抜くような冷たい目をした一人の男だった。
ボクらの視線を一身に受けた彼は、おそらくは伴侶なのだろう絶世の美女を侍らせながら堂々と告げる。
「俺の名前はリゼ・ベイバロン。遥か未来からやってきた、この地の王と知るがいい――!」
『モォオオオオオオーーーーーーーーッ!!!』
そして放たれる牛の光線群! 彼の周囲の空間が歪むや、漆黒の光を放つ牛がチンピラどもへと放たれていった。
その威力たるや凄絶の一言だ。音を置き去りにするほどの速さで突撃した牛は彼らを一瞬にしてバラバラにし、さらには屋敷の壁を貫いて遠くにある丘へと直撃! ドゴォオオオオオオオオオオオオンッというものすごい轟音を立てて丘が爆散し、巨大なキノコ雲がもくもくと上がったのだった……!
「は……はえ、え……!?」
あまりの破壊力に言葉が出ない……なぜかボクと同じ名前を名乗った男の力は、もはや人間の領域ではない。
まさに神域……物語の中にのみ登場を許される、絶対的な『英雄』の力だ。傍らに翼を生やした女神のごとき美女を従えていることもあり、とても現実の存在とは思えなかった。
彼は座り込んでしまったボクにそっと手を差し出すと、ふわりと優しく微笑を浮かべた。
「立てるか、少年よ」
ああ……汚らしい悪を一瞬で滅ぼし、被害者を気遣うその優しき姿は、まさに英雄そのものだ。
キノコ雲から吹き込んでくる塵すらもが、彼の後光を受けて輝いて見えるくらいに。
「は、はい……!」
そうしてボクが手を伸ばそうとした――その時、
「ぐはっ、げほォッ!?」
突然ボクの口から血が溢れ出し、全身がカタガタと震え始めた!
一体何が起きているのか……それすらもわからず、ボクは意識を手放してしまったのだった――。
◆ ◇ ◆
「あっ、コイツ被爆しやがった」
『もやしっ子じゃのぉ』
――結論から言おう。幼少期のリゼ・ベイバロンは未来の自分が放った『核分裂牛』の放射能に当てられ、哀れなことに死にそうになっていた。
それもこれも未来のリゼ・ベイバロンが『う~ん、ブラックホール牛を出すと星が消し飛ぶし手加減して核分裂にしておくか~』と足りない脳みそで考えた結果である。これがIQ2のクォリティだ。
だが常識がぶっ壊れたド畜生どもにとっては放射能で死ぬほうがおかしな話なのだ。彼らは血を吐く幼少期リゼをブンブンとゆすり、二人してペシペシと頬を叩き続けた。
「おい目を覚ませ俺、核分裂牛の放射能になんて負けるなっ! ちょっと回復魔法で遺伝子を改造して耐性を刻み込めば耐えられるだろう!」
『そうじゃそうじゃ! むしろ細胞が弾ける感覚が気持ちいいじゃろッ!』
……などと抜かすトンチキ鬼畜幼児脳とクソマゾ爆乳老害脳。
平気で宇宙をぶっ壊し合うような決戦をするコイツらにとって、放射能で倒れることなど日射病でふらつくのと同等くらいの問題であった。二人して『男の子ならシャキっとしろよ~』くらいに思っていた。最悪である。
だが現実問題、幼少期のリゼが死にかけているのは問題であった。おかげで未来のリゼの身体まで徐々に透けていっているのだから。
まさにリゼの敵連中からしたら奇跡の瞬間だった。ボケているヤルダバートと違い、コイツが英雄でも何でもない危険人物だと気付いているスネイルやジャイコフが知ったら、泣いて小躍りする事態だろう。
リゼは薄れていく自分の身体を見ながらやれやれと息を吐いた。
「はぁ、魔力が上昇した原因を探りに来ただけだというのに面倒なことになったな」
『フフフフッ、儂は結構嬉しいぞ? 貴様の死を見届けるのが他の誰でもなくこの儂一人だと思うと、なんというか悲しくも興奮するのぉ……!』
「お前そんなんだからアリシアとイリーナに嫌われるんだよ。あと死なないし。回復魔法ほいっと」
頬を赤くするクソ女神を睨みつけながら、リゼは軽く手を振るった。
たったそれだけで死にかけていた幼少期のリゼは回復し、崩壊した丘や穴の開いた領主邸までもが元通りとなったのだった。頭はぶっ壊れているが相変わらずの何でもありっぷりである。
ちなみに、二日酔いのところに放射能を食らって悶絶死していた両親のほうも一応治しておいた。どうせ十年くらいしたら死ぬわけだが。
「ふぅ、これでよしっと。ついでに幼少期の俺の遺伝子には放射能耐性を付けておいてっと……」
『おぉ、それならついでになよなよしてそうな性格も直しておかんか? 儂の推しているリゼ・ベイバロンはチンピラごときに震えんわ。解釈違いもいいところじゃ』
「お前の解釈なんて知らないんだが……まぁそれもそうだな。脳みそを少しイジくって自己愛を高めておこう。何倍くらいがいいと思う?」
