第四話:移民に媚びよう!
俺が『デミウルゴス教』とやらに入ってから一週間。100人ほどだった信徒が、3000人に膨れ上がったらしい。
ってどうしてそうなった……! どんな勧誘テクを発揮したらそんなことになるんだよッ!?
銀髪シスターのアリシアに何をしたのか聞いてみると、“貴族は平民のために魔法の力を使うべきである”という教義に加えて、“ゆえに、それを率先しているリゼ様こそ真の貴族ッ! 彼以外の貴族・王族は全て劣等ゴミムシなのですッ!”と語ったら、万雷の喝さいを受けて信者がモリモリ増えたらしい。なんて女だコイツ。
……まぁ、元からデミウルゴス教の教義は平民にとって魅力的なものだったからな。それに加えて、俺が好感度を稼いだ連中にそんなことを語れば喜んで入るか。
うーん、でもこんな教団を領内に抱え持ってることが他の貴族なんかにバレたら、間違いなく問題に……ま、いっか。
なにせベイバロン領といえば、犯罪者に脱走者によくわからない病気の人たちの最終逃亡地点として有名だからな! 変な宗教の一つや二つくらい、『あ、邪教あるじゃん! さすがベイバロン領だな!』って感じで見逃してくれるだろ。
つーかウチの領、貴族どころか旅行者すらも来たことねぇし。この世の最底辺として扱われてるみたいだし。泣ける。
――そんなことを思いながら領内を視察して周っていると、不意に『イヌ耳』の女が駆け寄ってきた。
「おーいリゼ殿よっ! 今日も仕事に励んでいるのか!?」
金色の髪を靡かせながら、元気な笑顔で声をかけてきたイヌ耳美女。
彼女こそ、ベイバロン領の外れにある森を我が物顔で乗っ取っている『獣人族』のリーダー、イリーナである。
たしか数年ほど前だったか。俺んところの国が獣人の国を攻め滅ぼし、コイツらのことを奴隷種族としてとっ捕まえてきたのだ。
それ以降、獣人たちは各地で過酷な労働を強いられており、このイリーナと数十人の仲間たちはそんな環境に耐えかねてどっかから逃げてきたそうだ。
そのような過去があり、最初は俺に対しても警戒心剥き出しだったのだが――仲間たちの怪我を治療してやって、山ほど肉をくれてやったら、コイツら喜んで尻尾を振りやがった。うむ、ちょろい
「今日も元気だな、イリーナ。仲間たちの調子はどうだ?」
「うむっ! リゼ殿の治療のおかげでみんな絶好調だぞ! それに食料もたくさんくれたし、貴殿は本当にいい奴だ!」
はっはっは、いいってことよ!
……チンピラ共に狩らせまくった害獣どもの死骸、どうしようか困ってたからなぁー。
イノシシとかだったら捌いて食えたんだが、ベイバロン領に生息している害獣どもは、近ごろ動物の枠から追い出されて『モンスター』という分類にカテゴライズされたやべー奴らばかりだ。
スライムは酸性で食えないし、ゴブリンの肉はめちゃくちゃ臭いし、スケルトンはそもそも骨だけだしさ。
だけど、そんな奴らを数百体も燃やすとなるとかなりの油代がかかるし、でもしっかりと燃やさないと再生することもあるっていう謎生物どもだからなー。
さてどうするべきかと迷っていたところで、俺は『獣人族』の存在を思い出したのだ。
大自然の中で暮らしていただけあって、害獣ことモンスター共だって平気で食べてきたらしい。ゆえにモンスターの調理法も心得ており、試しに死骸の山をプレゼントしてやったら大喜びで受け取ってくれた。
まぁモンスターの肉って腐りづらいのを通り越して蘇ってくるからな。お腹の中で復活されたら堪ったもんじゃないんだけど、よく食えるなーコイツら。
「さて、リゼ殿の顔も見れたし日が暮れる前に帰るとしよう。遅くなると爺やがうるさいからなぁー」
「ああ、お前のことを『姫様』と呼んでる爺さんか。獣人族には王族以外にいくつかの部族があったらしいが、やはりイリーナはどこかの族長の娘だったりするのか?」
「んっ、んー……まぁそんなところだな! ていうかリゼ殿も使用人の一人くらい雇えよ!」
ってうっさいわ! お給料支払えるだけの余裕がないんじゃい! どうせ俺一人だから、世話されるまでもないやいバカーっ!
――そんな悔しさを胸に秘め、元気に去っていく金髪イヌ耳美女を見送るのだった。
◆ ◇ ◆
――イリーナにとって、リゼはまさしく『救世主』だった。
逃亡生活の中で傷付いた同胞たちを癒してくれただけはない。
狩りの難しさから、獣人国では高級食に値するモンスターの肉を山ほど与えてくれた上、森に住まうことを正式に許可してくれたのだ。
久々に食べた美食の味に、獣人たちはむせび泣いた。イリーナもまた、その懐かしい味わいから昔を思い出して涙した。
その夜、数年ぶりに持った『自分たちの土地』で寝る気分は格別だった。
コソコソと各地を逃げ回っては、ネズミのように生きる生活を送ってきたイリーナたち。
そんな日々の中で傷付いていった尊厳が、癒されていくような気がした。
ゆえにイリーナは決意する。
リゼから受けた莫大な恩義。これに報いなければならないと。
「――同胞たちよ。この先どのようなことがあっても、私についてきてくれるな?」
『ははぁ――――ッ!!!』
凛とした声で問うイリーナに、獣人たちは一斉に跪いて頭を垂れた。
“恩人であるリゼを害そうとする者は、命を懸けてでも滅殺する。たとえそれが、この国の王であろうとも――!”
それが――獣人国最後の王族、『イリーナ姫』の下した決定であった。
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