『今日は5月12日じゃから512倍くらいにしておこうかのぉ』
「んな適当な……まぁいいか。自分を大切に思うことが大切だからな」
『お、名言じゃのぉ~!』
……などと適当な話をしながら、過去の自分をものすごく雑に改造していくリゼ・ベイバロン。
過去の自分が脳みそに回復魔法を当てられた瞬間「アババババババッ!?」と泡を吹いて痙攣しだすが、未来のリゼはまったく意に介さない。いつだってコイツが大切なのは今の自分なのだから。
「あっ、間違って自己愛を5012倍にしちまった。まぁいいか」
『うむ、自己愛は大切じゃよ。息子のヨハンにも自信を持ってほしいものじゃ。あいつはなぜか最近塞ぎがちじゃからのぉ……』
「そら百三十歳の父親が爆乳女神に性転換したら鬱になるだろ普通」
『原因は儂かーッ!?』
そんなアットホームな会話(?)をしつつ、ついにリゼの施術が完了した。
放射能耐性を捻じ込んだことでもう核分裂牛の肉を食べようが被爆しない。……ちなみにこのおかげでヤルダバートとの最終決戦時、核分裂牛を放っても自分は被爆しなかったのだが未来のリゼは気付いていない。
また自己愛を5012倍にしたことで思考回路がぶっ壊れてしまったわけだが、そのへんについてもリゼは気にしていなかった。
『未来の自分はこんなに素晴らしいんだから問題なんてないだろうたぶん』という完全に自己愛に狂った考えの下、これで良しと施術の結果に納得するのだった。良いわけがないだろうに。
「はい完了っと。ついでに俺たちに出会った記憶も消しておいたから混乱することもないだろう。
さぁて……なんか魔力が上昇した原因とかどうでもよくなってきたし、せっかくだから時間旅行でもしてみるか。ベイバロン領がない時代のこの地に飛んでみたりな」
『おぉ、たしかにそっちのほうが気になるのぉ! 儂が王となった時にはいつの間にかこの地は狂人たちの巣窟となっていたわけだが、はてさてどうしてそんなことになったのやら』
「さてな。頭のおかしい連中をかき集めた頭のおかしいリーダーでも現れたんじゃないか?
よし、その時代の頭のおかしい連中をかき集めて誰がその頭のおかしいリーダーか見極めてやろうじゃないか。未来のベイバロン領が良くなるように俺が成敗してやろう」
『オッケー!』
……果てしなく頭のおかしくなるような話をしながら、リゼはふよふよと浮く半ボケ女神を引き連れて去っていく。
ちなみにこの後、頭のおかしい連中をかき集めた頭のおかしいリーダーことリゼ・ベイバロンは、世界中から頭のおかしい連中を集めたところでお腹がすいてきたので、アリシアやイリーナとお昼ご飯を食べるために未来に帰って行ったのだった。しかも昼寝して起きた後なんかどうでもよくなって永遠にその時代に返ってこなかったという最悪ぶりであり。
そんなこんなで頭のおかしい最悪の領地、『ベイバロン領』がついに爆誕。珍獣動物園の開園である。
かくして全ての元凶である最低最悪の英雄と女神が去った後、幼き頃のリゼはむくりと身を起こした。
「……あ、れ、ボクは……『俺』は一体、何をしてたんだ……?」
未来の自分に影響されて口調がわずかに変わっていることにも気付かず、幼きリゼは頭を掻く。
ああ、どうして倒れこんでいたのだろうか。もしも病気なら勘弁してほしい。
だって――自分の命はこの世の何よりも尊いのだから……!
自身の価値をおぞましいほど認めたことでリゼの魔力が爆発的にたぎっていく。
こんなに素晴らしい自分だからこそ、生きるためなら喜んで媚びだって売ってやろう。常識もルールももはや知らない。IQは300から3に堕ちた。
こうして未来の底辺領主、『リゼ・ベイバロン』が爆誕したのだった――! 最悪である。
・みなさまが書籍版『底辺領主』を手に取ってくれたおかげで、11万字ちょいしかないこの小説ですが、このたびコミカライズに加えて『二巻の発売』が決定しました!!!発売はざっくり冬です!
やったー!(※出版に必要な文字数は10万)
はい、いちばん鬼畜なのは株式会社オーバーラップだと思います……! がんばって9万字ひねり出すので、ぜひぜひ本屋さんで無理やり絞り出した涙の二巻を手に取ってみてください……!
『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『毎秒更新しろ!』
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